王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範

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第2話 アドリアン①

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 またやってしまった。どうして余はそうなんだ。大好きなオリビアを傷つけるような言い方をしてしまう。
 そもそも彼女と初めて会ったときから恋に堕ちていた。
 その端整な顔立ち、吸い込まれそうな透き通ったブルーの瞳。まるで生きた宝石だ。見とれて完全に固まった。

 余は、あの頃から子どもだったのだ。彼女の「殿下。私をお気に召しまして?」という冗談に反発した。「勘違いはやめたまえ。神より祝福があった顔立ちと噂されていたから確かめただけだ。なるほど噂違わぬ整った顔立ちだが私の好みではない」と言ってしまった──。

 言ってしまったのだ。当時六歳だぞ? そのくらい勘弁してくれたっていいだろう。
 それからだ。オリビアは私と謁見するたびに定型文を読み上げた挨拶をするとプイと目を逸らす。
 なにくそと思ったが、余計に彼女が私の心の中に住み着いてしまった。彼女の気を惹きたい気持ちが大きくなった。

 彼女が八歳。私が九歳の時、避暑のために高原の小城に遊びに行った。公爵家の領地であったために、彼女が遊びに来た。私は彼女と話したかった。
 だが彼女は抱いていた人形と、もそもそ話をしていて余のことなど気にしない。
 腹が立って人形の手を引きちぎってしまった。あれはやり過ぎた。オリビアは泣いてしまい、ますます私は嫌われたのだ。

 なぜだ! 余は愛するオリビアに気を向けられないと異常な面が出て来る。残虐に彼女を壊してしまいたくなるのだ。
 おかしい。余はどうなってしまったのだ。狂おしいほどオリビアに心を奪われたことが分かる。

 彼女に嫌われてしまったことが分かる。しかしどうしても自分のものにしたい。出来ないなら下僕に落ち、顔を焼き喉を潰し、別人となってもいいから彼女のそばにいたい。そんな狂った考えまで思いつくようになってしまった。



 十七歳となったとき、オリビアと結婚した。父王に一年早めて貰っての結婚だった。
 私は当時王太子。この国で二番目に偉いのだ。威信。権威。彼女はこの余にひざまずいて初夜の主導権を渡すだろうとウキウキしていた。
 長い長い結婚式も、その後のお楽しみの想像でぜんっぜん覚えていない。

 結果──。未だに何も出来ていない。あの拒絶した美しい顔は、余を王子の座から引きずり落として威厳も何も許さず、近付くことすら出来なくなった。

 あの細い首筋にキスをしたい。
 あの瞳に。あの唇に──。

 しかし思いはあっても彼女があのままではどうにもならない。唯一話せるのは食事の時だけだ。
 その時、少しでも彼女を誉めることが出来れば──。だが出来ていない。彼女はつっけんどんに会話をシャットダウンする。だから余もムキになってしまう。そして部屋を出て猛省。その繰り返しだ。
 なんとか、なんとかならないものか……。





「な、なんと仰有いました? 父上」

 余は父の言葉に耳を疑った。

「だから言ったではないか。アドリアン。余はそなたに王位を禅譲する」

 固まった。身動きが出来なくなって固まった。父はまだ若い。国を動かすのはこれからではないか。

「ご冗談はおやめ下さい!」
「冗談ではない。前々から決めておったことだ。アドリアン。お前が結婚して一人前になったら、私は一線を退いて愛に生きるのだ」

 そういって父は母の顔を見る。顔を赤らめる母。いやいや、ちょっと待って。ちょっと待ってご夫妻。愛って何? いい歳して結婚して二十年近くになって何言ってんの?

「わしゃ疲れた。国王の座は激務だ。なかなかローズ……いや王妃と一緒の時間も取れない。一度きりの人生、残りは王妃と離宮で過ごすのだ。いや分からないことがあったら話はぜんぜん聞くから」

 この軽口から、余は僅か十八にして国主の座に就いてしまった。オリビアは王妃となったが、父の言うように超激務。
 オリビアと話をするには、心構えと体力がいる。疲れた体でオリビアの拒絶の顔と対峙するのは、かなり至難の業だ。

 こうして余は大好きなオリビアに指一本触れられぬまま、超絶忙しい国王の身になってしまった。



 国王となったはいいが、オリビアに近付く時間がないので子どもが出来ない。その時も臣下から上奏された書状の数々に押印していた。
 その中に、世継ぎがいないことを憂いた宰相からのカーラを側室にしましょうという書状があったのだ。

 不本意ながら私は側室を娶ることになってしまった。このことをちゃんとオリビアに詫びたい。
 彼女の部屋の前でウロウロした。

「オリビア。愛しているのはキミだけだよ。カーラとは何もないよ」

 何度も復唱して、彼女の部屋をノックした。余は王。余は王。威厳を持って部屋に入って、愛してることを伝える。それだけのことだ。

「はい。今、扉をお開けしますわ」

 侍女の声だ。驚いた余の全身は赤くなり、関節の全てが真っ直ぐになって飛び上がった。

「はい? どなた? あら誰もいない……。王妃さま。誰もいませんわ」
「そう。気のせいかしら?」


 逃げて……。逃げてしまった──!!



 オリビアへの気持ちがあるのに、カーラをどうこうできるわけがない。ただ話し相手になってくれた。大人しい彼女は余の話を聞いてくれた。
 愛について──。
 熱っぽく話すカーラを見ていた。どうやら彼女には意中の人がいたにも関わらず王宮に入らざるを得なかったようだ。

 申し訳ない。オリビアをちゃんと愛せていれさえすれば。カーラの人生を壊してしまった。



 その気持ちもあってか、またもや一年後、宰相からの上奏文に押印してしまった。それはスザンヌを側室にとるというものだった。
 余は何をやっているのだろう……。
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