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しおりを挟むすべて自分のせいだと謝罪するセシル。
青灰色の瞳に真っ直ぐに見つめられ、結局シャロンはそれ以上何も言えなくなってしまった。
会話が止まり、沈黙が気まずい。
(出て行かないのかしら)
外はもうすっかり暗くなっている。
「……今夜はこのまま、あなたの側にいてもいいですか」
「側にって……それはどういう」
「シャロンが嫌がる事はしないから」
(それは嘘だわ)
うっかり口から出かかった。
シャロンが嫌がっても結局自分のしたいようにするのがセシルだ。
薬の口移しもそう。
自分で飲むと何度言っても聞いてくれなかった。
若干ジト目で見返すと、セシルは少し気まず気に目を逸らす。
「疲れたので、もう休みたいのですが」
言外に『出て行ってくれ』と伝えたのだが、遠回しな言い方は彼にはまったくきかないようだ。
セシルはシャロンの身体を抱きかかえたまま横になった。
「あ、あの……!」
「いい匂いだ」
くんくんと頭の匂いを嗅がれ、顔が火を噴いたように熱くなる。
「や、やめてください」
「あなたの身体はどこもかしこも甘い匂いがする」
「ちょっと、ダメですったら。もうっ!」
首筋に顔を埋めてすりすりとする仕草はまるで子犬のようだ。
シャロンはくすぐったさに身を捩る。
「ひゃあっ!」
首筋を上に向かって舐め上げられ、思わず腰が跳ねる。
「な、な、なにを」
「美味しい……」
セシルはそのままシャロンの耳を優しく食んだ。
「いけません!」
「だけど、俺たちはもう何度か結ばれている」
それはあなたが無理矢理したからだ──とは言えるはずもない。
だがその代わり、自分でも驚くほど嫌味な言葉が口をついて出る。
「さり気なくこんな風におできになるなんて、さすが慣れていらっしゃるのですね」
「は?」
セシルは動きを止め、ぽかんとした表情でシャロンを見た。
「王太子殿下ともあれば、どんな女性も望むままなのでしょう」
だが彼に群がる数多の女性と一緒にされるのは癪だ。
「何を言っているんです?」
「何をって……恋人がいらっしゃるから、こんな風に女性の扱いに慣れていらっしゃるのでしょう?」
「恋人?そんなものはいない」
「嘘……」
だってアイリーンは確かにセシルと恋人同士だと言った。
それにセシルは以前、自身が立ち入り禁止にしたこの塔に無断で入ってきた彼女を窘めはしたが、叱りはしなかった。
彼の性格からして、考えられない。
(でも、彼の口からはっきり聞いた訳じゃないわ……)
これではシャロンの言い分を聞いてくれなかったセシルと同じだ。
「嘘などつく必要がない。俺には……俺の心にはずっとシャロン、あなたがいたのだから」
「……きっとその言葉は……記憶を失くす前の私が聞きたかった言葉だと思います……」
そう。
聞きたかったのは今の私じゃない。
「その通りだ。俺はあなたの言う事に何一つ耳を傾けなかった。最低な男だ」
セシルは自嘲するように薄く笑った。
「……もう休みます」
セシルの腕から逃れることは諦めて、シャロンは目を閉じた。
「シャロン……」
回された腕に力がこもる。
セシルは眠れないのか、頭上から物憂げなため息が何度か聞こえてきた。
シャロンは身を固くしたまま、睡魔の訪れを待った。
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