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おかえりなさい。
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仕事で疲れ果て、午前二時にアパートに帰り着いた時のことだ。 鍵を取り出そうとして、ふと違和感を覚えた。
玄関のドアノブに、小さな「白い付箋」が貼ってある。
誰かのいたずらだろうか。剥がしてみると、そこには見覚えのある、しかしどこか歪んだ筆跡でこう書かれていた。
『2:10 お帰りなさい。今日は少し遅かったね』
心臓がドクンと跳ねた。私の帰宅時間を知っている? 気味が悪くなり、急いで部屋に入り、内側から鍵とチェーンを閉めた。 ストーカーだろうか。明日、管理会社に相談しよう。そう自分に言い聞かせ、着替えようとして鏡を見た。
鏡の端に、また「白い付箋」が貼ってある。
『2:15 まずは手を洗わなきゃ。バイ菌がいっぱいだよ』
「……っ!」
悲鳴を上げそうになり、口を押さえた。 外じゃない。奴は、「中」にいる。 私は震える手でスマホを掴み、警察に通報しようとした。しかし、画面の上にも付箋が貼られていた。
『2:17 警察はダメだよ。二人だけの時間を邪魔されたくないもん』
パニックになり、私は玄関へ走った。外に逃げなきゃ死ぬ。 必死に鍵を開け、ドアを押し開けようとした。 しかし、ドアはびくともしない。まるで外側から強力な力で押さえつけられているようだ。
その時、足元にヒラリと付箋が落ちてきた。ドアの隙間から差し込まれたのだ。
『2:20 どこへ行くの? 外は危ないよ。だって、「僕」が外にいるんだから』
……え? じゃあ、さっきまで部屋の中に付箋を貼っていたのは誰だ?
私はゆっくりと振り返った。 誰もいないはずの暗い廊下。その突き当たりのトイレのドアに、大きな付箋が貼ってあるのが見えた。
『2:21 部屋の中にいるのは、「僕」じゃないよ』
混乱で頭が割れそうだった。 外に「僕」がいて、中には「僕じゃない誰か」がいる? その時、トイレのドアがギィ……と音を立てて開いた。
中から這い出してきたのは、私と全く同じ服を着て、私と全く同じ顔をした、しかし「目と口が上下逆に付いている」生き物だった。 それは私の顔を見上げ、不自然に折れ曲がった指で、自分の胸元に貼られた付箋を指差した。
『2:22 僕は、君になりたい「影」だよ』
そいつが立ち上がろうとした瞬間、玄関のドアが激しく叩かれた。
「開けろ! 開けるんだ! 中にいるのは僕じゃない! そいつを中に入れるな!」
外から聞こえるのは、聞き慣れた、紛れもない「私の声」だった。 私はパニックの極致で、目の前の化け物と、玄関のドアを交互に見た。 どちらが本当の「僕」で、どちらが「僕じゃない」のか。
その時、ポケットの中でスマホが震えた。 通知画面を見ると、カメラ付きインターホンの録画記録が更新されている。
震える指で再生ボタンを押した。 画面に映っていたのは、誰もいない無人の玄関先だった。 しかし、音声だけが虚空に向かって叫んでいる。 「開けろ! 中にいるのは僕じゃない!」
そして、画面の中の「何もない空間」から、スッと付箋が現れ、空中に張り付いた。
『2:25 正解は……』
私はゆっくりと、自分の手を見た。 私の手の甲には、いつの間にか付箋が張り付いていた。
『2:26 君も、僕も、最初からいなかった』
その瞬間、私の体の感覚が消えた。 視界が急激に低くなり、私は自分が「一枚の紙」になって、床に落ちていくのを感じた。
廊下の奥から、逆さまの顔をした「私」が近づいてくる。 そいつは床に落ちた私(付箋)を拾い上げ、満足そうに笑った。 そして、新しい付箋にこう書き込んだ。
『2:30 さあ、次の「お帰りなさい」を待とうか』
玄関のドアノブに、小さな「白い付箋」が貼ってある。
誰かのいたずらだろうか。剥がしてみると、そこには見覚えのある、しかしどこか歪んだ筆跡でこう書かれていた。
『2:10 お帰りなさい。今日は少し遅かったね』
心臓がドクンと跳ねた。私の帰宅時間を知っている? 気味が悪くなり、急いで部屋に入り、内側から鍵とチェーンを閉めた。 ストーカーだろうか。明日、管理会社に相談しよう。そう自分に言い聞かせ、着替えようとして鏡を見た。
鏡の端に、また「白い付箋」が貼ってある。
『2:15 まずは手を洗わなきゃ。バイ菌がいっぱいだよ』
「……っ!」
悲鳴を上げそうになり、口を押さえた。 外じゃない。奴は、「中」にいる。 私は震える手でスマホを掴み、警察に通報しようとした。しかし、画面の上にも付箋が貼られていた。
『2:17 警察はダメだよ。二人だけの時間を邪魔されたくないもん』
パニックになり、私は玄関へ走った。外に逃げなきゃ死ぬ。 必死に鍵を開け、ドアを押し開けようとした。 しかし、ドアはびくともしない。まるで外側から強力な力で押さえつけられているようだ。
その時、足元にヒラリと付箋が落ちてきた。ドアの隙間から差し込まれたのだ。
『2:20 どこへ行くの? 外は危ないよ。だって、「僕」が外にいるんだから』
……え? じゃあ、さっきまで部屋の中に付箋を貼っていたのは誰だ?
私はゆっくりと振り返った。 誰もいないはずの暗い廊下。その突き当たりのトイレのドアに、大きな付箋が貼ってあるのが見えた。
『2:21 部屋の中にいるのは、「僕」じゃないよ』
混乱で頭が割れそうだった。 外に「僕」がいて、中には「僕じゃない誰か」がいる? その時、トイレのドアがギィ……と音を立てて開いた。
中から這い出してきたのは、私と全く同じ服を着て、私と全く同じ顔をした、しかし「目と口が上下逆に付いている」生き物だった。 それは私の顔を見上げ、不自然に折れ曲がった指で、自分の胸元に貼られた付箋を指差した。
『2:22 僕は、君になりたい「影」だよ』
そいつが立ち上がろうとした瞬間、玄関のドアが激しく叩かれた。
「開けろ! 開けるんだ! 中にいるのは僕じゃない! そいつを中に入れるな!」
外から聞こえるのは、聞き慣れた、紛れもない「私の声」だった。 私はパニックの極致で、目の前の化け物と、玄関のドアを交互に見た。 どちらが本当の「僕」で、どちらが「僕じゃない」のか。
その時、ポケットの中でスマホが震えた。 通知画面を見ると、カメラ付きインターホンの録画記録が更新されている。
震える指で再生ボタンを押した。 画面に映っていたのは、誰もいない無人の玄関先だった。 しかし、音声だけが虚空に向かって叫んでいる。 「開けろ! 中にいるのは僕じゃない!」
そして、画面の中の「何もない空間」から、スッと付箋が現れ、空中に張り付いた。
『2:25 正解は……』
私はゆっくりと、自分の手を見た。 私の手の甲には、いつの間にか付箋が張り付いていた。
『2:26 君も、僕も、最初からいなかった』
その瞬間、私の体の感覚が消えた。 視界が急激に低くなり、私は自分が「一枚の紙」になって、床に落ちていくのを感じた。
廊下の奥から、逆さまの顔をした「私」が近づいてくる。 そいつは床に落ちた私(付箋)を拾い上げ、満足そうに笑った。 そして、新しい付箋にこう書き込んだ。
『2:30 さあ、次の「お帰りなさい」を待とうか』
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