無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
82 / 161
ミニ番外編

破滅の足音③ 学園、管理下に

しおりを挟む
「……ワイズ卿はまだ来られんのか」


学園の長である自分の首を狩りに来た、地獄の使者の襲来に覚悟を決めたバルビエが補佐の者にそう訊ねた。

今回教師に襲われた王子の婚約者の父であり、近衛騎士隊長でもあるフェリックス=ワイズ伯爵が学園長室にやって来るとの知らせを受けてからすでに半時が過ぎている。

「先ほどワイズ伯爵夫人が学園に到着され、それを知らされた伯が慌てて出迎えに行ったと聞き及んでおります」

補佐の者にそう告げられ、バルビエは表情を明るくした。

「そ、そうか!ワイズ卿の夫人への溺愛は有名だからなっ。夫人に会われたことがクッション材となり、卿のご機嫌が少しでも良くなるといいのだが…….」

「はい誠に……」

「伯爵はいそいそとエントランスに向かわれたそうなので期待出来るかと……」

「そ、そうか!」

補佐役二名の者にそう言われ、バルビエの声が高くなる。


だがしかし…………



カタカタカタ……


───何が期待出来るだ!この文字通り背筋も凍るワイズ卿の冷たさはなんだっ!!


学園長室の応接ソファーに対面となって座るフェリックスから漂う冷気に、バルビエが震えながら補佐役二名を睨めつけた。

補佐役たちは気まずそうに顔を背けている。

フェリックスは膝に手を当て無言で座っている。

カタカタカタ……

バルビエは寒さと恐怖で歯の根が合わない自身の体を叱咤し、居住まいを正してフェリックスに言った。
先手必勝、謝罪は迅速かつ丁寧にを心がけて。

「こ、此度の事、偏に学園の長である私の不徳の致すところ……王子殿下の婚約者であるご息女を危険な目に遭わせて誠に申し訳ありませんでした……!」

座位姿勢のまま頭を下げたバルビエだが、フェリックスからの応答は一切なかった。

深々と下げた後頭部に冷ややかな目を向けられているのを肌で感じる。

───もう許して!なんとか言って!

バルビエが心の中で悲鳴をあげると漸くフェリックスが口を開いた。

「……それは学園長として、教師の監督不行届を詫びておられるのですか?それとも学園内に宗教が蔓延る事を看過した事を詫びておられるのですか?それとも……「全てです!もう全て!!教師を律しきれなかった事も、信仰の自由だからと放置したのも、ご息女が一部生徒から言いがかりを付けられていた事を知りながらも静観したのも、男子生徒を侍らせて闊歩する聖女を厄介だからと注意しなかった事全てに対する謝罪ですっ!!」

バルビエはフェリックスにみなまで言われる前にその言葉を遮って一気に捲し立てた。

肩で息をしながら、バルビエはフェリックスの顔を見る。
向こうはまるで氷の彫像のように無表情でバルビエを見ていた。

───くそっ相変わらず無駄にイケメンだなおいっ。その上侯爵家の出で伯爵で王家の信任厚い近衛騎士だとっ……?天はなぜ、こいつに二物も三物も四物も五物も与え給うたのだ!

半ばヤケクソになりながらそんな事を考えるバルビエは、自身の首に巻いていたマフラーをそっと巻き直した。

フェリックスは冷静……文字通り冷たい静かな声で告げる。

「そこまでわかっていながらなぜこのような状況になるまで……とは申しますまい。貴方の正式な処分は学園理事会が下す事、私の管轄外です。しかし禁術による精神を汚染された人間が学園内に多数いること、そして王子の婚約者への傷害未遂は話が別です。王太子殿下の命にてこれより学園は当面の間王国騎士団の管理下となります。宜しいですね?」

「む、無論だ……」

バルビエが力なく答えると、フェリックスは言葉を重ねた。

「では直ちに調査に入ります。すでに学園は騎士団により敷地内全封鎖。許可が出るまでは学園からは誰一人出られません」

「わ、私はっ……私はどうすればよいのです?」

「学園長は指示があるまでこの部屋で待機願います。もちろん騎士が見張りに付きますので、変な行動は起こされませんよう」

「と、当然だっ、私は聖女に感化されてはおらんっ……」

「ならば重畳。そのまま静かにお待ちください」

フェリックスはそれだけ告げると徐に立ち上がった。

それを見たバルビエは慌ててフェリックスに訊ねた。

「こ、これから学園で何が起こるのですっ?調査だけですかっ?禁忌の術に犯された者たちをどうするのですっ……?」

フェリックスは立ったままその質問に答えた。

「手っ取り早く学園ごと浄化しますよ」

「浄化っ……?それでは何日も生徒を学園に拘束するというのですかっ?」

「言ったでしょう?手っ取り早く学園ごと浄化すると。まとめて一気にいきますよ」

「が、学園ごとっ……?」

「ええ。学園ごと」

「そんな事が可能なのかっ?」

「私には無理ですが、それが出来る者を呼んでおります」

「そ、それは誰なのですっ……?」

「本人たっての希望でシークレットです。本来は民事不介入をモットーとしているらしいので」

「え、えぇー……一体誰~……」

気になって仕方ないバルビエを残し、フェリックスは学園長室を後にした。

そして側に控えていた部下に指示をする。

「これより学園の調査を始める。調査を行うのは魔術師団の魔術師たちだが、騎士はその補助に当たるよう申し伝えろ。捕縛した教師は直ちに魔力無効化の拘束具着用の上投獄。調査、浄化が終わるまで誰一人学園から出してはならん。学園内への立ち入りも禁ずる。心してかかれ」

「はっ」

部下は敬礼し、足早にその場を去って行く。

フェリックスはそれとは反対方向に踵を返し歩き出した。

そろそろあの男が到着するはずだ。

今回、学園全体の浄化を依頼したあの男が。

フェリックスは長靴の硬質な靴音を響かせて長廊下を歩いて行った。





───────────────────────




さて、どっちが来ると思います?

ちなみに「☆」の住人の人なら、フェリックスは占いをして貰って依頼の再会となりますね。

でもまずその前に……










しおりを挟む
感想 3,580

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私

白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。