無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
83 / 161
ミニ番外編

破滅の足音④ 挿話 ハノン、医務室に来たる

しおりを挟む
「ハノン様、こちらですわ」

娘ポレットの身に起きた事件をイヴェットから知らされたハノンは急ぎ魔術学園へと駆けつけた。

ルシアンとフェリックスが直ぐに危険を察知しポレットの元へと駆けつけたので事なきを得たとは聞いていても、それでも無事な顔をみるまでは不安は拭いきれない。

ハノンはポレットが待つという医務室へと足を急がせた。

その途中、夫フェリックスがハノンの元へとやって来た。

「ハノン」

「フェリックス」

フェリックスを指揮官として既に学園は王国騎士団の管理下にあると聞いている。
彼はどうやら妻が学園に着いたと知らせを受け、直ぐにこちらに来たのだろう。

側に来たフェリックスにハノンは訊ねた。

「あの子は?ポレットは大丈夫なの?」

フェリックスがハノンを安心させるために大きく頷き肩に手を添える。

「大丈夫だ。ルシアンとミシェルのおかげでかすり傷一つない」

「良かった……無事とは聞いていたけれど、やっぱり不安で……」

「わかるよ」

フェリックスはそう言って優しく妻の手を握った。
そして真剣な面持ちでハノンに告げる。

「今回のことでのポレットの精神的なショックはかなり大きいはずだ。生まれて初めて他者から害意を向けられ実際に攻撃を受けたのだから。ルシアンや護衛騎士に屋敷まで送らせてもよいのだが、側に一番安心出来る者がついていると心強いはずだ」

「そうね、すぐにあの子の元に行くわ」

「頼む」

ハノンはそれに小さく頷き、イヴェットと共に医務室へと向かうべく踵を返した。
が、すぐに立ち止まり夫に告げる。

「あ、フェリックス」

「なんだ?」

「既に怒り心頭なのでしょうけれど、やり過ぎはダメよ?」

「……善処する」

「でも、決して容赦はしないで」

ハノンの瞳の奥にある静かな怒りを感じ取り、フェリックスは不敵な笑みを浮かべる。

「当然だ」

自分たちの大切な娘が傷つけられようとしたのだ。
実際に心は傷ついている。
その事への怒りはフェリックスもハノンも同じであった。

部下に指示を飛ばしながら学園長室へと向かう夫の頼もしい背中を見送り、ハノンは再び医務室へと歩き出した。


魔術学園の医務室には今、ハノンの無二の心友しんゆうが勤めている。

ポレットとミシェル、自分にとっても娘同然の二人を有象無象から守るのだと言って、上手く伝手を使いその職をゲットした頼もしい心友。
そう、昔からハノンを支え、いつだって味方でいてくれたかけ替えのない心友、メロディが………。


ハノンが医務室に到着すると、半開きになっていたドアの向こうから賑やかな声が聞こえてきた。

「そしたらさぁ!ハノンたら旦那が浮気したと思ってアタシの家に家出してきたのヨっ?まだ幼いルッシーとバブバブだったポレッテイを連れて!」


「…………」


───おい心友。

「モ~この世の終わりだーみたいな、死にそうな顔してさぁ!」

ハノンはツカツカと医務室の中を闊歩して唯一無二の心友のこめかみを後ろから拳でグリグリした。
そしてドスの利いた低い声でメロディに言う。


「死にそうな顔をしてたのは二日酔いで緑の顔色をしていたあなたでしょ!このゲロディめぇぇっ……!」

「ア゛アダダダダッ!やだハノン!もう来たのっ?」

「もう来たの?じゃないわよっ!なに娘たちに暴露してくれちゃってんのよぉぉっ」

「アダダダダッ!メンゴメンゴッ!ていうかゲロディって呼ばないでヨっ!確かにあん時は二日酔いで吐いちゃったけどさっ!」

「巨大な酒樽かと思ったわよ!酒臭いったらなかったんだから!」

ハノンはそう言ってからメロディのこめかみを解放した。
まさかかつての珍騒動を娘たちに話しているとは思わなかった。

しかしその時、ジト目でメロディを睨めつけるハノンの胸にポレットが飛び込んだ。

「母さまっ!」

「ポレットっ……」

ハノンは自分より少しだけ背の低いその体を優しく抱えこむ。

「無事でよかった……」

「母さま……」

妃教育を受けてきたポレットの事だ。
取り乱したり、怖いからと泣いてはいけないと自分を律していたのだろう。
それが母親の顔を見て一気に崩れた。

小刻みに震え小さく嗚咽を漏らす娘の体を、ハノンはぎゅっと力を込めて抱きしめた。
もう大丈夫だと。安心させてやりたくて。

「ポレット……」

そんなポレットを見てミシェルがが涙を浮かべている。
察しがよく優しいミシェル。
ハノンはポレットを抱きしめる片方の手をミシェルに向かって広げた。

「ミシェル」

「っ叔母様……」

ミシェルもハノンの胸の中にそっと入ってきた。
ハノンは娘二人をぎゅっと抱きしめる。

「ミシェル、ポレットを守ってくれてありがとう。でもあなたは大丈夫?どこも怪我していない?」

「はい、大丈夫です……」

静かに答えるミシェルにハノンは「そう、本当に良かったわ……」と言って額にキスをした。
もちろんポレットの額にもキスを落とす。

その母と娘、叔母と姪の仲睦まじい光景を見て、
メロディはスカラップレースが縁取る大判のハンカチーフを取り出して目元を拭っていた。

「泣けるわぁぁ……!やっぱり家族愛って素敵よネぇぇ!下手な三文芝居よりよっぽど泣けるわぁぁ……!抜けるんじゃないのヨ?泣けるのヨ?」

「うるさいわよエロディ。娘たちに変なことを聞かせないで」

ポレットとミシェルを抱いたままハノンが言うと、メロディは体をクネらせた。

「ンもうハノンのイヂワル!でもやっぱり娘たちはカワイイわよネ♡アタシからも母乳が噴射されそう♡」

「いや出ないから」

「ぷ……ふふ」「ふふふ」

ポレットとミシェルがハノンとメロディの会話に思わず吹き出す。
笑顔が戻った事にハノンは安堵した。

そして感極まって興奮したのがイヴェットである。

「こ、これがお話に聞いていたお二人の掛け合いなのですね!ボケとツッコミ!ホントに女漫才師みたいですわーー!」

イヴェットは夫からハノンとメロディがボケとツッコミのような会話をすることを聞いていたらしい。
それを実際に目の当たりに出来て感激しているのだ。

メロディが超絶いい笑顔でイヴェットに言った。

「イヤン♡ツッコミだなんてエッチぃわ!でもアタシもハノンもホントはツッコまれる方…「お黙りエロディ」

最後まで言わせるものかとぶった切るハノンにイヴェットは大喜びだ。

「出ましたわ~!カミソリのようにキレッキレ!お見事ですわ~♡♡♡」


「「ふふふふふ」」

ポレットもミシェルも鈴を転がすように笑い続けている。

いつの間にかその場の空気が明るく楽しいものへと変化していた。


ハノンは柔らかい笑みを浮かべ、心友に言う。

「メロディ、ポレットとミシェルの側にいてやってくれて、本当にありがとう」

そして場を和ませ、二人の気持ちを明るくさせてくれたことも。

メロディはニヤリと微笑む。

「ナニ言ってんのヨ。なんてことないわヨ」

「それでも……ありがとう」


そしてハノンは護衛騎士に守られ、娘たちと共に帰宅していった。

その馬車を見送りながらメロディがひとり言ちる。


「さてと、じゃあアタシは小悪党どもの末路を見届けましょうかネ」


学園の大掃除は既に始まっていた。




















しおりを挟む
感想 3,580

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました

奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」  妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。 「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」 「ど、どうも……」  ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。 「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」 「分かりましたわ」  こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。