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ミニ番外編
ディビッドの光
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「うふ♡ディビッド王子♡ワタシだけの王子さま♡」
ふいに聖女リリス触れられ、顔をのぞき込まれる。
そんな不躾で不敬極まりないリリスに非難の目をディビッドが向けた途端に彼女と目が合った。
正確には強引に目を合わされたと言った方がいいだろう。
その瞬間、どろりと心の中に何か熱くて不快なものが入り込んでくるのを感じた。
何かに“汚された”そんな感覚がしたと同時に目の前にいる人物に驚く。
「ポレット……?」
あれ?今、一緒にいたのはポレットだったか……?
ディビッドは相手を凝視する。
胸の内に感じるこの強い恋情。
自分がそれを向けるのはこの世にたった一人だけだ。
今、目の前にいる人物にそれを強く感じるのなら、それはやはりポレットに違いない。
「ディビッド王子♡」
「ポゥ………」
いつものように最愛の存在に手を伸ばしその頬に触れる。
「うふ♡かかった♡」
「…………」
しかし何故だろう。
ディビッドは強い恋情を感じると共にどうしようもない嫌悪感も強く感じた。
おかしい、自分がポレットに対しこんな気持ちの悪い感覚を抱くなんて。
自分の中の何かが警鐘を鳴らしている。
違う、騙されるな、ソレは違う、と。
……違う?
目の前にいるのはどう見てもポレットだ。
本当に大好きで、大切で、そして愛おしい……
そう思った瞬間、ディビッドの中で何かが弾けた。
「ディビッドオウジ……?」
たった今、ポレットだと思った人物の顔が急に黒塗りになり、声は禍々しくどこか遠くに聞こえた。
「………すまない、急用を思い出した、これにて失礼する」
そう声を押し出し、なんとかいつも通りの態を装ってその人物から離れたのは流石は王子といえよう。
ディビッドは足早に退室しその場を離れた。
早く、早くあの者から離れなくては。
その思いだけで必死に足を動かす。
気をしっかり保たねば再び禍々しい恋情に支配されそうになる。
なぜこうも自分はその感情に抗うのかわからない。
わからないがアレは違う、ポレットではない、心がそう叫んでいるのだ。
先程弾けた何か、それが護りの術式だったとしたのなら……
この容赦なく押し寄せようとするおかしな感覚に決して身を委ねてはいけない。
そうすれば本当に大切なものを失ってしまう。
嫌だ、失いたくない。
僕の大切なものを奪おうとするな、やめろ、
「やめろっ!!」
その言葉を吐き出して、ディビッドは意識を手放した。
それから自分がどうなったのか、ディビッドにはわからない。
ただずっと泥濘の中で藻掻き、足掻き続ける中で大人の男性の声が聞こえていた。
「コレに抗っているのか。凄いな…王子、あなたは強い子だ」
「よく頑張ったな。すぐにその気持ちの悪いものを引き剥がしてやるからな」
「大丈夫だ。心を強く保て。大切な人の事を思い浮かべていろ、それがお前の力となる」
その声に励まされ、ディビッドは熱い泥の中で上空に光る一つの星に手を伸ばした。
ポレット。
その名を口にする。
一度そう呼ぶと手を伸ばした先の星が輝きを増す。
ポレット。
もう一度口にするとその光は更に強くなる。
ポレット。
三度口にしたと同時に、眩い光に包まれた。
「よし、解術できたぞ」
目の眩むような光の中で、もう一度男性の声が聞こえた。
その後の記憶はディビッドにはない。
次に目を覚ましたのは寝台の上だった。
柔らかな光が室内に差し込み、少しだけ開けられていた窓から入る風が繊細なレースのカーテンを揺らしていた。
「ディビッドっ……?」
自分を呼ぶ母親の声が聞こえる。
そちらに視線を向けると、目に涙を溜めた王太子妃である母がこちらを覗き込んでいた。
「………は…はうえ……」
自分でも驚くほど掠れた声が出た。
起き上がろうにも体が鉛を詰め込んだように重い。
「良かった……よ、良かったっ……どれほど心配したことかっ……」
そう涙ながらに話す母親の側では侍女や侍従たちの動きが俄に騒然となる。
「母上……僕は一体……」
「説明は後、まずは医療魔術師の診察を受けなさい……」
母はそう言って華奢で温かな手で息子の手を包み込んだ。
診察の結果、とくに後遺症や主だった症状も無くまずはひと安心との事であった。
その後少ししてディビッドが完全に落ち着いた状態で、自身の身に起きた事を説明された。
ディビッドは聖女リリスが身に着けている魅了指輪により、禁術とされる魅了魔法にかけられたのだそうだ。
それはとても強力な術で、王家の護りの術式が掛けられているディビッドの深層心理深くにまで一瞬で入り込んだのだとか。
しかしディビッドは本能的にそれを無意識に拒絶、排除しようと自身の全魔力を使って抵抗した。
が、まだ魔力もそれを扱う能力も未発達であったディビッドは、自身の魔力と魅了の魔力により魔力障害を引き起こし、一時かなり危険な状態だったという。
祖父である国王の側近コルベール伯が自身の息子、アルト=ジ=コルベール卿に救援を要請した。
そして卿によりディビッドに掛けられた魅了魔術を解術、乱れた魔力を安定させて増幅するという処置により一命を取り留めたらしい。
しかし体力の消耗と、何より心理の奥深くまで侵食した魔力に過剰に抵抗した精神の摩耗が激しく、ディビッドはずっと昏睡状態であったそうだ。
そうしてようやく意識が戻ったのだが、起き上がり普通の生活に戻れるまではそれなりの時間を要した。
その間、証拠集めや国教会への根回しのために泳がせていた聖女をようやく捕らえ、牢獄に繋ぐ事が出来たらしい。
ポレットが教師に襲われた件もその時に聞かされたディビッドがすぐにポレットの元に駆けつけようとしたが、まずは体力を戻すのが先だと両親に止められた。
それから幾日、ディビッドはポレットに会える日を思い募らせる日々をすごしただろう。
ポレットの父親であるワイズ伯とディビッドの父親である王太子クリフォードが日程と場所を取り決めてようやく面会が許されたのであった。
そして王家の保養所のある湖の畔でディビッドはポレットと再会を果たす。
父親に連れられたポレットの顔を見た途端に、ディビッドは泣きたくなった。
胸がいっぱいになって名前をつぶやくのが精一杯だった。
その存在を確かめたくて思わす両手を広げる。
ここに、自分のもとに来て欲しくて、早く触れたくて手を伸ばす。
「デイ様っ……!」
そう切羽詰まった声で胸に飛び込んできたポレットを抱きしめ瞬間、ディビッドは自身の生を初めて認識したような気持ちになった。
後ろでワイズ伯の眼光が光ったような気もするがそんな事どうでもよかった。
生きている。
生きて、再びポレットと会えた。
それが何よりも嬉しい。
ディビッドは心からそう思った。
それから、ワイズ卿や他の近衛騎士の視線を遠くに感じながらもポレットと二人、湖の畔をゆっくりと歩きながら話をする。
ディビッドのこれまでの事。
ポレットのこれまでの事。
そして二人とも無事で、またこうして一緒にいられることを互いに喜んだ。
ディビッドはふと立ち止まり、心配で仕方なかった事を口にする。
「……ポゥは……今回の事で嫌になってないか……?王家に縁付くと大変な目にばかり遭うと、この婚約が嫌になったのではないか……?」
不安げに瞳を揺らしながら告げるディビッドに、ポレットは自身の気持ちを正直に言葉にして答えた。
それを聞いたディビッドが心からの笑顔を見せる。
その時にポレットがどんな言葉を用いて、父親であるフェリックスに言った想いをディビッドに伝えたのかは、
ポレットとディビッド、二人だけの秘密である。
そしてそれを聞いたディビッドがポレットの頬に軽くキスを落としたのも、二人だけの秘密である。
まぁフェリックスは気付いていただろうが。
ふいに聖女リリス触れられ、顔をのぞき込まれる。
そんな不躾で不敬極まりないリリスに非難の目をディビッドが向けた途端に彼女と目が合った。
正確には強引に目を合わされたと言った方がいいだろう。
その瞬間、どろりと心の中に何か熱くて不快なものが入り込んでくるのを感じた。
何かに“汚された”そんな感覚がしたと同時に目の前にいる人物に驚く。
「ポレット……?」
あれ?今、一緒にいたのはポレットだったか……?
ディビッドは相手を凝視する。
胸の内に感じるこの強い恋情。
自分がそれを向けるのはこの世にたった一人だけだ。
今、目の前にいる人物にそれを強く感じるのなら、それはやはりポレットに違いない。
「ディビッド王子♡」
「ポゥ………」
いつものように最愛の存在に手を伸ばしその頬に触れる。
「うふ♡かかった♡」
「…………」
しかし何故だろう。
ディビッドは強い恋情を感じると共にどうしようもない嫌悪感も強く感じた。
おかしい、自分がポレットに対しこんな気持ちの悪い感覚を抱くなんて。
自分の中の何かが警鐘を鳴らしている。
違う、騙されるな、ソレは違う、と。
……違う?
目の前にいるのはどう見てもポレットだ。
本当に大好きで、大切で、そして愛おしい……
そう思った瞬間、ディビッドの中で何かが弾けた。
「ディビッドオウジ……?」
たった今、ポレットだと思った人物の顔が急に黒塗りになり、声は禍々しくどこか遠くに聞こえた。
「………すまない、急用を思い出した、これにて失礼する」
そう声を押し出し、なんとかいつも通りの態を装ってその人物から離れたのは流石は王子といえよう。
ディビッドは足早に退室しその場を離れた。
早く、早くあの者から離れなくては。
その思いだけで必死に足を動かす。
気をしっかり保たねば再び禍々しい恋情に支配されそうになる。
なぜこうも自分はその感情に抗うのかわからない。
わからないがアレは違う、ポレットではない、心がそう叫んでいるのだ。
先程弾けた何か、それが護りの術式だったとしたのなら……
この容赦なく押し寄せようとするおかしな感覚に決して身を委ねてはいけない。
そうすれば本当に大切なものを失ってしまう。
嫌だ、失いたくない。
僕の大切なものを奪おうとするな、やめろ、
「やめろっ!!」
その言葉を吐き出して、ディビッドは意識を手放した。
それから自分がどうなったのか、ディビッドにはわからない。
ただずっと泥濘の中で藻掻き、足掻き続ける中で大人の男性の声が聞こえていた。
「コレに抗っているのか。凄いな…王子、あなたは強い子だ」
「よく頑張ったな。すぐにその気持ちの悪いものを引き剥がしてやるからな」
「大丈夫だ。心を強く保て。大切な人の事を思い浮かべていろ、それがお前の力となる」
その声に励まされ、ディビッドは熱い泥の中で上空に光る一つの星に手を伸ばした。
ポレット。
その名を口にする。
一度そう呼ぶと手を伸ばした先の星が輝きを増す。
ポレット。
もう一度口にするとその光は更に強くなる。
ポレット。
三度口にしたと同時に、眩い光に包まれた。
「よし、解術できたぞ」
目の眩むような光の中で、もう一度男性の声が聞こえた。
その後の記憶はディビッドにはない。
次に目を覚ましたのは寝台の上だった。
柔らかな光が室内に差し込み、少しだけ開けられていた窓から入る風が繊細なレースのカーテンを揺らしていた。
「ディビッドっ……?」
自分を呼ぶ母親の声が聞こえる。
そちらに視線を向けると、目に涙を溜めた王太子妃である母がこちらを覗き込んでいた。
「………は…はうえ……」
自分でも驚くほど掠れた声が出た。
起き上がろうにも体が鉛を詰め込んだように重い。
「良かった……よ、良かったっ……どれほど心配したことかっ……」
そう涙ながらに話す母親の側では侍女や侍従たちの動きが俄に騒然となる。
「母上……僕は一体……」
「説明は後、まずは医療魔術師の診察を受けなさい……」
母はそう言って華奢で温かな手で息子の手を包み込んだ。
診察の結果、とくに後遺症や主だった症状も無くまずはひと安心との事であった。
その後少ししてディビッドが完全に落ち着いた状態で、自身の身に起きた事を説明された。
ディビッドは聖女リリスが身に着けている魅了指輪により、禁術とされる魅了魔法にかけられたのだそうだ。
それはとても強力な術で、王家の護りの術式が掛けられているディビッドの深層心理深くにまで一瞬で入り込んだのだとか。
しかしディビッドは本能的にそれを無意識に拒絶、排除しようと自身の全魔力を使って抵抗した。
が、まだ魔力もそれを扱う能力も未発達であったディビッドは、自身の魔力と魅了の魔力により魔力障害を引き起こし、一時かなり危険な状態だったという。
祖父である国王の側近コルベール伯が自身の息子、アルト=ジ=コルベール卿に救援を要請した。
そして卿によりディビッドに掛けられた魅了魔術を解術、乱れた魔力を安定させて増幅するという処置により一命を取り留めたらしい。
しかし体力の消耗と、何より心理の奥深くまで侵食した魔力に過剰に抵抗した精神の摩耗が激しく、ディビッドはずっと昏睡状態であったそうだ。
そうしてようやく意識が戻ったのだが、起き上がり普通の生活に戻れるまではそれなりの時間を要した。
その間、証拠集めや国教会への根回しのために泳がせていた聖女をようやく捕らえ、牢獄に繋ぐ事が出来たらしい。
ポレットが教師に襲われた件もその時に聞かされたディビッドがすぐにポレットの元に駆けつけようとしたが、まずは体力を戻すのが先だと両親に止められた。
それから幾日、ディビッドはポレットに会える日を思い募らせる日々をすごしただろう。
ポレットの父親であるワイズ伯とディビッドの父親である王太子クリフォードが日程と場所を取り決めてようやく面会が許されたのであった。
そして王家の保養所のある湖の畔でディビッドはポレットと再会を果たす。
父親に連れられたポレットの顔を見た途端に、ディビッドは泣きたくなった。
胸がいっぱいになって名前をつぶやくのが精一杯だった。
その存在を確かめたくて思わす両手を広げる。
ここに、自分のもとに来て欲しくて、早く触れたくて手を伸ばす。
「デイ様っ……!」
そう切羽詰まった声で胸に飛び込んできたポレットを抱きしめ瞬間、ディビッドは自身の生を初めて認識したような気持ちになった。
後ろでワイズ伯の眼光が光ったような気もするがそんな事どうでもよかった。
生きている。
生きて、再びポレットと会えた。
それが何よりも嬉しい。
ディビッドは心からそう思った。
それから、ワイズ卿や他の近衛騎士の視線を遠くに感じながらもポレットと二人、湖の畔をゆっくりと歩きながら話をする。
ディビッドのこれまでの事。
ポレットのこれまでの事。
そして二人とも無事で、またこうして一緒にいられることを互いに喜んだ。
ディビッドはふと立ち止まり、心配で仕方なかった事を口にする。
「……ポゥは……今回の事で嫌になってないか……?王家に縁付くと大変な目にばかり遭うと、この婚約が嫌になったのではないか……?」
不安げに瞳を揺らしながら告げるディビッドに、ポレットは自身の気持ちを正直に言葉にして答えた。
それを聞いたディビッドが心からの笑顔を見せる。
その時にポレットがどんな言葉を用いて、父親であるフェリックスに言った想いをディビッドに伝えたのかは、
ポレットとディビッド、二人だけの秘密である。
そしてそれを聞いたディビッドがポレットの頬に軽くキスを落としたのも、二人だけの秘密である。
まぁフェリックスは気付いていただろうが。
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