嘘つきな獣

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 瞬く間にロートスを落とすほどの実力を持ち、非情な事も平気でやってのけるようなセシルが、戦う事を何よりも嫌っていたなんて。
 シャロンはふと、以前エイミーが聞かせてくれた話を思い出した。
 (エイミーも以前、セシル殿下は剣よりも本が好きで、ある日を境に別人のように変わったって言ってたわね)

 「セシルが変わったのは、シャロン様にお会いしてからです」

 「私に?」

 「ええ。それはまるで人が変わったかと思うほど、剣の道にのめり込んで」

 それではまるで、セシルはシャロンのために強くなったと言っているようなものではないか。
 シャロンは別に、セシルに対し強さを望んでいたわけではない。
 ただ穏やかに関係を育くんでいければ、それだけでよかったのに。

 「男ってのは単純ですからね。好きな人にはよく見られたいし、この人は俺が守らなきゃって思うものなんですよ」

 「そう……なのですか」

 「ええ。それに、シャロン様のような美しい方を婚約者に持ってしまったセシルは、いつか誰かに取られてしまうのではないかという不安に常に苛まれていたはずです。だから余計強くなろうとしたんじゃないかと」

 手段の是非はともかくとして、セシルがロートスを攻めたのはシャロンを手に入れるため。
 彼は自分の婚約者を守るために動いた。
 セシルに強さがなければ、シャロンは今頃エウレカ行きの船に乗せられていただろう。
 自分たちが仲睦まじい婚約者同士であったなら、今回の事は悲劇ではなく、感動の救出劇だったはず。
 (そういえば……)
 シャロンは、自身の手紙や贈り物がセシルに届いていなかった事を思い出した。
 これまでの事を思えば、一番疑わしいのはアイリーンだ。
 けれど、シャロンがバルコニーから身を投げたあの日から、アイリーンは一度も姿を現していない。
 罪に問われ牢に繋がれているのか、それともセシルが庇い、どこかで保護されているのか。
 可能性の高いのは後者だ。
 なぜならセシルは、アイリーンの罪をシャロンの前で隠したから。
 シャロンが落ちたのは『事故』だと言ったから。
 セシルが彼女を庇うのであれば、真相を知る事はできないだろう。
 でも、知りたい──シャロンはアレンの顔をちらりと盗み見る。
 セシルと幼馴染だという彼なら、もしかしたら何か知っているかも。
 お喋りが好きそうだし、口を滑らせるかもしれない。
 
 「アレン様」

 「何でしょう」

 「アレン様は、私が転落した時の状況をお聞きになりました?」

 「え?ええ、まあ」

 「残念な事に私はよく覚えていないのですが……あの時、侍女のエイミーと……もう一人女性がいた気がするのです」

 「思い出されたのですか?」

 「いえ……ですが時折、残像のように頭の中に映像が浮かんできて……アレン様、その女性について何かご存知ありませんか?容姿はとても愛らしく、美しく装われた女性です」

 

    
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