252 / 252
見下されてる
しおりを挟む
「あ、あなた危ないわよ、そんなにスピード出して!」
助手席に座る妻がアクセルを踏み込む俺に怯えていた。だが、俺はスピードを緩めずに妻の怯える視線を無視した。俺は、走り屋じゃないし、若い頃に峠を攻めた経験もなかった。正直、運転は上手くない。それでも、怯える妻を乗せたまま車のスピードは緩めない。真夜中近く、ライトに照らされるのは木々ばかりで、対向車もない。人気のない山奥の峠道だ。カーブで少しハンドルを持って行かれそうになるが、今のところギリギリで曲がり切れていた。
これは、妻を連れ出しての強引な深夜のドライブだ。
事故っても構わない。むしろ、妻と一緒に事故って即死した方がスッキリする。そんな気分で俺はアクセルを踏んでいた。
「俺は知ってるんだからな。お前、絶対音感があるからって、学歴の低い俺を見下しやがって、誰の給料で飯食ってると思ってるんだ」
車を運転しながら妻にいう。
「ベ、別に、み、見下してなんか・・・」
「お前が、こっそり、友達と俺のことをバカにしているのをはっきり聞いたんだよ。低学歴で給料が低いって、おまけに音楽の趣味が悪くて、絶対音感を持っている自分には苦痛だって、トイレに籠ってこっそり愚痴ってただろ」
「え、なに、トイレ、盗み聞き?」
「盗み聞きって人聞きの悪い、うちにトイレ一つしかないのに、トイレの中で長電話してる方が悪いだろ」
そうだ。先に妻がトイレに入っていて、こっちがトイレが開くのを待っていたら、中から俺への悪口が漏れ聞こえたのだ。
聞きたくはなかった。だが聞いてしまった以上、その怒りを妻に伝えるようにアクセルを踏む。スピードを出して妻を怖がらせる。幼稚な復讐だ。
だが、直接、手を下すほど、こっちは暴力が好きではない。叩いたり殴ったりしない代わりの暴走だ。
「あ、あれは、結婚している友達と話してたら、つい旦那の悪口で盛り上がっただけよ、でも、あなたの音楽のセンスが悪いのは本当のことでしょ」
「なんだよ、絶対音感のお前に合わせて、クラシックを趣味にしろって言うのか」
「少なくとも、萌えソングよりマシでしょ」
「おいおい、最近のアニソンは、世界的に評価されてるんだぜ」
「だからって、三十過ぎのおっさんが休日に萌えソングを聞いているのはどうなのよ」
「なんだ、いいだろ、萌えソング」
「それより、そろそろ気付いたら」
「なに?」
「こんなに走ってるのに、ガソリンメーターが減ってないでしょ。それと景色も」
「景色?」
言われて俺はガソリンの残量と外の景色を見た。
「変わってない?」
かなりスピードを出して、それなりに走ったはずだったが、家を出るときに確認したときとおなじで、残量は、全く変わっていないようだ。
外の景色も、暗いから、同じように見えるだけかとも思ったが、ガードレールや道路標識など、ゲーム画面のようにずっと同じなことに気づいた。
慌ててカーナビで現在位置を確認しようとしたが、進行方向のただ真っすぐな道だけが表示されていた。
「ようやく気がついた?」
妻が呆れるような顔をしている。
「ほら、事故のあった場所に、死んだひとの幽霊が突っ立っているってあるでしょ、あれと一緒で、私たちも事故を起こして、成仏できずに、事故現場周辺の道路を繰り返し走ってるのよ」
「な、まさか・・・」
「なら、車を止めてみなさいよ。あなたは自分でスピードを出しているつもりだろうけど、スピードが戻せないでしょ」
バカなと思いつつアクセルから足を離そうとするが、離れない。
「ほら、あのカーブ、まだ花束がある」
「えっ・・・」
「まさか、事故の原因が、旦那の悪口を言っていた妻へのつまらない嫌がらせだったなんてね」
次の瞬間、強い記憶が飛ぶほどの衝撃を感じた。
「きゃっ」
助手席の本気で怖がる妻の悲鳴が聞こえた。
危なかった。マジで冷や汗をかいたが、ぎりぎりでカーブを曲がり切ったようだ。
妻を怯えさせたので、俺は少し笑みをこぼしていた。
「あ、あなた危ないわよ、そんなにスピード出して!」
俺は怯える妻の声を無視していた。
助手席に座る妻がアクセルを踏み込む俺に怯えていた。だが、俺はスピードを緩めずに妻の怯える視線を無視した。俺は、走り屋じゃないし、若い頃に峠を攻めた経験もなかった。正直、運転は上手くない。それでも、怯える妻を乗せたまま車のスピードは緩めない。真夜中近く、ライトに照らされるのは木々ばかりで、対向車もない。人気のない山奥の峠道だ。カーブで少しハンドルを持って行かれそうになるが、今のところギリギリで曲がり切れていた。
これは、妻を連れ出しての強引な深夜のドライブだ。
事故っても構わない。むしろ、妻と一緒に事故って即死した方がスッキリする。そんな気分で俺はアクセルを踏んでいた。
「俺は知ってるんだからな。お前、絶対音感があるからって、学歴の低い俺を見下しやがって、誰の給料で飯食ってると思ってるんだ」
車を運転しながら妻にいう。
「ベ、別に、み、見下してなんか・・・」
「お前が、こっそり、友達と俺のことをバカにしているのをはっきり聞いたんだよ。低学歴で給料が低いって、おまけに音楽の趣味が悪くて、絶対音感を持っている自分には苦痛だって、トイレに籠ってこっそり愚痴ってただろ」
「え、なに、トイレ、盗み聞き?」
「盗み聞きって人聞きの悪い、うちにトイレ一つしかないのに、トイレの中で長電話してる方が悪いだろ」
そうだ。先に妻がトイレに入っていて、こっちがトイレが開くのを待っていたら、中から俺への悪口が漏れ聞こえたのだ。
聞きたくはなかった。だが聞いてしまった以上、その怒りを妻に伝えるようにアクセルを踏む。スピードを出して妻を怖がらせる。幼稚な復讐だ。
だが、直接、手を下すほど、こっちは暴力が好きではない。叩いたり殴ったりしない代わりの暴走だ。
「あ、あれは、結婚している友達と話してたら、つい旦那の悪口で盛り上がっただけよ、でも、あなたの音楽のセンスが悪いのは本当のことでしょ」
「なんだよ、絶対音感のお前に合わせて、クラシックを趣味にしろって言うのか」
「少なくとも、萌えソングよりマシでしょ」
「おいおい、最近のアニソンは、世界的に評価されてるんだぜ」
「だからって、三十過ぎのおっさんが休日に萌えソングを聞いているのはどうなのよ」
「なんだ、いいだろ、萌えソング」
「それより、そろそろ気付いたら」
「なに?」
「こんなに走ってるのに、ガソリンメーターが減ってないでしょ。それと景色も」
「景色?」
言われて俺はガソリンの残量と外の景色を見た。
「変わってない?」
かなりスピードを出して、それなりに走ったはずだったが、家を出るときに確認したときとおなじで、残量は、全く変わっていないようだ。
外の景色も、暗いから、同じように見えるだけかとも思ったが、ガードレールや道路標識など、ゲーム画面のようにずっと同じなことに気づいた。
慌ててカーナビで現在位置を確認しようとしたが、進行方向のただ真っすぐな道だけが表示されていた。
「ようやく気がついた?」
妻が呆れるような顔をしている。
「ほら、事故のあった場所に、死んだひとの幽霊が突っ立っているってあるでしょ、あれと一緒で、私たちも事故を起こして、成仏できずに、事故現場周辺の道路を繰り返し走ってるのよ」
「な、まさか・・・」
「なら、車を止めてみなさいよ。あなたは自分でスピードを出しているつもりだろうけど、スピードが戻せないでしょ」
バカなと思いつつアクセルから足を離そうとするが、離れない。
「ほら、あのカーブ、まだ花束がある」
「えっ・・・」
「まさか、事故の原因が、旦那の悪口を言っていた妻へのつまらない嫌がらせだったなんてね」
次の瞬間、強い記憶が飛ぶほどの衝撃を感じた。
「きゃっ」
助手席の本気で怖がる妻の悲鳴が聞こえた。
危なかった。マジで冷や汗をかいたが、ぎりぎりでカーブを曲がり切ったようだ。
妻を怯えさせたので、俺は少し笑みをこぼしていた。
「あ、あなた危ないわよ、そんなにスピード出して!」
俺は怯える妻の声を無視していた。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/3:『おかのうえからみるけしき』の章を追加。2026/1/10の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
全てお気に入り登録しときますね♪