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しおりを挟む「私が何を言っても、信じてはくださらないでしょう」
それなら黙っていた方が楽だ。
否定された分、心も傷付くから。
「どうやったら信じられる?最後に会ったのは四年ほど前だったか……それっきり手紙ひとつよこさない女のどこを信じろと?」
「……受け取っていらっしゃらないのですか……?」
「何をだ」
『何をだ』じゃない。
お互い気軽に会えるような身分ではない。
国家間の距離もあるし、エドナは近隣の紛争に巻き込まれたりと、頻繁に軍の出動もあるから忙しい。
だからこそシャロンは折りに触れセシルに手紙を出していた。
それだけじゃない、彼の誕生日には贈り物も添えた。
刺繍を施したハンカチや乗馬用の手袋。
昨年は幸運と魔除けのお守りとして伝わるシルバーの耳飾り。
それにはシャロンが選んだセシルの瞳と同じ青灰色の宝石が埋め込んであった。
腕の良い加工職人を探してもらい、デザインを相談して作ってもらった特注品だ。
誕生日までには必ずエドナに届くようにと念を押して侍従に預けた。
それらに対し、彼からは何の返事もなかったが、あの無愛想なセシルの事だからと納得していた。
──けれどまさか受け取っていないなんて
シャロンについてのデマといい、明らかに作為的だ。
でもいったい誰が?何のために?
もしかして、父だろうか。
有りえない話ではない。
セシルとの結婚ギリギリまでシャロンの使い道を模索するような男だ。
シャロンとセシルに絆ができぬよう、手紙や贈り物を廃棄していた?
本当にそうなのだとしたら、なんて事だ。
手紙や贈り物がセシルに届いていれば、今の状況も少しは違っていたかもしれない。
セシルは婚約を解消されたことにこれだけ腹を立てたのだ。
もしかしたら、シャロンを助けに来てくれたかも──
その時、入り口付近がざわめいた。
扉の開く音がして目をやると、人影が滑り込んできた。アイリーンだ。
前回と同じように許可なく入室してきたアイリーンは、シャロンとテーブルを挟んで座るセシルの姿を見つけた瞬間、表情を失った。
そしてすぐさまシャロンに視線を移すと、恐ろしい表情で睨み付けてきた。
しかしセシルがアイリーンを振り返った途端、いつもの余裕綽々とした表情に戻った。
「まあ、セシル様ったら。こんな所にいらしたのね!」
アイリーンは微笑むと、足早にセシルの元へと歩み寄り、彼の腕にそっと手を添えた。
まるで【自分の物だ】と主張するかのように。
「ここには誰も近付くなと言ってあるはずだが」
「ごめんなさい。でもセシル様のお姿が見えなくて、父がとても困っていましたの。それでもしかしたらと思って……」
「ヘイルズ公爵が……?何かあったのか」
「それが、私にも教えてくれなくて……きっと、私に余計な心配をかけたくないのだと思います」
アイリーンは愛らしい仕草を交えながらセシルに訴えた。
僅かに媚びるような表情は、彼に甘えているのだろう。
シャロンはさっき浮かんだ考えを頭の中から追いやった。
例えシャロンの手紙が届いていたとしても、彼が助けに来ることはなかっただろう。
だって、アイリーンという恋人がいるのだから。
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