無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

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ミニ番外編

王宮でのお茶会 ②

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今回のお茶会が開催される王太子妃殿下自慢のサンルームには、既に沢山の子女やその付き添いの母親達がいた。

そしてデイビッドがポレットを、ルシアンがミシェルをエスコートして入って来たのを見た令嬢やその母親達がザワザワと小さく騒然となるのを、ハノンは感じた。

次世代の社交界のツートップになるのは間違いなしと言われているルシアンとデイビッドが特定の女の子をエスコートしているという事実に、眉根を寄せている者がほとんどのようだ。

しかし令嬢やその母親たちはルシアンと共にいるミシェルを見た途端に、「ふ……」と小馬鹿にしたように笑う。

そしてほとんど聞き取れないくらいの小さな声で、
「よくあんなゴリラみたいな顔をしてルシアン様の側にいられるわね」とか
「わたしだったら恥ずかしくてルシアン様の隣には立てませんわ」とか言う声が聞こえた。

ハノンは笑顔をはり付けながらも心の中で、

『今悪口を言った者の顔はバッチリ覚えたわよ……』

と沸々と怒りを募らせていた。

可愛い姪を悪く言うような輩とは絶対に付き合わない。
向こうから話し掛けて来ても適当にお茶を濁して直ぐにスルーしてやる……という裁決が、ハノンの中で下された。

王太子妃殿下のお言葉と共にお茶会が始まる。

今回は立食式のようで、各テーブルを自由に行き来出来るようになっていた。

ルシアンは早々に、数名の肉食系令嬢に周りを固められてしまう。

でもミシェルは初めて見る王宮のパティシエ自慢のスイーツ達に夢中になり、全く気にした様子はなかった。

ポレットはデイビッドが側から離さない様子で、王太子妃殿下のテーブルに座って一緒にお菓子を摘んでいる。

『ポレットは大丈夫そうね』

ハノンはミシェルの側についている事にした。

案の定、ミシェルの事を知りたがる夫人方がお菓子を取る態を装って近付いて来た。

とある夫人がハノンに話しかけてくる。

「ごきげんよう、ワイズ伯爵夫人。こちらのお可愛らしい令嬢はどちらのご令嬢でいらっしゃいますの?」

「ごきげんよう、ドトー伯爵夫人。こちらはバーレル辺境伯令嬢、ミシェル=ロードリック嬢でわたくしの可愛い姪ですの」

ハノンが答えると、その夫人と側にいた夫人の娘であろう令嬢がニヤっと笑った。

「まぁ、それではルシアン様とはお従妹の関係でいらっしゃいますのね。それでエスコートを……そうですわよねぇ、親類縁者でもなければこんな…おほほ、ルシアン様はお優しい方なのですね」

どういう意味だコラ?
と、ハノンは言いたかったが何とか堪える。

笑顔を貼り付けてその夫人に言う。

「従妹という関係性がなくても、息子とミシェル嬢は仲良しなんですのよ。趣味や会話が合うと、いつも一緒におりますもの」

ウソではない。
ルシアンもミシェルも剣を嗜む者同士、鍛錬の話や剣技の話、そしてこれまた共通の趣味である読書についても、二人はいつも楽しそうにしている。

「そ、そうなんですのね」

夫人と令嬢の顔が引き攣った。
ミシェルとルシアンの関係が何でもないという言質を取りたかったらしい。

此の所いつもこうだ。

皆が探りを入れてくる。
ルシアンの婚約は早くに結ぶつもりなのか、候補者は何名いるのか、うちの娘に希望はあるのか……

かつては夫のフェリックスの為に早々に二人の婚約者候補者を立てたワイズの義両親の気持ちが少し分かったハノンであった。


お茶会の後半は子ども達の為に庭園での宝探しゲームとなった。

庭園のあちこちに隠された小さな宝箱をいち早く見つけたペアの勝ちという簡単なゲームだ。

ポレットは勿論デイビッドとペアを組むらしい。

しかしルシアン目当ての令嬢達はゲームそっちのけで、誰がルシアンとペアになって宝箱を探すかと揉め出した。

王太子妃殿下の侍女長の掛け声にて皆が一斉に庭園へ散らばる。

ほとんどの者が一緒に来た者とペアになっているようだ。

ミシェルはちらりとルシアンの方を見る。
数名の令嬢たちに捕まってウンザリした顔をしていた。

「ルシアン様、おかわいそう」

ミシェルは思った。ルシアンの分まで頑張って宝箱を見つけて、ルシアンを喜ばせてあげようと。

ルールとしては絶対にペアにならなければならないとは告げられていない。

それなら自分が一人で二人分頑張ればいいとミシェルは張り切った。

そうして庭園の中を色々と見て周る。

生垣の隅やベンチの裏、花壇の柵の下や噴水の水の中も目を凝らして懸命に探す。

ミシェルは思った。
もしかして誰にも見つからないように木の上に隠されているかもしれないと。

キョロキョロと辺りを見渡して適当な木を探してみる。

「あ……!」

ミシェルはそこへ、小走りで向かった。



一方ルシアンは、まだ勝手に揉めている令嬢達の側からそろりと抜け出してミシェルを探していた。

ペアを組むなら断然ミシェルがいい。
ルシアンは宝箱ではなくミシェルを探した。

すると向こう側から騒然とした声が聞こえる。

「?」

不思議に思ったルシアンがそこへ行ってみると……
なんと木の上に登っているミシェルを令息や令嬢が見つけて大騒ぎをしているのだ。

「危ないから降りておいでよ」
と言う者の声もあれば、

「令嬢なのにあんなに高い所まで登れるなんて……」
と感嘆の声を上げる者もいる。

でもある一人の令嬢が、

「ふふ、やはりゴリラは木登りがお好きなのね」

と、明らかに侮辱した発言をした。

それを聞き、周りのみんなも笑い出す。

ルシアンはその発言をした令嬢や、馬鹿にしたように笑った者に向かって言った。

「ミシェルはゴリラじゃないよ。僕の大切なイトコを馬鹿にするのはやめて欲しい」

まさかルシアンがそんな事を言うとは思いもしなかった令嬢は俯き、笑っていた者も気まずそうに押し黙った。

ルシアンはそれを一瞥して自身も木に登り始める。

「ル、ルシアン様っ!?」

他の子女達がぎょっとした顔でルシアンを見る。

それを尻目にルシアンはどんどん木を登って行く。

やがてミシェルがいる枝の上にまで辿り着いた。
しかし結構な高さだ。

「やぁミシェル」

「わ!ルシアン様どうしたの?」

「ミシェルこそどうしたの?なんで木に登っているの?」

ルシアンが尋ねるとミシェルは木のウロの方を指差した。

「木に登ろうとしていたら、フクロウモドキのヒナがウロの中の巣から落ちていたのを見つけたのです。それで人の匂いが移らないように魔術で包みながら運んで、巣に戻したところだったのです!」

ルシアンがウロの中を見ると、ヒナが数羽、こちらを覗いていた。
フクロウモドキはフクロウに似た小さな魔物だ。
魔物といっても無害で大人しい性格なので、駆除対象からも外れている。

「そうか。ヒナに人の匂いが付いたら、親が嫌がって育児放棄する場合もあると本で読んだ事があるよ。考えたねミシェル、魔術で包めば触れても匂いは移らない」

「はい、そうなのです!」

「はは。でもどうして最初に木に登ろうとしたの?」

「ルシアン様の分まで頑張って宝箱を見つけようとしたのですが、なかなか見つからなくて……もしかしたら木の上に隠しているかもしれないと思ったのです」

「僕の為に?」

「はい!わたしとルシアン様は今日はパートナーですから!」

屈託なく笑うミシェルの笑顔に、ルシアンはドキっとした。

近頃含み笑いや媚びを売るような笑みばかり見ていたルシアンに、ミシェルの裏表のない笑顔がとても眩しく感じたのだ。

『ミシェルはホントに優しくて真っ直ぐな性格だな』

ミシェルにパートナーだと言って貰えて、ルシアンは俄然やる気が出てくる。

それならば絶対に宝箱を見つけて、二人で勝利を分かち合いたいとルシアンは思った。

「ミシェル、誰もが木に登れる訳ではないから木の上には隠してないと思うよ?」

「あ、それもそうですよね」

「でもねミシェル。木に登ったからこそ出来る事もあると思わない?」

「え?それはどういう事ですか?」

ミシェルがきょとんとして尋ねてきた。

「高い所にいると、上から遠くまでよーく見渡せるだろ?」

「あ!なるほど!上から宝箱を探すんですね!」

「正解」

そう言って二人は木の上から宝箱を探してみた。

ルシアンもミシェルも視力はかなり良い。
懸命に目を凝らして見える範囲の庭園を隅々まで見渡した。

そしてルシアンは、王太子妃殿下が座るベンチの足元にキラリと光る物を見つける。

「見つけた!ミシェル、妃殿下の足元だよ!」

「行きましょう!ルシアン様っ!」

「えっ?」

そう言ってミシェルは木の枝を巧みに使ってみるみるうちに木を降りて行く。

身体能力もさることながら、握力や膂力りょりょくの強さも凄まじいものがある。

あの小さな体にどこにそんな力があるのかルシアンには不思議で堪らなかった。

『やっぱりミシェルは面白い……!』

ルシアンも負けじとするすると木を降りて行った。

そして二人でダッシュして、
「お足元を失礼します!」と妃殿下に声を掛けてから宝箱をゲットした。

「勝者はルシアン様とミシェル様です!」

侍女長が声高らかに宣言する。

「やったね!ミシェル!!」

ルシアンはミシェルの手を取って喜んだ。

「はい!ルシアン様のおかげです!」

そう言ってミシェルは今日一番の笑顔を見せた。

「!」

その瞬間、ルシアンの心臓はさっきとは比べものにならないくらいに早く打ち出した。

いつもニコニコと微笑んでいるミシェルだが、
さっきの笑みは最上級の笑顔だろう。

またこの笑顔が見たい、ルシアンはそう思った。

他の令嬢たちがなんだか面白くなさそうにミシェルを睨んでいる。

ルシアンはそれらから庇うようにミシェルの側に立った。
その後からはルシアンは絶対にミシェルの側からは離れなかった。

それを見たハノンの勘が働き出す。
母親の勘というよりも女の勘だ。

『あらあら……?ルシアンってばもしかして……?』

淡い初恋が芽生えた瞬間を、目の当たりにしたかもしれない……。

『さすがはわたしの息子、人を見る目があるわ!なんてね』

ハノンはそっと、微笑ましい二人を見守った。

宝探しの勝者には、妃殿下からお菓子のプレゼントがあった。


一部の心無い者の不躾な発言はあったものの、そろそろ無事にお茶も終わろうかというその時に、招かれざる客が現れた。

ポレットがデイビッドも出席するお茶会に参加する事を知っていたフェリックスが、終業後に駆け足で迎えに来たのだった。

「ポレット!父さんが迎えに来たぞ!さぁ一緒に帰ろう、とっとと帰ろう!」

そう言って一目散に娘の元へと行き、デイビッドと繋いでいた手を丁重に引き剥がしてポレットを抱き上げた。

「王太子妃殿下、デイビッド殿下におかれましてはご機嫌麗しく祝着至極に存じます。本日はこのような席にお招き頂き有難うございました。では我々はそろそろ御前を下がらせて頂きます故、これにて失礼仕ります」

と、形式的な口上を早口で述べて、ハノンとルシアンとミシェルを連れ帰ろうとする。

その様子に対してデイビッドが不敵な笑みを浮かべていたのを、ルシアンはバッチリと見てしまった。

狭量で頑固な父と腹黒策士なデイビッド。

これはポレットも苦労するなと、ルシアンはため息を吐いた。

「ルシアン様?どうかされましたか?」

突然ため息を吐いたルシアンを心配してかミシェルが尋ねてきた。

ルシアンは優しい笑みを浮かべてミシェルに答える。

「なんでもないよ。帰ろう、ミシェル」

「はい!」

元気よく答えたミシェルの手を、ルシアンはそっと繋いだ。

「僕も北方騎士団の練習に参加してもいいかな?」

「ぜひどうぞ!北の騎士達みんなはルシアン様の事が大好きですし、父も喜びます!」

「じゃあ近々転移魔法でそっちに行くよ」

「お待ちしております!」

「うん」

嬉しそうに返事をしてくれるミシェルを見て、ルシアンの方がもっと嬉しくなる。

二人、楽しそうに手を繋ぎながら馬車まで歩いた。


そしてルシアンは馬車に乗っている間もミシェルの手を離さなかったそうだ。









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