嘘つきな獣

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 「わかった、今行く。それとお前はもうここには来るな」

 立ち上がりざま、セシルはアイリーンを諭す。

 「はぁい、わかりました」

 しかし返事とは裏腹に、アイリーンは頬を膨らませて不満顔をしていた。

 セシルが部屋から出るのを見届けると、アイリーンはくるりと身体の向きを変えた。
 
 「ねえシャロン様、いったいどうなっているのかしら」

 「……え?」

 「約束しましたよね?下賜についてセシル様と話すって。それなのに、娼婦みたいな真似をしてセシル様を誘惑するなんて。まさかここでの暮らしが気に入ったとでもいうのかしら」

 さっきまでとは打って変わったように怒りを滲ませるアイリーン。
 だが【娼婦】とは聞き捨てならない。
 シャロンは誓って誘惑などしていない。
 しかしシャロンが否定の言葉を口にすると、アイリーンは声を荒げた。
 
 「じゃあ何でセシル様は毎日のようにここに来ているのよ!?」

 そんな事を言われても、シャロンとて現在自身の置かれている状況がさっぱりわからない。
 セシルはだんまりだし、ようやく口を開いたかと思えばシャロンを詰ってばかり。
 彼が何を考えているのかなんて、恋人であり外の世界と接しているアイリーンの方が、シャロンよりもよほど詳しいだろうに。
 
 「アイリーン様はセシル殿下と恋人同士なのですよね?でしたら直接殿下にお聞きになればよろしいのでは」

 シャロンが言い終わるや否や、アイリーンはテーブルの上に置いてあったティーカップを掴み、シャロンの後方の壁に投げつけた。
 陶器の割れる音とともに、侍女たちの甲高い悲鳴が部屋に響く。
 アイリーンはシャロンをめ付けた。

 「あなた、セシル様の婚約者だったからって、私を馬鹿にしているの」

 「そんなつもりは──」

 決して意図してこうなっているわけではない。
 けれど、彼女の苦しみは何となくわかる。
 恋人が他の女の元に通い、あまつさえその身体を抱いているのだ。
 自分が彼女と同じ立場だったら耐えられるだろうか。
 (黙って目を瞑るなんて……無理だわ)
 【婚約者】と【恋人】は違う。
 シャロンとセシルが政略で婚約したように、婚約や結婚は本人の意思は関係なく成り立つが、恋人はお互いの気持ちがなければ成り立たない間柄だ。
 アイリーンが置かれている状況は、女にとってはまさに地獄。 
 シャロンにそのつもりがなくとも、自分の存在が彼女を苦しめていることに違いはない。
 そう思うと、それ以上何も言えなくなってしまった。
 黙り込んでしまったシャロンを見て、アイリーンは冷静さを取り戻した。

 「とにかく、早く下賜先を見つけるようセシル殿下に言ってくださいね」

 アイリーンはそう言うと、乱暴な足取りで部屋を出ていったのだった。





 
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