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13人目の参加者
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それは、金曜日の夜22時から始まった、緊急のプロジェクト会議だった。 参加者は私を含めて12人。画面には、自宅から参加している同僚たちの、少し疲れ切った顔が並んでいた。
「……以上で、修正案の説明を終わります。何か質問はありますか?」
進行役の課長がそう言った時だった。 画面の端に、新しい参加者のウィンドウが追加された。 名前は表示されていない。カメラはオフのようで、真っ暗な四角い枠がポツンと浮いている。
「おや、誰か追加で入ってきたかな? 田中君、誰か呼んだかい?」 「いえ、僕は呼んでません。権限のある人しか入れないはずですが……」
誰かの設定ミスだろう。そう思って会議を続けようとしたが、その「真っ暗な枠」から、微かに音が聞こえ始めた。
……ズズッ……ズズズッ……
何かを引きずるような、湿った音。 全員が沈黙し、画面の中の真っ暗な枠を注視した。 すると、その枠がゆっくりと明るくなり始めた。カメラがオンになったのだ。
映し出されたのは、どこかの部屋の「天井」だった。 ひどくカビ臭そうな、古い和室の天井。カメラは床に置かれているようで、低いアングルから部屋の奥を映している。
「これ、誰の画面だ? いたずらなら即刻退出しなさい」
課長が苛立ちを露わにした。しかし、返事はない。 代わりに、画面の奥から「何か」が這い出してきた。 それは人間のような形をしていたが、関節がすべて逆方向に曲がっている。 長い髪が顔を覆い、ボロボロの白い服を着たそれは、四つん這いでゆっくりと、カメラの方へ近づいてくる。
「おい、冗談だろ……? 特殊メイクか何かか?」 同僚の一人が引きつった声で笑った。
しかし、這っている「それ」がカメラの目前まで来た時、画面いっぱいに映し出されたのは、血走った剥き出しの眼球だった。
「ひっ……!」
誰かが悲鳴を上げ、一人、また一人と会議から退出していった。 私も怖くなり、マウスを握って「退出」ボタンを押そうとした。 しかし、マウスが動かない。まるで誰かに手首を掴まれているかのように、一ミリも動かせないのだ。
ふと見ると、画面に残っているのは私と、あの「真っ暗な部屋」のウィンドウだけだった。
「……あ、あ……」
声が出ない。 画面の中の怪物は、カメラを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。 そして、私の耳元で、スピーカーからではなく「背後」から、冷たい息とともに声がした。
「……みーつけた……」
恐怖で全身の毛穴が逆立った。私は意を決して、ゆっくりと首を回した。 しかし、そこには誰もいない。 ただ、私のノートPCの画面が、真っ暗な背後の壁を反射して映しているだけだった。
「……な、なんだ、気のせいか……」
安堵して画面に目を戻した。 すると、オンライン会議の画面に映る「私のウィンドウ」の中に異変が起きていた。
画面の中の私の背後、ちょうどクローゼットの隙間から、あの怪物の指がじわじわと伸びてきていた。
私は反射的にクローゼットを振り返った。 しかし、そこには何もいない。 慌てて画面を見ると、画面の中の私は、背後から伸びてきた手に首を掴まれていた。
画面の中の私は苦しそうにのたうち回り、必死にこちら――現実の私――に向かって助けを求めて手を伸ばしている。
「が、はっ……助け……!」
現実の私の首には、何の感触もない。 しかし、画面の中の「私」が首を絞められ、顔がどす黒く変色していくにつれて、私の視界もゆっくりと暗くなっていく。
画面の中の怪物が、こちらに向かってニヤリと笑った。 それは、オンライン会議の「背景ぼかし機能」をすり抜けて、私の現実を侵食し始めていたのだ。
次に誰かがこの会議URLに入った時、そこには誰もいない部屋と、100%の笑顔で笑う「私」のアイコンだけが残っていることだろう。
「……以上で、修正案の説明を終わります。何か質問はありますか?」
進行役の課長がそう言った時だった。 画面の端に、新しい参加者のウィンドウが追加された。 名前は表示されていない。カメラはオフのようで、真っ暗な四角い枠がポツンと浮いている。
「おや、誰か追加で入ってきたかな? 田中君、誰か呼んだかい?」 「いえ、僕は呼んでません。権限のある人しか入れないはずですが……」
誰かの設定ミスだろう。そう思って会議を続けようとしたが、その「真っ暗な枠」から、微かに音が聞こえ始めた。
……ズズッ……ズズズッ……
何かを引きずるような、湿った音。 全員が沈黙し、画面の中の真っ暗な枠を注視した。 すると、その枠がゆっくりと明るくなり始めた。カメラがオンになったのだ。
映し出されたのは、どこかの部屋の「天井」だった。 ひどくカビ臭そうな、古い和室の天井。カメラは床に置かれているようで、低いアングルから部屋の奥を映している。
「これ、誰の画面だ? いたずらなら即刻退出しなさい」
課長が苛立ちを露わにした。しかし、返事はない。 代わりに、画面の奥から「何か」が這い出してきた。 それは人間のような形をしていたが、関節がすべて逆方向に曲がっている。 長い髪が顔を覆い、ボロボロの白い服を着たそれは、四つん這いでゆっくりと、カメラの方へ近づいてくる。
「おい、冗談だろ……? 特殊メイクか何かか?」 同僚の一人が引きつった声で笑った。
しかし、這っている「それ」がカメラの目前まで来た時、画面いっぱいに映し出されたのは、血走った剥き出しの眼球だった。
「ひっ……!」
誰かが悲鳴を上げ、一人、また一人と会議から退出していった。 私も怖くなり、マウスを握って「退出」ボタンを押そうとした。 しかし、マウスが動かない。まるで誰かに手首を掴まれているかのように、一ミリも動かせないのだ。
ふと見ると、画面に残っているのは私と、あの「真っ暗な部屋」のウィンドウだけだった。
「……あ、あ……」
声が出ない。 画面の中の怪物は、カメラを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。 そして、私の耳元で、スピーカーからではなく「背後」から、冷たい息とともに声がした。
「……みーつけた……」
恐怖で全身の毛穴が逆立った。私は意を決して、ゆっくりと首を回した。 しかし、そこには誰もいない。 ただ、私のノートPCの画面が、真っ暗な背後の壁を反射して映しているだけだった。
「……な、なんだ、気のせいか……」
安堵して画面に目を戻した。 すると、オンライン会議の画面に映る「私のウィンドウ」の中に異変が起きていた。
画面の中の私の背後、ちょうどクローゼットの隙間から、あの怪物の指がじわじわと伸びてきていた。
私は反射的にクローゼットを振り返った。 しかし、そこには何もいない。 慌てて画面を見ると、画面の中の私は、背後から伸びてきた手に首を掴まれていた。
画面の中の私は苦しそうにのたうち回り、必死にこちら――現実の私――に向かって助けを求めて手を伸ばしている。
「が、はっ……助け……!」
現実の私の首には、何の感触もない。 しかし、画面の中の「私」が首を絞められ、顔がどす黒く変色していくにつれて、私の視界もゆっくりと暗くなっていく。
画面の中の怪物が、こちらに向かってニヤリと笑った。 それは、オンライン会議の「背景ぼかし機能」をすり抜けて、私の現実を侵食し始めていたのだ。
次に誰かがこの会議URLに入った時、そこには誰もいない部屋と、100%の笑顔で笑う「私」のアイコンだけが残っていることだろう。
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