160 / 161
ミニ番外編
挿話 不思議な夢の中 ②
しおりを挟む
「ハノンッ……!」
10代のハノンを目敏く見つけたフェリックス。
華やかなヤングフェリックス一行が廊下を進んで行くのを、多くの生徒がその進路を塞がぬように脇に逸れる。
舞台で言えばエキストラ、小説の中で言えばモブたちが主演や主要な助演俳優たちの邪魔をせぬよう気を付けているかのような……そんな印象を受ける大勢の生徒たちの中に、ハノンはひっそりと佇んでいた。
天の声として読者諸君にハッキリと申し上げるならば、女学生時代のハノンは確かに地味でなんの特徴もない、じつに普通の少女だった。
ハノンは美人である。
当然、少女時代のハノンも愛らしい顔立ちをしているのだが、いかんせん地味さがそれを覆い隠してしまっていた。
手入れにお金をかけられない髪はひとつに纏めてただ三つ編みにしているだけだし、しかもリボンなどの装飾もない。
そして自分でハサミを入れていた前髪は厚ぼったく顔の向きによっては目元を覆い隠してしまっている。
その上遠縁の知人から譲ってもらったという制服は草臥れたお古感が否めないし、とにかくジャケットのサイズがハノンの体に合っていないのだ。
そのため、フェリックスをメロメロにしているスタイルの良さも隠されてしまっている。
そんなハノンがその他の大勢の中に紛れてしまっては、全く接点の無かった若きフェリックスの目に止まらなかったのは仕方ないことなのだろう。
しかし、既にハノンの存在を知っているフェリックスは有象無象の中から目敏くティーンエイジャーハノンを見つけ出した。
「か、か、か、か、可愛いっ……!」
40代のオッサンが一心に10代の少女を見つめ、感動に打ち震えるという残念な光景ではあるが、フェリックスにしてみれば砂利の中から光り輝く宝石を見つけた気持ちであるのだ。
なのに若きフェリックスはそんなハノンが視界に触れることもなく友人たちと素通りしていく。
フェリックスは信じられないものを見る目でかつての自分を引き取りめる。
「ちょっま……俺、あの愛くるしい彼女が目に入らないのかっ……?俺のその赤い目は節穴かっ?」
もちろんそれで引き止められるはずもなく。悔しくて歯噛みするフェリックスだが、しかし同時にヤングフェリックス一行を見るハノンの表情に気付く。
ハノンはスンとして、かなり冷ややかな目をフェリックスたちに向けていたのだ。
その表情は「チャラチャラして……この世の苦労なんて何も知らないような我がもの顔や、気取った振る舞いがいけすかないのよね」と考えていることを雄弁に物語っていた。
それでフェリックスは、この夢の中がまだ魔法生物襲撃前の世界であると察した。
あの凄惨な事件で命懸けで戦ったフェリックスに惚れたとハノンが話してくれた言葉を一字一句覚えている。
そのハノンがあんな蔑んだ目でフェリックスたちを見ているという事で、なんとなく時間軸が理解できたのである。
「これは……ある意味レアだぞ」
フェリックスはそう思った。
卒業後再会した時のハノンの態度も硬化したものだったが、それは息子を奪われまいと警戒していたからだったし、今思えば頑なな態度の中にもほのかな思慕を感じられた。
だが目の前にいるかつてのハノンの目は思慕の欠片も存在しない、むしろほんのりとした敵意さえ漂わせていた。
どちらのハノンからも壁を感じるが、“防御の壁”と“拒絶の壁”の差は明白であると今なら解る。
だからそんなハノンの態度が新鮮で、期間限定の稀有なものだと、フェリックスは思ったのだった。
「あぁ……ジト目になってかつての俺を見ているハノン……可愛いな……」
なんだかその目を向けられているかつての自分が腹立たしくなってきたフェリックス。
夢の中で実態の無い自分が物理的に触れることは不可能かもしれないが、一発殴ってやりたい気持ちになる。
「ものは試しだ、やってみよう」とフェリックスが若きフェリックスに向かって歩き出したその時、急に視界が暗転した。
「……ん?」
しかしそれは一瞬の間で、次の瞬間には校内の違う場所へと風景が変わっていた。
そしてその眼前に突如現れた、見覚えのある凄惨な光景にフェリックスは瞠目する。
耳を劈く魔法生物の咆哮。
逃げ惑い、または恐怖で戦慄き立ち竦む生徒たち。
そこは、魔法生物からハノンを救ったあの事件の真っ只中であった。
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*続く
え?続くの?
続くんです。もう一話だけお付き合いください。
次回はある意味if的なお話。
本編とは混同しないように気を付けなきゃ꙳⋆(lllᵔ⩌ᵔlll)౨
10代のハノンを目敏く見つけたフェリックス。
華やかなヤングフェリックス一行が廊下を進んで行くのを、多くの生徒がその進路を塞がぬように脇に逸れる。
舞台で言えばエキストラ、小説の中で言えばモブたちが主演や主要な助演俳優たちの邪魔をせぬよう気を付けているかのような……そんな印象を受ける大勢の生徒たちの中に、ハノンはひっそりと佇んでいた。
天の声として読者諸君にハッキリと申し上げるならば、女学生時代のハノンは確かに地味でなんの特徴もない、じつに普通の少女だった。
ハノンは美人である。
当然、少女時代のハノンも愛らしい顔立ちをしているのだが、いかんせん地味さがそれを覆い隠してしまっていた。
手入れにお金をかけられない髪はひとつに纏めてただ三つ編みにしているだけだし、しかもリボンなどの装飾もない。
そして自分でハサミを入れていた前髪は厚ぼったく顔の向きによっては目元を覆い隠してしまっている。
その上遠縁の知人から譲ってもらったという制服は草臥れたお古感が否めないし、とにかくジャケットのサイズがハノンの体に合っていないのだ。
そのため、フェリックスをメロメロにしているスタイルの良さも隠されてしまっている。
そんなハノンがその他の大勢の中に紛れてしまっては、全く接点の無かった若きフェリックスの目に止まらなかったのは仕方ないことなのだろう。
しかし、既にハノンの存在を知っているフェリックスは有象無象の中から目敏くティーンエイジャーハノンを見つけ出した。
「か、か、か、か、可愛いっ……!」
40代のオッサンが一心に10代の少女を見つめ、感動に打ち震えるという残念な光景ではあるが、フェリックスにしてみれば砂利の中から光り輝く宝石を見つけた気持ちであるのだ。
なのに若きフェリックスはそんなハノンが視界に触れることもなく友人たちと素通りしていく。
フェリックスは信じられないものを見る目でかつての自分を引き取りめる。
「ちょっま……俺、あの愛くるしい彼女が目に入らないのかっ……?俺のその赤い目は節穴かっ?」
もちろんそれで引き止められるはずもなく。悔しくて歯噛みするフェリックスだが、しかし同時にヤングフェリックス一行を見るハノンの表情に気付く。
ハノンはスンとして、かなり冷ややかな目をフェリックスたちに向けていたのだ。
その表情は「チャラチャラして……この世の苦労なんて何も知らないような我がもの顔や、気取った振る舞いがいけすかないのよね」と考えていることを雄弁に物語っていた。
それでフェリックスは、この夢の中がまだ魔法生物襲撃前の世界であると察した。
あの凄惨な事件で命懸けで戦ったフェリックスに惚れたとハノンが話してくれた言葉を一字一句覚えている。
そのハノンがあんな蔑んだ目でフェリックスたちを見ているという事で、なんとなく時間軸が理解できたのである。
「これは……ある意味レアだぞ」
フェリックスはそう思った。
卒業後再会した時のハノンの態度も硬化したものだったが、それは息子を奪われまいと警戒していたからだったし、今思えば頑なな態度の中にもほのかな思慕を感じられた。
だが目の前にいるかつてのハノンの目は思慕の欠片も存在しない、むしろほんのりとした敵意さえ漂わせていた。
どちらのハノンからも壁を感じるが、“防御の壁”と“拒絶の壁”の差は明白であると今なら解る。
だからそんなハノンの態度が新鮮で、期間限定の稀有なものだと、フェリックスは思ったのだった。
「あぁ……ジト目になってかつての俺を見ているハノン……可愛いな……」
なんだかその目を向けられているかつての自分が腹立たしくなってきたフェリックス。
夢の中で実態の無い自分が物理的に触れることは不可能かもしれないが、一発殴ってやりたい気持ちになる。
「ものは試しだ、やってみよう」とフェリックスが若きフェリックスに向かって歩き出したその時、急に視界が暗転した。
「……ん?」
しかしそれは一瞬の間で、次の瞬間には校内の違う場所へと風景が変わっていた。
そしてその眼前に突如現れた、見覚えのある凄惨な光景にフェリックスは瞠目する。
耳を劈く魔法生物の咆哮。
逃げ惑い、または恐怖で戦慄き立ち竦む生徒たち。
そこは、魔法生物からハノンを救ったあの事件の真っ只中であった。
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•*続く
え?続くの?
続くんです。もう一話だけお付き合いください。
次回はある意味if的なお話。
本編とは混同しないように気を付けなきゃ꙳⋆(lllᵔ⩌ᵔlll)౨
1,485
あなたにおすすめの小説
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)
青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。
これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。
ショートショートの予定。
ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。
【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。
10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。
その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。
それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー?
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私
白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。