5 / 22
メグとレイ
しおりを挟む
今でこそレイターは長身で程よい筋肉を纏った均整の取れた体格をしているが、昔はヒョロっとして弱々しくまるで女の子のようであった。
背もメグルカの方が高く、運動神経も度胸もメグルカが上で、よくレイターを庇って近所の虐めっ子と喧嘩をしたものだ。
父の生家は代々騎士の家系で、父はもちろん伯父や叔父それに従兄弟たちの騎士道精神溢れる優しくて穏やかで、誰彼と分け隔てなく人に親切に出来る人間たちに囲まれて育ったメグルカ。
女の子であり、まだ九歳と幼い年齢でありながらも既にメグルカも騎士道精神を持つ少女であった。
そんなメグルカが、か弱いレイターを守って虐めっ子と戦うのは当然の事といえた。
いつだったかそんな喧嘩相手の爪がメグルカの頬に当たり、怪我をした事があった。
怪我といってもほんの小さな引っ掻き傷で、じんわりと血が滲んだだけだったのだが。
それでもレイターはこちらが心配になるくらいに青ざめて、そして慌ててメグルカの頬に自分の手を当てたのだった。
血が付くからダメだと言ってもレイターは首を振るだけで動かない。
傷を負ったことよりもこのレイターの反応の方が困ると思っていると、じんわりと頬が温かくなってきた。
頬の内側と外側から。
なにやら温かく、そして擽ったいような感覚がして身動ぐと、ようやくレイターが手を離してくれた。
「……できた……よかった……!」
メグルカの頬を見て、レイターが嬉しそうに安堵のため息を吐く。
「え?」
メグルカが傷を負った頬に触れてみると、先程まで確かにあったはずの傷が消えている。
「今の……まほう?」
「治ゆま法だよ。本で読んだことがあったんだ。それが使えてよかったよ」
「レイが……まほうを……!」
レイターの魔法の才覚が花咲いた瞬間であった。
元々魔力を持って生まれてきたレイター。
だけどその魔力量は低いと認定されていた。
それがメグルカを救いたい一心で潜在的な魔力を引き出し、高い魔力を要し且つ緻密な魔力コントロールが必要な治癒魔法をわずか齢九歳にして扱ってしまったのだ。
まさに神童。
十七丁目住宅街の期待の星。
と、レイターはあれよあれよと将来の大魔術師として脚光を浴びることになったのであった。
だけど子供同士、生まれて間もなくから婚約者同士であったメグルカとレイターの関係性が変わる事はない。
変わったといえば、レイターが魔法の勉強と共に苦手だった運動もするようになった事であった。
もう二度とメグルカを危ない目には遭わせない。
メグルカを守れる人間になるのだと、街の魔法塾に通う傍らで騎士であるメグルカの父に剣術と体術を習い始めたのであった。
そして育ち盛りの少年としてメキメキと成長を遂げ、あっという間にメグルカの身長を超えて体格も逞しいものになったのであった。
もうヒョロっとして女の子のようなレイターは存在しない。
それを寂しく思う反面、どんどん優秀な人間として頭角を現していくレイターに置いていかれないようにメグルカも必死で己を研鑽した。
幸い、メグルカにも多少なりとも魔力があったのでレイターと共にハイラント魔法学校に進学する事が出来た。
まぁそれでも成績はレイターと肩を並べる……には到底及ばず、レイターはAクラス。メグルカは奮闘虚しくBクラスへと振り分けられてしまったが。
それでもメグルカはレイター・エルンストの婚約者として後ろ指を指されることがないように努力してきたのだ。
だけど結局は、レイターとの仲を妬む人間に“棚からぼた餅婚約”や“格差婚約”などと言われてしまうのだが、メグルカはそんな心無い言葉たちに傷付けられたりはしない。
他の者にはわからない絆がメグルカとレイターにはある。
幼い頃から互いに大切に育んできた、愛情という名の絆が。
─────────────────────
次の更新は明日の夜です。
背もメグルカの方が高く、運動神経も度胸もメグルカが上で、よくレイターを庇って近所の虐めっ子と喧嘩をしたものだ。
父の生家は代々騎士の家系で、父はもちろん伯父や叔父それに従兄弟たちの騎士道精神溢れる優しくて穏やかで、誰彼と分け隔てなく人に親切に出来る人間たちに囲まれて育ったメグルカ。
女の子であり、まだ九歳と幼い年齢でありながらも既にメグルカも騎士道精神を持つ少女であった。
そんなメグルカが、か弱いレイターを守って虐めっ子と戦うのは当然の事といえた。
いつだったかそんな喧嘩相手の爪がメグルカの頬に当たり、怪我をした事があった。
怪我といってもほんの小さな引っ掻き傷で、じんわりと血が滲んだだけだったのだが。
それでもレイターはこちらが心配になるくらいに青ざめて、そして慌ててメグルカの頬に自分の手を当てたのだった。
血が付くからダメだと言ってもレイターは首を振るだけで動かない。
傷を負ったことよりもこのレイターの反応の方が困ると思っていると、じんわりと頬が温かくなってきた。
頬の内側と外側から。
なにやら温かく、そして擽ったいような感覚がして身動ぐと、ようやくレイターが手を離してくれた。
「……できた……よかった……!」
メグルカの頬を見て、レイターが嬉しそうに安堵のため息を吐く。
「え?」
メグルカが傷を負った頬に触れてみると、先程まで確かにあったはずの傷が消えている。
「今の……まほう?」
「治ゆま法だよ。本で読んだことがあったんだ。それが使えてよかったよ」
「レイが……まほうを……!」
レイターの魔法の才覚が花咲いた瞬間であった。
元々魔力を持って生まれてきたレイター。
だけどその魔力量は低いと認定されていた。
それがメグルカを救いたい一心で潜在的な魔力を引き出し、高い魔力を要し且つ緻密な魔力コントロールが必要な治癒魔法をわずか齢九歳にして扱ってしまったのだ。
まさに神童。
十七丁目住宅街の期待の星。
と、レイターはあれよあれよと将来の大魔術師として脚光を浴びることになったのであった。
だけど子供同士、生まれて間もなくから婚約者同士であったメグルカとレイターの関係性が変わる事はない。
変わったといえば、レイターが魔法の勉強と共に苦手だった運動もするようになった事であった。
もう二度とメグルカを危ない目には遭わせない。
メグルカを守れる人間になるのだと、街の魔法塾に通う傍らで騎士であるメグルカの父に剣術と体術を習い始めたのであった。
そして育ち盛りの少年としてメキメキと成長を遂げ、あっという間にメグルカの身長を超えて体格も逞しいものになったのであった。
もうヒョロっとして女の子のようなレイターは存在しない。
それを寂しく思う反面、どんどん優秀な人間として頭角を現していくレイターに置いていかれないようにメグルカも必死で己を研鑽した。
幸い、メグルカにも多少なりとも魔力があったのでレイターと共にハイラント魔法学校に進学する事が出来た。
まぁそれでも成績はレイターと肩を並べる……には到底及ばず、レイターはAクラス。メグルカは奮闘虚しくBクラスへと振り分けられてしまったが。
それでもメグルカはレイター・エルンストの婚約者として後ろ指を指されることがないように努力してきたのだ。
だけど結局は、レイターとの仲を妬む人間に“棚からぼた餅婚約”や“格差婚約”などと言われてしまうのだが、メグルカはそんな心無い言葉たちに傷付けられたりはしない。
他の者にはわからない絆がメグルカとレイターにはある。
幼い頃から互いに大切に育んできた、愛情という名の絆が。
─────────────────────
次の更新は明日の夜です。
3,388
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。
まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。
少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。
そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。
そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。
人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。
☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。
王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。
王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。
☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。
作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。
☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。)
☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。
★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる