無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

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ミニ番外編

聖女の信仰者たち

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「ワイズ嬢、キミは王子殿下との婚約を辞退するべきだ」

「お黙りなさい。この婚約は王家からの希望により結ばれたものよ。一介の貴族子息が口出し出来るものではなくってよ」

「アデリオールに聖女が誕生したんだ、王子殿下の妃にはリリス様が相応しい」

「まぁぁ?聖女って、結婚したら聖女資格は失われるとわかっていてそのような事を言っておられるのかしら?」

「先程から何なんですかっ?僕たちはワイズ嬢に言っているんです!なぜ全てワイズ先生が答えるんですか!」

「同じワイズなのだから別に構わないでしょう?」

「構うに決まっているじゃないですか!」


「ダァァッ!!もうウルサイわネっ!今食事中なのヨっ!!邪魔だから出ておいきっ!!」


医務室の談話スペースでポレットとミシェルがランチを食べていると、聖女リリスを崇拝する数名の男子生徒がやって来た。
そしてポレットにデイビッドとの婚約についてとやかく言って来たのだ。

それに対し一緒にランチを食べていたイヴェットがポレットが返事をする前に返し、男子生徒たちと応酬を繰り広げていたところメロディが一喝を入れたというわけだ。

舞台俳優も真っ青というくらいの肺活量と腹式呼吸にて放出された声量に皆が耳に手をあてた。

そしてメロディは続けて聖女の信仰者たちに告げる。

「アンタたち、ここは医務室ヨ?具合が悪くないならサッサと出ておいきなサーイ」

「ワ、ワイズ嬢たちだってただランチを食べているだけじゃないかっ!」

「ウッサイわネ!これは栄養という名のお薬を補給してんのヨ!これ以上ゴチャゴチャ言うならお尻の穴にぶっとい座薬をブチ込むわヨっ♡」

「ヒ、ヒィィィ!」

メロディがそう一喝すると、男子生徒たちはお尻を押さえながらそそくさと逃げて行った。

「ったく……あの聖女の崇拝者たちにも困ったモノよネ!アイツら絶対も大したコトないわヨ♡」

メロディのその言葉を聞き、イヴェットが感激して椅子から立ち上がる。

「まぁ!これがハノン様が仰っていた“エロディ節”ですのね!生で聞けて感激ですわっ!」

「もぅハノンったら“エロディ節”なんて勝手に名付けて!でも生だなんてなんかエッチィわネ♡」

「キャーー!また生エロディ節ですわ~!」

「言い方が更にエッチィ~♡」

話題が明後日の方向へ飛んでゆくメロディとイヴェットを他所に、ミシェルが心配そうな顔をポレットに向ける。

「……ポレット……大丈夫?」

聖女こそがデイビッドに相応しいと、
ポレットに婚約解消を求めて他の生徒が直談判してくるのはこれが初めてではなかった。

その度にポレットは
「わたくしの一存では決められません。ご意見があるなら陳情書をお出しください」
と真摯に対応したり、直ぐにイヴェットかメロディが飛んで来て信仰者達を蹴散らしているのだが、ポレットに対し不躾に意見してくる者は日に日に増えてきていた。

今のところ学園内だけの騒ぎだが王家側としては一応、王子の婚約に何ら変更はないという小さな表明を学園長を通じ発している。
それにも関わらず聖女を盲信する者たちは一方的な考えを押し付けてくるのであった。


ポレットは少し困った顔をしてミシェルに答える。

「大丈夫……と言いたいところだけど、正直ちょっと疲れているかも」

「ポレット……」

ミシェルが気遣わしげにポレットの肩に手をあてた。


「だけどナニ?コレもみんな性女チャンの魅了パワーの仕業ナノ?」

メロディが食後のハーブティーを淹れながら言った。
ちなみにこのハーブティーはメロディの独自ブレンドである。
今日はレモングラスとミントで、食事の後口をさっぱりとさせてくれる。

イヴェットがハーブティーをひと口飲んでから答えた。

「証拠はありませんが間違いないですわね。聖女が興味を示さない男子生徒や女子生徒、そしてこの魅了を弾くブレスレットを着けているわたくし達以外の者はみんな洗脳に近い状態に陥っていますわ」

「厄介よネェ……ねぇポレッティ、事態が落ち着くまで学校を休んだ方がいいんじゃない?」

メロディがそう言うとポレットは首を横に振った。

「このくらいで怯んでいては、将来国を背負っていかれるデイ様を支えていく事など出来ないもの」

「でも神聖力は特別だからと理由をつけて禁忌の魔法を使用するなんて普通の感覚ではないわ。用心に越した事はないと思うの」

ミシェルがそう言うとイヴェットも同調する。

「そうですわよポレット。聖女は魅了でコントロールしている他の者を使って貴女を攻撃してしていますのよ?あまり軽んじて考えてはいけませんわ」

ポレットは皆に微笑んで見せた。

「ありがとうみんな。でもやっぱりわたし、負けたくないの。だから普段と変わらず堂々としているわ」

毅然とした様子で皆に告げるその様は未来の王妃の風格を醸し出している。
本人がこう言う以上、無理に屋敷に閉じ込める事も出来ず、メロディもイヴェットもミシェルも絶対にポレットを一人にしないと互いに示し合わせた。


しかしイヴェットやミシェルが懸念していた事が実際に起きてしまう。
リリスの魅了は一部の教師にも及んでいたのだ。
しかもそれが魔術指導の教諭であったのが事を大きくした。

それは魔術実技の時間に起きた。

「ポレット=ワイズ。キミは大陸教会が認める聖女という存在を軽く見すぎているのではないかね?名門侯爵家の縁者とはいえ所詮は伯爵家の娘如きが王子の婚約者などと……キミは自分が聖女よりも秀でているとでも思っているのか?」

突然授業とは関係ない事を魔術の実技指導を担当するウノムに威圧的に告げられ、ポレットは驚いた。

「……ウノム先生、仰っている意味がよくわかりませんわ。実技の授業とわたくしの実家の事と何か関係があるのでしょうか?」

それでもポレットが冷静に返すと、ウノムは更に居丈高なもの言いをした。

「大いに関係あるぞ。聖女はキミに将来の国母としての資質があるのかを心配されている。そこでだ、今この実技時間を利用してキミの力量を測る事にしたのだよ。少しでも聖女の憂いを取り除いて差し上げるのが敬虔な信徒としての務めだからな」

ウノムから漂う殺気に近い気配にポレットは一歩後ずさる。

「……生徒に向かって魔術を展開されるおつもりですか?」

対してウノムは大きく一歩足を踏み出してポレットと距離を縮めた。

「実技指導の一環だよ」

そう話すウノムの目には何も映ってはいないようだった。
完全に洗脳に近い、ポレットはそう思った。

その時、ポレットとウノムの間に割って入った者がいた。
ミシェルが実技室の壁に掛けてある魔法剣の模擬刀を手にして、ポレットを背に庇うようにしてウノムと対峙したのだ。

「ミシェル……!」

ポレットが自分より少し低いその背中を見る。

ミシェルは背後の気配にも気を配りながら前方のウノムに意識を集中させた。

「……先生、これは授業とは言えません。おやめください」

ミシェルがウノムにそう言うと彼は顎を突き出し、感情の籠らない声を発した。

「ミシェル=ロードリック。邪魔だ、そこをを退きたまえ」

「嫌です。先生こそお引きください」

「巻き込まれて怪我をしても知らんぞ」

「それは怪我をさせるほどの術をポレットに向けるという事ですか?」

ミシェルが毅然としてそう告げるとウノムは鼻で笑った。

「それはポレット=ワイズの力量次第だ。そこを退け」

「退きません」

「ミシェル……!」

ウノムを対峙し一向に引かないミシェルにポレットが言う。

「ミシェル危ないわ、お願いだから下がっていて。わたしには王家より守りの加護を授けられているから大事には至らないわ」

そう。デイビッドとの婚約成立時に、ポレットは将来の王族として王家の者だけが受けられるという加護魔法を施されているのだ。

「それでも、ポレットに魔術攻撃されるのをただ見ている事など出来ないわ」

ミシェルがそう言うと、ウノムは声を荒らげた。

「攻撃ではないっ!授業の一貫だと言っているだろう!」

「これが授業だなんて認められません!」

「生意気な生徒めっ!」

怯む事なくそう告げたミシェルに苛立ちがピークになったウノムが素早く術式を展開させた。
そしてミシェルとポレットに向けて発動させたのだ。

二人を拘束したいのだろう、術式により顕現した植物の蔦がミシェルとポレットを襲う。
他の生徒から悲鳴が上がった。

ミシェルは素早く剣を抜き、襲いかかる蔦を次々に斬り伏せ、薙ぎ倒してゆく。

しかしポレットを背に庇っているために身動きが取れないミシェルは段々と追い詰められていた。

それでも冷静に対処していくミシェルの一瞬の隙を突いて、1本の蔦が彼女の利き腕に巻き付いた。

「あっ!」

それでも剣を落とさなかったのが流石といえよう。
しかし容赦なく他の蔦がミシェルの腕に絡まる蔦を這って迫ってきた。

「ミシェル!」

無数の蔦がミシェルに襲いかかろうとしたその時、

その大量の蔦が一瞬で斬り払われた。

斬り裂かれた蔦がミシェルの足元にボトボトと落ちてゆく。

「なんだお前はっ、上級生がなぜ授業の邪魔をするっ!」

突然現れた人物を見て、ウノムが声を荒らげた。


「……ルシアン様っ……!」

「お兄さまっ!」


ポレットとミシェルのピンチがなぜ分かったのか、

ルシアンが二人に背を向けて立っていた。





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次回、魔術教諭は怒らせてはいけないあの人を怒らせた、の巻。










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