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十三階の住民
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仕事帰り、深夜2時のマンション。 私は疲れきった足取りでエレベーターに乗り込んだ。このマンションは12階建て。私の部屋は最上階の1202号室だ。
「12」のボタンを押し、ドアが閉まる。 ガタンという軽い衝撃とともに、箱が上昇を始めた。 ふと、操作パネルの横にある鏡を見た。寝不足でひどい顔をしている。鏡の中の自分と目が合い、溜息をついた。
『4……5……6……』
デジタル表示が淡々と数字を刻む。 しかし、10階を過ぎたあたりで、エレベーターが妙な揺れ方を始めた。 そして、本来なら「12」で止まるはずの表示が、信じられない数字を映し出した。
『13』
心臓が跳ね上がった。このマンションに13階はない。 チン、という軽快なチャイムが鳴り、ゆっくりとドアが開いた。
目の前に広がっていたのは、見慣れたマンションの廊下……ではなく、見渡す限りの真っ黒な空間だった。 床だけがコンクリートのように冷たく光り、その先は深い闇に吸い込まれている。 「故障か?」 焦って閉ボタンを連打したが、反応がない。
すると、闇の奥から「ト、ト、ト……」と、硬いものが床を叩くような音が近づいてきた。 現れたのは、小さな女の子だった。 真っ赤なワンピースを着て、手には古びた手鏡を持っている。
彼女はエレベーターのドアの前に立つと、中に入ろうとはせず、ただじっと私を見つめた。 「……おじさん、だぁれ?」
「あ、いや……12階に行きたいんだけど、間違えてここに来ちゃって。すぐ降りるから」 私が引きつった笑顔で答えると、女の子は小首をかしげた。
「ここはね、鏡の中だよ。おじさん、さっき鏡を見たでしょ?」
意味がわからなかった。 女の子は手に持っていた手鏡を私に向けた。 鏡の中に映っているのは、エレベーターの中にいる私だ。しかし、背景がおかしい。 鏡の中の私は、「13階の真っ黒な空間」側に立っており、女の子が「エレベーターの中」に立っている。
「逆だよ」と、女の子が笑った。
その瞬間、現実のエレベーターのドアが猛烈な勢いで閉まり始めた。 私は慌てて飛び出そうとしたが、体が金縛りにあったように動かない。 閉まりゆくドアの隙間から、女の子がエレベーターの中の「閉ボタン」を軽やかに押すのが見えた。
「おじさんの場所、もらうね」
ドアが完全に閉まった。 私は、音一つしない13階の闇に取り残された。
呆然と立ち尽くしていると、足元に先ほどの女の子が落とした手鏡が転がっているのに気づいた。 震える手でそれを拾い上げ、覗き込む。
そこには、12階に到着し、楽しそうにエレベーターから降りていく「私」の姿が映っていた。 偽物の私は、私の部屋の鍵をポケットから取り出し、一度だけ鏡(カメラ)に向かって勝ち誇ったように笑って見せた。
そして、手鏡の中の数字が『12』から消灯した。 私の手元にある鏡も、ただの真っ黒なガラスの塊に変わった。
今も私は、13階で待っている。 誰かがエレベーターの中で、ふと鏡を見てくれるその瞬間を。
エレベーターの鏡は、自分を確認するためではなく、彼らがこちら側を「覗く」ための窓なのかもしれません。
次は何をテーマにしましょうか? 「自動販売機」「公衆トイレ」「コインランドリー」など、夜の静かな場所にはまだネタが転がっています。
「12」のボタンを押し、ドアが閉まる。 ガタンという軽い衝撃とともに、箱が上昇を始めた。 ふと、操作パネルの横にある鏡を見た。寝不足でひどい顔をしている。鏡の中の自分と目が合い、溜息をついた。
『4……5……6……』
デジタル表示が淡々と数字を刻む。 しかし、10階を過ぎたあたりで、エレベーターが妙な揺れ方を始めた。 そして、本来なら「12」で止まるはずの表示が、信じられない数字を映し出した。
『13』
心臓が跳ね上がった。このマンションに13階はない。 チン、という軽快なチャイムが鳴り、ゆっくりとドアが開いた。
目の前に広がっていたのは、見慣れたマンションの廊下……ではなく、見渡す限りの真っ黒な空間だった。 床だけがコンクリートのように冷たく光り、その先は深い闇に吸い込まれている。 「故障か?」 焦って閉ボタンを連打したが、反応がない。
すると、闇の奥から「ト、ト、ト……」と、硬いものが床を叩くような音が近づいてきた。 現れたのは、小さな女の子だった。 真っ赤なワンピースを着て、手には古びた手鏡を持っている。
彼女はエレベーターのドアの前に立つと、中に入ろうとはせず、ただじっと私を見つめた。 「……おじさん、だぁれ?」
「あ、いや……12階に行きたいんだけど、間違えてここに来ちゃって。すぐ降りるから」 私が引きつった笑顔で答えると、女の子は小首をかしげた。
「ここはね、鏡の中だよ。おじさん、さっき鏡を見たでしょ?」
意味がわからなかった。 女の子は手に持っていた手鏡を私に向けた。 鏡の中に映っているのは、エレベーターの中にいる私だ。しかし、背景がおかしい。 鏡の中の私は、「13階の真っ黒な空間」側に立っており、女の子が「エレベーターの中」に立っている。
「逆だよ」と、女の子が笑った。
その瞬間、現実のエレベーターのドアが猛烈な勢いで閉まり始めた。 私は慌てて飛び出そうとしたが、体が金縛りにあったように動かない。 閉まりゆくドアの隙間から、女の子がエレベーターの中の「閉ボタン」を軽やかに押すのが見えた。
「おじさんの場所、もらうね」
ドアが完全に閉まった。 私は、音一つしない13階の闇に取り残された。
呆然と立ち尽くしていると、足元に先ほどの女の子が落とした手鏡が転がっているのに気づいた。 震える手でそれを拾い上げ、覗き込む。
そこには、12階に到着し、楽しそうにエレベーターから降りていく「私」の姿が映っていた。 偽物の私は、私の部屋の鍵をポケットから取り出し、一度だけ鏡(カメラ)に向かって勝ち誇ったように笑って見せた。
そして、手鏡の中の数字が『12』から消灯した。 私の手元にある鏡も、ただの真っ黒なガラスの塊に変わった。
今も私は、13階で待っている。 誰かがエレベーターの中で、ふと鏡を見てくれるその瞬間を。
エレベーターの鏡は、自分を確認するためではなく、彼らがこちら側を「覗く」ための窓なのかもしれません。
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