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しおりを挟む呆然とするシャロンをよそに、アイリーンは続けた。
将たちが戦利品を味わったあと、飽きた頃合いで臣下に下げ渡すのはよくある話だ。
けれど、用済みを押し付けられた方は、散々味見された後では嫌な気分に違いない。
それに加え侵攻した国の王女を王太子が慰み者にしたなんて外聞が悪いことこの上ない。
それなら早目に下賜という形を取り、国内の有力者の妻、もしくは愛人として暮らすのが、シャロンにとっても幸せだろう。
「私がセシル様にお願いしてみますから、シャロン様からもお願いしてみていただけるかしら?」
その方が話しも早く進むと思うの、とアイリーンは無邪気に笑う。
──この人は何を言っているの
理解が追いつかなかった。
今回の事は、一方的に婚約を破棄したロートス側に非があるのだとセシルは言った。
けれどセシルとてシャロンという婚約者がありながらアイリーンという恋人がいた。
それなのにロートスは攻められ、シャロンは婚約者だった男の浮気相手から、顔も知らぬ男の愛人として生きることを勧められている。
なぜ?
どうしてそんな理不尽を黙って受け入れなければならないのか。
混乱する頭で必死に言葉を紡ごうとしたが、何から聞くべきなのか、そしてどう返答すればいいのかわからない。
アイリーンはそれを黙示の合意と受け取ったようだ。
「わかっていただけたみたいで嬉しいわ。じゃあ早速私からもセシル様にお願いしてみますわね」
アイリーンは上機嫌な様子で立ち上がり、出口へと踵を返した。
退出の挨拶もない。
それどころかシャロンのことなど既に頭の中から消えているようだった。
そしてアイリーンは、部屋を出る直前何かに気づいたように振り返り、部屋の隅で控えていた侍女たちに向かって口を開いた。
「あなたたち、私がここに来たことは内緒よ。わかったわね」
アイリーンが出て行ったあと、部屋の中は侍女たちの発する気まずい空気が支配していた。
「……エイミー」
「は、はい」
「今の話しは……アイリーン様がセシル殿下の恋人だという話は本当なの……?」
「あ、あの……それは」
「そう、本当なのね」
シャロンはそれ以上何も聞かず、侍女たちを部屋から下がらせた。
静かになった部屋でシャロンはひとり懊悩した。
アイリーンはシャロンを祖国に戻すのは無理だと言った。
おそらくエドナとロートスの間で交渉が難航しているのだろう。
シャロンを道具のように扱う父王に、何と引き換えにしてでも娘を取り返そうなんて気持ちがあるはずもない。
娘を取り引きの材料にして、エドナ側から少しでも良い条件を引き出そうとするのが関の山だ。
父も、セシルも、そしてセシルの恋人までもがシャロンの人生を我が物顔で好き勝手する。
恋人がいるセシルとの結婚を夢見ていた自分は、何と愚かだったのか。
あまつさえそのセシルに慰み者として扱われ、汚されて。
こんな事になるのなら、父王の言う通りエウレカに嫁ぐのが幸せだったのかもしれない。
そこまで考えた時、ふと我に返る。
自分の人生を周りに好き勝手させることを良しとしている自分はいないか。
流される方が楽だから、仕方がないと諦めていないか。
私自身はどうしたいのか。
それらを考える事もせず、誰かのせいにして逃げている。
けれど、考えたところで何ができる。
(何もできないわ……)
【王女】という肩書きがなければ生きる術のない自分。
考えれば考えるほどその事実に気付かされる。
(もう、どうでもいい)
セシルからマヌエル、そして今度は顔も知らぬ男の愛人に。
なんてことはない。
そこには愛も恋も情もなかった。
ただ相手が変わるだけ。
これまでのように流されていればいい。
頭と身体、そして何より心が、冷たく凍りついていくようだった。
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