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ミニ番外編
挿話 不思議な夢の中①
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「……これは夢だな。間違いない」
フェリックスはそう確信した。
いつものように最愛の妻ハノンを抱きしめながら眠りについた記憶はあるし、何より突然かつての学び舎の中庭に立っているのだから。
懐かしの母校アデリオール魔術学園。
息子のルシアンが入学した時には既に朽ち果て切り株のみが残されていた大きな 翌檜の木がまだ中庭の主としてそびえ立っている。
それに……
「それに、あそこにいるのは学生時代の俺じゃないか」
翌檜の下のベンチで本を読んでいる制服姿の自分を見て、フェリックスはここが夢の中であると確証を得た。
当然、若かりしフェリックスが着ているのは魔術学園の旧制服のブレザーである。
ルシアンが入学する前に中高一貫となった時に制服は男女共に一新されており、男子生徒の今の制服は騎士服に似た詰襟で、女子生徒はウェストべルトのセーラーワンピースとなっている。
「……はっ!」
そしてふいにフェリックスはある事に気付く。
「これが昔の夢だとして……。も、もしかして探せば居るんじゃないのか……?夢の世界で見れるんじゃないのか?制服姿の彼女をっ……!」
誰の事を言っている?とは訊くだけ野暮である。
最愛の妻ハノン(長いので以降略式)は学生時代からフェリックスを認識していたそうだが、当のフェリックスはハノンの存在を知らなかった。
魔法生物が暴れた時は沢山の生徒の盾となり戦い、救助も行った。それ故に一人一人を認識する暇もなかったのだ。
その中の一人にハノンが居たのだが、「そういえば意識が朦朧とした女子生徒も居たな」くらいの記憶しか残ってないのである。
あの時の惨状を思えば仕方ないかもしれないが、勿体ない事をしたとフェリックスは本気で思っている。
「何をやってるんだ当時の俺」という忸怩たる思いを今も抱えて生きているのだ。
どこの神の思し召しかは分からなが、これは学生時代のハノンの姿を脳裏に焼き付ける千載一遇のチャンスなのではないのか。
数多くのチャンスをものにしてきたフェリックスはそう息巻いた。
が、しかし。
「おい、ガキだった俺、早く移動しろよ」
ガキ……学生だったフェリックスは、彼目当てで集まってきた友人たちに囲まれ和気あいあいと談笑して中庭に居続けている。
友人たちの顔ぶれは懐かしい人物ばかりであった。
今では絶縁となった友人や元婚約者候補の女子生徒の姿もある。
その者たちに囲まれて、若きフェリックスはベンチに座ったまま談笑し続けていた。
「いい加減にしろ。お前が動かないと俺も動けないだろっ……」
夢の中にいるからだろうか、どうやらかつての自分と一緒でないと行動できないようなのだ。
現に今もその場に足が縫い止められたかのように動けない。
「早くっ、早く移動してハノンを探しに行けっ……」
当時はハノンを知らなかったくせに無茶を言う。
するとようやく、共に談笑していた友人たちとヤングフェリックスは移動を始めた。
「お、やっと動くのか」
友人たちとゾロゾロと学園内を闊歩するかつてのフェリックス。
その時は気付かなかったが、こうやって少し離れた場所から客観的に見ると、かなり目立つ集団だ。
フェリックスをはじめ、皆が高位貴族や歴史のある名家や富豪の令息令嬢で、多くの者の羨望の眼差しを浴びている。
学生時代のハノンは“違う世界の住人”と一線も二線も引いていたと言っていたが、あながち大袈裟な発言ではなかったのだろう。
確かに安易には近寄り難い雰囲気がある。
そうこうしているうちにフェリックスとその仲間たちは学園内のカフェテリアに入って行った。
「昼食時か……」
広い食堂の中は多くの生徒で賑わっている。
「もしかして、この中にハノンがいるのではっ……?」
またもやハッと気付きを得たフェリックスが辺り一帯を見渡す。
それこそ目を皿にして舐めまわすが如く眺めてもハノンの姿を認識できない。
ハノンの髪色と瞳の色はアデリオールではもっともスタンダードで多くの人間の特徴的な姿である。
それにハノン本人が「貧乏で身形にお金をかけられず地味でなんの特徴もなかった」と言っていた。
そんな人間がカフェテリア内には多く存在し、フェリックスには見分けがつかないのだ。
「いや。俺がハノンを見つけられないはずがない。どんなハノンも絶対に光り輝いていたはずだ」
喩えハノンがどんなに地味女子であったとしても、フェリックスには見つけられる自信があった。
「カフェテリアには居ないようだな」
学生時代はよく夕食の残り物をランチボックスに詰めて持参していたともハノンは言っていた。
であれば今日のランチはそれを違う場所で食べているのだろう。
そう結論付ければここに用はない。
さっさと移動したいところだ。
フェリックスはヤングフェリックスに「さっさと食え。ランチにおいてもテーブルマナーは必要だが騎士を目指すなら秒で食え。食ってる間に襲撃されるぞ、さっさと食え」
とブツブツ小言を言ってヤングだった自分を睨みつけている。
夢の中であるから、その姿が他者には見えていないが、もし認識されていたならさぞ異様な光景であろう。
そうして漸くランチを食べ終えたヤングフェリックスがまた友人たちと移動を始めた。
「いちいち連るむな鬱陶しい」
と、かつて自分が身を置いていた環境に理不尽な苛立ちを感じる。
そうやって学生カースト上位の者たちばかりで集まり、自分たちの世界を作りあげるから他の生徒たちは近寄れないのだ。
だが当時の自分はそんな事に気付けなかった。
高位貴族の令息として社交の一貫だと認識していたのだ。
多くの生徒に遠巻きに見られながら移動するかつての自分と友人たち。
堂々と廊下の真ん中を歩き、自由と若さを謳歌していた。
そんな中で、オールドの方のフェリックスは廊下の片隅を歩く女学生時代のハノンの姿を目敏く見つけたのであった。
「ハノンッ……!」
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•つづく
続くのです。
でもすみません。来週はお休みになるか、かなり簡単更新になると思います。
ごめりんこ *_ _)ペコリ
フェリックスはそう確信した。
いつものように最愛の妻ハノンを抱きしめながら眠りについた記憶はあるし、何より突然かつての学び舎の中庭に立っているのだから。
懐かしの母校アデリオール魔術学園。
息子のルシアンが入学した時には既に朽ち果て切り株のみが残されていた大きな 翌檜の木がまだ中庭の主としてそびえ立っている。
それに……
「それに、あそこにいるのは学生時代の俺じゃないか」
翌檜の下のベンチで本を読んでいる制服姿の自分を見て、フェリックスはここが夢の中であると確証を得た。
当然、若かりしフェリックスが着ているのは魔術学園の旧制服のブレザーである。
ルシアンが入学する前に中高一貫となった時に制服は男女共に一新されており、男子生徒の今の制服は騎士服に似た詰襟で、女子生徒はウェストべルトのセーラーワンピースとなっている。
「……はっ!」
そしてふいにフェリックスはある事に気付く。
「これが昔の夢だとして……。も、もしかして探せば居るんじゃないのか……?夢の世界で見れるんじゃないのか?制服姿の彼女をっ……!」
誰の事を言っている?とは訊くだけ野暮である。
最愛の妻ハノン(長いので以降略式)は学生時代からフェリックスを認識していたそうだが、当のフェリックスはハノンの存在を知らなかった。
魔法生物が暴れた時は沢山の生徒の盾となり戦い、救助も行った。それ故に一人一人を認識する暇もなかったのだ。
その中の一人にハノンが居たのだが、「そういえば意識が朦朧とした女子生徒も居たな」くらいの記憶しか残ってないのである。
あの時の惨状を思えば仕方ないかもしれないが、勿体ない事をしたとフェリックスは本気で思っている。
「何をやってるんだ当時の俺」という忸怩たる思いを今も抱えて生きているのだ。
どこの神の思し召しかは分からなが、これは学生時代のハノンの姿を脳裏に焼き付ける千載一遇のチャンスなのではないのか。
数多くのチャンスをものにしてきたフェリックスはそう息巻いた。
が、しかし。
「おい、ガキだった俺、早く移動しろよ」
ガキ……学生だったフェリックスは、彼目当てで集まってきた友人たちに囲まれ和気あいあいと談笑して中庭に居続けている。
友人たちの顔ぶれは懐かしい人物ばかりであった。
今では絶縁となった友人や元婚約者候補の女子生徒の姿もある。
その者たちに囲まれて、若きフェリックスはベンチに座ったまま談笑し続けていた。
「いい加減にしろ。お前が動かないと俺も動けないだろっ……」
夢の中にいるからだろうか、どうやらかつての自分と一緒でないと行動できないようなのだ。
現に今もその場に足が縫い止められたかのように動けない。
「早くっ、早く移動してハノンを探しに行けっ……」
当時はハノンを知らなかったくせに無茶を言う。
するとようやく、共に談笑していた友人たちとヤングフェリックスは移動を始めた。
「お、やっと動くのか」
友人たちとゾロゾロと学園内を闊歩するかつてのフェリックス。
その時は気付かなかったが、こうやって少し離れた場所から客観的に見ると、かなり目立つ集団だ。
フェリックスをはじめ、皆が高位貴族や歴史のある名家や富豪の令息令嬢で、多くの者の羨望の眼差しを浴びている。
学生時代のハノンは“違う世界の住人”と一線も二線も引いていたと言っていたが、あながち大袈裟な発言ではなかったのだろう。
確かに安易には近寄り難い雰囲気がある。
そうこうしているうちにフェリックスとその仲間たちは学園内のカフェテリアに入って行った。
「昼食時か……」
広い食堂の中は多くの生徒で賑わっている。
「もしかして、この中にハノンがいるのではっ……?」
またもやハッと気付きを得たフェリックスが辺り一帯を見渡す。
それこそ目を皿にして舐めまわすが如く眺めてもハノンの姿を認識できない。
ハノンの髪色と瞳の色はアデリオールではもっともスタンダードで多くの人間の特徴的な姿である。
それにハノン本人が「貧乏で身形にお金をかけられず地味でなんの特徴もなかった」と言っていた。
そんな人間がカフェテリア内には多く存在し、フェリックスには見分けがつかないのだ。
「いや。俺がハノンを見つけられないはずがない。どんなハノンも絶対に光り輝いていたはずだ」
喩えハノンがどんなに地味女子であったとしても、フェリックスには見つけられる自信があった。
「カフェテリアには居ないようだな」
学生時代はよく夕食の残り物をランチボックスに詰めて持参していたともハノンは言っていた。
であれば今日のランチはそれを違う場所で食べているのだろう。
そう結論付ければここに用はない。
さっさと移動したいところだ。
フェリックスはヤングフェリックスに「さっさと食え。ランチにおいてもテーブルマナーは必要だが騎士を目指すなら秒で食え。食ってる間に襲撃されるぞ、さっさと食え」
とブツブツ小言を言ってヤングだった自分を睨みつけている。
夢の中であるから、その姿が他者には見えていないが、もし認識されていたならさぞ異様な光景であろう。
そうして漸くランチを食べ終えたヤングフェリックスがまた友人たちと移動を始めた。
「いちいち連るむな鬱陶しい」
と、かつて自分が身を置いていた環境に理不尽な苛立ちを感じる。
そうやって学生カースト上位の者たちばかりで集まり、自分たちの世界を作りあげるから他の生徒たちは近寄れないのだ。
だが当時の自分はそんな事に気付けなかった。
高位貴族の令息として社交の一貫だと認識していたのだ。
多くの生徒に遠巻きに見られながら移動するかつての自分と友人たち。
堂々と廊下の真ん中を歩き、自由と若さを謳歌していた。
そんな中で、オールドの方のフェリックスは廊下の片隅を歩く女学生時代のハノンの姿を目敏く見つけたのであった。
「ハノンッ……!」
•*¨*•.¸¸☆*・゚•*¨*•.¸¸☆*・゚•つづく
続くのです。
でもすみません。来週はお休みになるか、かなり簡単更新になると思います。
ごめりんこ *_ _)ペコリ
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