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ミニ番外編
ノエルのクマの木
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ノエルがぷんぷんプリプリ怒っている。
いつもお喋りで楽しそうに一日の出来事を話すノエルが頬を膨らませ口数少なく窓辺に置かれた椅子に座っている姿を見て、フェリックスがハノンに尋ねた。
「ノエルはどうした?なぜあんなにも怒っているんだ?」
「お友達と喧嘩したらしいの」
ハノンがそう答えると、フェリックスは怪訝な顔をする。
「友達と喧嘩?今日は初等学校は休みで魔法の勉強の日だったんだろう?」
「ええ。でもお友達と喧嘩したって」
「どういうことだ?ツェリシア先生の生徒はノエルだけだと思うんだが……ノエル、こちらにおいで」
不思議に思ったフェリックスがノエルにそう声をかけた。
父親に呼ばれ、ノエルはぷっくりと頬を膨らませたまま両親がいるソファーのところへとやって来た。
フェリックスが手馴れた様子で娘を膝にのせる。
ノエルも父親の膝の上が自分の定位置だと思っているのでされるがままだ。
フェリックスは穏やかな口調で娘に尋ねた。
「お友達と喧嘩したとママから聞いたが、どうして喧嘩になったんだい?それにお友達とは?他に一緒に勉強をしている子がいるのかな?」
父親の問いかけにノエルは頷く。
そしてさくらんぼのお口を動かして答えた。
「クラスメイトのバルちゃんせんせぇがノエルのかいたえにイタズラしたのっ……」
「バルちゃん先生?クラスメイトなのに先生?先生が悪戯?」
娘の話を聞いても要領を得ないフェリックスにハノンが補足するように言う。
「ツェリシア先生からお聞きしたところによると、時々ノエルの勉強に生徒として参加する人がいるらしいの。バルちゃん先生のお名前は“バルク”というそうよ……」
「バルク……?まさかバルク・イグリード……?」
大賢者がクラスメイト?
西と東の両大陸で最も位の高い魔術師が六歳の子どもの勉強に参加?有り得ないだろう。
と思ったフェリックスだが、
(……いやあの御仁なら有り得るか)と思い直した。
ノエルがぽつりぽつりと話し出す。
「バルちゃんせんせぇったら、ノエルがまほうをつかってかいたクマさんのえをかってにうごかしたの」
「え?」
「そうしたらそのクマさんがはしってどこかにいっちゃったのっ……ノエルのクマさんがいなくなっちゃったの……」
「……ジェスロに抗議に行く」
眉間に深くシワを刻み、眦を上げながらフェリックスがそう言うとハノンが冷静にそれを止める。
「夜間に訪問するなんて非常識です。それにツェリシア先生が責任をもって逃げたクマを捕まえ“させる”と仰って謝罪もされたのよ?これ以上コトを大きくしないで」
「しかしだな……」
「喧嘩と言っても少し違う感じだし、あちらで起きたことはあちらにまかせるのが筋じゃない?」
「それはそうだが……」
可愛い娘のこんな不機嫌な顔を見ると釈然としない。
だがそれもあの男がなんとかするだろうという考えに至り、我慢することにした。
◇
「師匠、あんた……子どもか?」
怒りを通り越して呆れ果てた口調でフェリックスのいうところの“あの男”であるアルトが師イグリードに言った。
「だってぇ~……自分の描いた絵が動き出したら嬉しくない?ボクはノエルちゃんが喜ぶと思ってぇ~……」
「それで動き出したクマをみすみす逃がしてどうするんですか。あんたそれでも大陸最上位の魔術師ですか」
「でもあのクマ、すごいんだよ?ものすごく俊敏でさ!身体能力も桁外れだったんだ!ノエルちゃんの前で消し去るわけにもいかないし☆それでどーしよっかな~?と考えてる間にどこかに駆けて行っちゃったんだ☆いや~元気いっぱいだったよ。さすがはノエルちゃんの魔力で描いたクマだね☆」
「だね☆じゃねぇぞコラ゛それでそのクマはどうしたクマは?」
「きゃいん。今日もボクの弟子が怖いよぅ☆……それがさ、追いかけたらクマは絵に戻っていたよ。まだノエルちゃんは魔力の安定が不十分だからね、仕方ないよね☆」
それを聞き、アルトは盛大なため息をつく。
「……それで?絵はもちろん回収したんだろうな?」
「回収はちょっと不可能かな?斧が必要になっちゃう☆シンボルツリーだから切り倒したくないしね」
「もしかして、」
「アハハ☆そのもしかしてだよ。ノエルチャンベアーの奴、木に登ろうとしたんだろうね。その途中で絵に戻っちゃった☆」
イグリードがそう告げた丁度その時、
同じように笑いながらツェリシアが部屋へと入って来た。
「ふふふふ!すごいわ、まるで古代人が木に描き印したアートみたいになってるの!」
「ダヨネ☆」
「……」
「とにかく見て」と妻に言われ、アルトが件のクマを見に家の外に出る。
そしてイグリードの家を守るように聳え立つ樹齢数千年と言われる巨木の元へと行った。
「これは……ある意味、凄いな」
「でしょう?」
「ダヨネ☆」
「いや師匠、あんたは反省しろ」
「きゃいん☆」
巨木の太い幹の中間地点に、いかにも六歳児の描いたクマが木に登る途中で止まったまま絵に戻っていた。
それが本当に古代人が描いたアートのようになっているのである。
「これ、逆にノエルちゃんは喜ぶと思うわ」
「……そうだな。それも踏まえて、ワイズ家に説明に行くよ」
アルトの言葉にイグリードがあっけらかんとして答える。
「そうだね☆それがいいよ」
「お前はお詫びの品を今すぐ用意しろ。クマのぬいぐるみやクマさんクッキーとか、とにかく小さな女の子が喜ぶようなお詫びの品を」
重低音の声でそう告げられ、イグリードは首を縮こまらせて返事をした。
「は、は~い☆」
その頃、ノエルは「今日だけ特別ね」と言ってハノンが焼いてくれたマドレーヌで家族と夜のお茶会をしてすっかりご機嫌に戻っていたのであった。
そして次の授業の前に、紙の上ではなく幹の上で絵に戻ったクマを見て、それはそれは喜んだという。
以来、イグリードの家の横にある巨木はノエルのクマの木と呼ばれるようになったそうだ。
精霊に愛され、精霊力を与えられた木は朽ちること無く永遠に葉を茂らせそこに立っているだろう。
そしてその木の幹には、ノエルのクマがずっとそこに居続けるのだろう。
───────────────────
次回から少しずーつ時間が経過します。
まずは久々のメロディ姐さん登場です。
いつもお喋りで楽しそうに一日の出来事を話すノエルが頬を膨らませ口数少なく窓辺に置かれた椅子に座っている姿を見て、フェリックスがハノンに尋ねた。
「ノエルはどうした?なぜあんなにも怒っているんだ?」
「お友達と喧嘩したらしいの」
ハノンがそう答えると、フェリックスは怪訝な顔をする。
「友達と喧嘩?今日は初等学校は休みで魔法の勉強の日だったんだろう?」
「ええ。でもお友達と喧嘩したって」
「どういうことだ?ツェリシア先生の生徒はノエルだけだと思うんだが……ノエル、こちらにおいで」
不思議に思ったフェリックスがノエルにそう声をかけた。
父親に呼ばれ、ノエルはぷっくりと頬を膨らませたまま両親がいるソファーのところへとやって来た。
フェリックスが手馴れた様子で娘を膝にのせる。
ノエルも父親の膝の上が自分の定位置だと思っているのでされるがままだ。
フェリックスは穏やかな口調で娘に尋ねた。
「お友達と喧嘩したとママから聞いたが、どうして喧嘩になったんだい?それにお友達とは?他に一緒に勉強をしている子がいるのかな?」
父親の問いかけにノエルは頷く。
そしてさくらんぼのお口を動かして答えた。
「クラスメイトのバルちゃんせんせぇがノエルのかいたえにイタズラしたのっ……」
「バルちゃん先生?クラスメイトなのに先生?先生が悪戯?」
娘の話を聞いても要領を得ないフェリックスにハノンが補足するように言う。
「ツェリシア先生からお聞きしたところによると、時々ノエルの勉強に生徒として参加する人がいるらしいの。バルちゃん先生のお名前は“バルク”というそうよ……」
「バルク……?まさかバルク・イグリード……?」
大賢者がクラスメイト?
西と東の両大陸で最も位の高い魔術師が六歳の子どもの勉強に参加?有り得ないだろう。
と思ったフェリックスだが、
(……いやあの御仁なら有り得るか)と思い直した。
ノエルがぽつりぽつりと話し出す。
「バルちゃんせんせぇったら、ノエルがまほうをつかってかいたクマさんのえをかってにうごかしたの」
「え?」
「そうしたらそのクマさんがはしってどこかにいっちゃったのっ……ノエルのクマさんがいなくなっちゃったの……」
「……ジェスロに抗議に行く」
眉間に深くシワを刻み、眦を上げながらフェリックスがそう言うとハノンが冷静にそれを止める。
「夜間に訪問するなんて非常識です。それにツェリシア先生が責任をもって逃げたクマを捕まえ“させる”と仰って謝罪もされたのよ?これ以上コトを大きくしないで」
「しかしだな……」
「喧嘩と言っても少し違う感じだし、あちらで起きたことはあちらにまかせるのが筋じゃない?」
「それはそうだが……」
可愛い娘のこんな不機嫌な顔を見ると釈然としない。
だがそれもあの男がなんとかするだろうという考えに至り、我慢することにした。
◇
「師匠、あんた……子どもか?」
怒りを通り越して呆れ果てた口調でフェリックスのいうところの“あの男”であるアルトが師イグリードに言った。
「だってぇ~……自分の描いた絵が動き出したら嬉しくない?ボクはノエルちゃんが喜ぶと思ってぇ~……」
「それで動き出したクマをみすみす逃がしてどうするんですか。あんたそれでも大陸最上位の魔術師ですか」
「でもあのクマ、すごいんだよ?ものすごく俊敏でさ!身体能力も桁外れだったんだ!ノエルちゃんの前で消し去るわけにもいかないし☆それでどーしよっかな~?と考えてる間にどこかに駆けて行っちゃったんだ☆いや~元気いっぱいだったよ。さすがはノエルちゃんの魔力で描いたクマだね☆」
「だね☆じゃねぇぞコラ゛それでそのクマはどうしたクマは?」
「きゃいん。今日もボクの弟子が怖いよぅ☆……それがさ、追いかけたらクマは絵に戻っていたよ。まだノエルちゃんは魔力の安定が不十分だからね、仕方ないよね☆」
それを聞き、アルトは盛大なため息をつく。
「……それで?絵はもちろん回収したんだろうな?」
「回収はちょっと不可能かな?斧が必要になっちゃう☆シンボルツリーだから切り倒したくないしね」
「もしかして、」
「アハハ☆そのもしかしてだよ。ノエルチャンベアーの奴、木に登ろうとしたんだろうね。その途中で絵に戻っちゃった☆」
イグリードがそう告げた丁度その時、
同じように笑いながらツェリシアが部屋へと入って来た。
「ふふふふ!すごいわ、まるで古代人が木に描き印したアートみたいになってるの!」
「ダヨネ☆」
「……」
「とにかく見て」と妻に言われ、アルトが件のクマを見に家の外に出る。
そしてイグリードの家を守るように聳え立つ樹齢数千年と言われる巨木の元へと行った。
「これは……ある意味、凄いな」
「でしょう?」
「ダヨネ☆」
「いや師匠、あんたは反省しろ」
「きゃいん☆」
巨木の太い幹の中間地点に、いかにも六歳児の描いたクマが木に登る途中で止まったまま絵に戻っていた。
それが本当に古代人が描いたアートのようになっているのである。
「これ、逆にノエルちゃんは喜ぶと思うわ」
「……そうだな。それも踏まえて、ワイズ家に説明に行くよ」
アルトの言葉にイグリードがあっけらかんとして答える。
「そうだね☆それがいいよ」
「お前はお詫びの品を今すぐ用意しろ。クマのぬいぐるみやクマさんクッキーとか、とにかく小さな女の子が喜ぶようなお詫びの品を」
重低音の声でそう告げられ、イグリードは首を縮こまらせて返事をした。
「は、は~い☆」
その頃、ノエルは「今日だけ特別ね」と言ってハノンが焼いてくれたマドレーヌで家族と夜のお茶会をしてすっかりご機嫌に戻っていたのであった。
そして次の授業の前に、紙の上ではなく幹の上で絵に戻ったクマを見て、それはそれは喜んだという。
以来、イグリードの家の横にある巨木はノエルのクマの木と呼ばれるようになったそうだ。
精霊に愛され、精霊力を与えられた木は朽ちること無く永遠に葉を茂らせそこに立っているだろう。
そしてその木の幹には、ノエルのクマがずっとそこに居続けるのだろう。
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まずは久々のメロディ姐さん登場です。
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