86 / 161
ミニ番外編
閑話 父の願い
しおりを挟む
学園の掃除もすっかり終わり、理事会によりすぐに学園長の挿げ替えが行われた。
(元学園長は責任を取って辞任…まぁ解雇という言葉が妥当だろう。地方の小さな初等学校の教頭となったらしい)
新しい学園長の下、新体制での学園の運営が急ピッチで進められている。
そんな中、落ち着くまではと学園を休学中のポレットを、父親のフェリックスはとある場所へと連れて来ていた。
王都の郊外にある王室の保養所。
王家の直轄領区にある、風光明媚で自然豊かな場所だ。
そこにポレットを連れてきたフェリックスは湖へと続く森の小道を歩きながら愛娘に言う。
「今回の事ではとても辛い思いをしたな、ポレット……」
「辛いというか……とても怖かったわ……人の悪意や害意って、呪いよりも恐ろしいものなのね……」
ポレットがそう答えると、フェリックスは憐憫の表情を色濃くして娘を見た。
「……王子の婚約者でいる限り、このような事がこれからも起こるかもしれないぞ」
「……そうですね……」
「ポレット。父さまはな、いや父さまもお祖父さまも伯父さまもお前の従兄弟たちも、その他ワイズ家門の男たち皆が、お前には要らぬ苦労はして欲しくないと思っているんだ。平凡でも心穏やかに暮らせる人生を贈って欲しいと願っている」
「父さま……?」
「しかし、王家に嫁ぐとなればそうはいかない。お前が歩む道は決して平坦ではない。魑魅魍魎が有象無象蠢く修羅の道だ……。ポレット、もし、お前が望むなら、もう王子の婚約者など辞めたいと思うなら、父さまが何とかしてやる。絶対にお前を守ってみせる」
「父さま……」
「お前には本当に幸せになってもらいたいんだ。それが父さまの、心からの願いだ」
その言葉を聞き、ポレットは父の瞳をじっと見た。
自分の瞳は父の、この赤い瞳を受け継いでいる。
そして受け継いでいるのは瞳の色だけではない。
ポレットはひとつ、小さく息を吐いて父親に訊ねた。
「父さまはどうして一度会っただけの、顔も知らない母さまを探し続けたの?その時は兄さまが生まれている事も知らなかったのでしょう?それなのになぜ?」
「なぜ、どうしてか……。理由なんて考えた事はなかったな、ただもう一度会いたい、それだけの想いに突き動かされていたよ。それは理屈じゃ説明できないな、どうしようもない強い想いが胸の内にあり、それは決して消えることはないんだ」
父がそう言ったのを受け、ポレットは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「わかる。わかるわ父さま。それは自分の唯一だから、そうでしょう?」
「あぁ。そうだ」
「デイビッド様が、わたしの唯一なの」
「………」
ポレットは前方に続く小さな小道を真っ直ぐに見据え、フェリックスに言う。
「歩んでゆく人生が人よりも平坦なものでなくても、重い責任や様々な柵に囚われる人生になるのだとしても、それでもデイビッド様と一緒に生きてゆきたい。それが私の希望よ、わたしだってワイズの血が流れているのよ?“ワイズの唯一”はわたしにもあるの」
「ポレット……」
「ありがとう父さま。それにいざとなったら、わたしと一緒に魑魅魍魎と戦ってくれるでしょう?王国随一の魔術騎士が味方なら、何も怖いものなどないわ。そんな頼もしい父さまの娘に生まれて本当によかった。わたしは幸せものです」
「ポレットぉっ……」
「だから父さま、いつまでも見守っていてね。それだけでわたしは強く生きてゆける」
「もちろんだっ……この先王家に嫁いだとしても、ポゥは父さまの宝だ、いつまでも、必ず、誰よりもポゥの味方でいると誓うよ……」
「父さまも、母さまも兄さまもノエルも、みんなみんながわたしの宝ものです」
「ポレット……大人になって……」
フェリックスはそう言って盛大なため息を吐いた。
「ハァァァーー……お前がそう言うのは分かっていたけど、やはり遣る瀬ない……なにも幼い内から苦労を背負いこまなくても……という思いは変わらないが、まぁお前が幸せならそれが一番だ。ほら、行って来なさい」
「え?」
歩きながら喋っていて、いつの間にか湖まで到着したようだ。
「すでに到着されているようだよ」
「到着……?」
小道の向こうがやけに眩しく輝いている。
それは光を乱反射する湖面の輝きだと気付き、目を細めながらもポレットは歩みを止めることなく、湖に向けて足を動かした。
やがて小道が途切れ、森が開けたその時。
眩しい湖面を前にこちらに背を向けて立つ人影を見つけた。
ポレットはその人影を見つめ、つぶやくようにその名を口にする。
「………デイ様……」
そこにはポレットの婚約者であるデイヴィッドが湖に向かって立っていた。
ポレットは思わず立ち止まってその背をじっと見つめる。
少し痩せただろうか。
ポレットはそれ以上声を発する事もなく、ただ呆然とデイビッドを見つめていた。
やがてゆっくりとデイビッドが振り返る。
そして彼の瞳がポレットを捉えたと同時にくしゃっと、今にも泣き出しそうな笑顔になった。
そしてその唇が最愛の者の名を形取る。
「ポレット……」
「デイ様……」
フェリックスが娘の背をぽんと押してやった。
するとポレットはゆっくりとデイビッドの元へと歩き出す。
「ポレット」
デイビッドは両手を広げてポレットの方を一心に見つめていた。
それを見つめ返しながら、ポレットはだんだんと足早になってゆく。
「デイ様っ……!」
そしてポレットは、デイビッドの胸に飛び込んだ。
───────────────────────
後ろの魔王様はどんな顔をしているのでしょうか……
①娘の成長を心から喜び目頭を熱くしている。
②デイくんに抱きついたポレットを見てショックを受けている。
③「おのれ小僧(不敬)離れろ~っ」と邪悪な念を送っている。
さて、どれでしょうね?
なんとなく全部、すんごく忙しい事になってるような気もします☆
そして皆様、この物語の書籍化に伴い、お祝いのメッセージをありがとうございました!
本当に、本当に嬉しかったです!
書影が解禁になりましたら、Xやアメブロでご紹介しますね。
よろしくお願いいたします。
(元学園長は責任を取って辞任…まぁ解雇という言葉が妥当だろう。地方の小さな初等学校の教頭となったらしい)
新しい学園長の下、新体制での学園の運営が急ピッチで進められている。
そんな中、落ち着くまではと学園を休学中のポレットを、父親のフェリックスはとある場所へと連れて来ていた。
王都の郊外にある王室の保養所。
王家の直轄領区にある、風光明媚で自然豊かな場所だ。
そこにポレットを連れてきたフェリックスは湖へと続く森の小道を歩きながら愛娘に言う。
「今回の事ではとても辛い思いをしたな、ポレット……」
「辛いというか……とても怖かったわ……人の悪意や害意って、呪いよりも恐ろしいものなのね……」
ポレットがそう答えると、フェリックスは憐憫の表情を色濃くして娘を見た。
「……王子の婚約者でいる限り、このような事がこれからも起こるかもしれないぞ」
「……そうですね……」
「ポレット。父さまはな、いや父さまもお祖父さまも伯父さまもお前の従兄弟たちも、その他ワイズ家門の男たち皆が、お前には要らぬ苦労はして欲しくないと思っているんだ。平凡でも心穏やかに暮らせる人生を贈って欲しいと願っている」
「父さま……?」
「しかし、王家に嫁ぐとなればそうはいかない。お前が歩む道は決して平坦ではない。魑魅魍魎が有象無象蠢く修羅の道だ……。ポレット、もし、お前が望むなら、もう王子の婚約者など辞めたいと思うなら、父さまが何とかしてやる。絶対にお前を守ってみせる」
「父さま……」
「お前には本当に幸せになってもらいたいんだ。それが父さまの、心からの願いだ」
その言葉を聞き、ポレットは父の瞳をじっと見た。
自分の瞳は父の、この赤い瞳を受け継いでいる。
そして受け継いでいるのは瞳の色だけではない。
ポレットはひとつ、小さく息を吐いて父親に訊ねた。
「父さまはどうして一度会っただけの、顔も知らない母さまを探し続けたの?その時は兄さまが生まれている事も知らなかったのでしょう?それなのになぜ?」
「なぜ、どうしてか……。理由なんて考えた事はなかったな、ただもう一度会いたい、それだけの想いに突き動かされていたよ。それは理屈じゃ説明できないな、どうしようもない強い想いが胸の内にあり、それは決して消えることはないんだ」
父がそう言ったのを受け、ポレットは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「わかる。わかるわ父さま。それは自分の唯一だから、そうでしょう?」
「あぁ。そうだ」
「デイビッド様が、わたしの唯一なの」
「………」
ポレットは前方に続く小さな小道を真っ直ぐに見据え、フェリックスに言う。
「歩んでゆく人生が人よりも平坦なものでなくても、重い責任や様々な柵に囚われる人生になるのだとしても、それでもデイビッド様と一緒に生きてゆきたい。それが私の希望よ、わたしだってワイズの血が流れているのよ?“ワイズの唯一”はわたしにもあるの」
「ポレット……」
「ありがとう父さま。それにいざとなったら、わたしと一緒に魑魅魍魎と戦ってくれるでしょう?王国随一の魔術騎士が味方なら、何も怖いものなどないわ。そんな頼もしい父さまの娘に生まれて本当によかった。わたしは幸せものです」
「ポレットぉっ……」
「だから父さま、いつまでも見守っていてね。それだけでわたしは強く生きてゆける」
「もちろんだっ……この先王家に嫁いだとしても、ポゥは父さまの宝だ、いつまでも、必ず、誰よりもポゥの味方でいると誓うよ……」
「父さまも、母さまも兄さまもノエルも、みんなみんながわたしの宝ものです」
「ポレット……大人になって……」
フェリックスはそう言って盛大なため息を吐いた。
「ハァァァーー……お前がそう言うのは分かっていたけど、やはり遣る瀬ない……なにも幼い内から苦労を背負いこまなくても……という思いは変わらないが、まぁお前が幸せならそれが一番だ。ほら、行って来なさい」
「え?」
歩きながら喋っていて、いつの間にか湖まで到着したようだ。
「すでに到着されているようだよ」
「到着……?」
小道の向こうがやけに眩しく輝いている。
それは光を乱反射する湖面の輝きだと気付き、目を細めながらもポレットは歩みを止めることなく、湖に向けて足を動かした。
やがて小道が途切れ、森が開けたその時。
眩しい湖面を前にこちらに背を向けて立つ人影を見つけた。
ポレットはその人影を見つめ、つぶやくようにその名を口にする。
「………デイ様……」
そこにはポレットの婚約者であるデイヴィッドが湖に向かって立っていた。
ポレットは思わず立ち止まってその背をじっと見つめる。
少し痩せただろうか。
ポレットはそれ以上声を発する事もなく、ただ呆然とデイビッドを見つめていた。
やがてゆっくりとデイビッドが振り返る。
そして彼の瞳がポレットを捉えたと同時にくしゃっと、今にも泣き出しそうな笑顔になった。
そしてその唇が最愛の者の名を形取る。
「ポレット……」
「デイ様……」
フェリックスが娘の背をぽんと押してやった。
するとポレットはゆっくりとデイビッドの元へと歩き出す。
「ポレット」
デイビッドは両手を広げてポレットの方を一心に見つめていた。
それを見つめ返しながら、ポレットはだんだんと足早になってゆく。
「デイ様っ……!」
そしてポレットは、デイビッドの胸に飛び込んだ。
───────────────────────
後ろの魔王様はどんな顔をしているのでしょうか……
①娘の成長を心から喜び目頭を熱くしている。
②デイくんに抱きついたポレットを見てショックを受けている。
③「おのれ小僧(不敬)離れろ~っ」と邪悪な念を送っている。
さて、どれでしょうね?
なんとなく全部、すんごく忙しい事になってるような気もします☆
そして皆様、この物語の書籍化に伴い、お祝いのメッセージをありがとうございました!
本当に、本当に嬉しかったです!
書影が解禁になりましたら、Xやアメブロでご紹介しますね。
よろしくお願いいたします。
445
あなたにおすすめの小説
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)
青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。
これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。
ショートショートの予定。
ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」
妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。
「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」
「ど、どうも……」
ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。
「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」
「分かりましたわ」
こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。