俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香

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裏会議

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『裏会議』

 これは苫小牧拠点から大雪山拠点へと移動した後の話。

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 拠点での運営もだいぶ落ち着き、カオのアイテムボックスの『ゴミ』もあらかた片付いたころ。
 苫小牧で何度か開いた『裏会議』は、大雪山に移動してからは定期的に行われていた。

『裏会議』、それはカオ周りの仲間たちがカオを守るために行っていた話し合いである。

 この日のメンバーは春政、マルク、清華の3名である。


「どうですか? 最近何か気になった事はありますか?」


 春政の口から出た『気になった事』とは、各自に個人的な悩みでもハケンの砂漠の血盟としての悩みでもない。
 この会議でも話題は『カオ』に関して、のみだ。


「今のところ接近してくる怪しい人間はいませんね。大雪山拠点地下部に入るのに、かなり厳しいチェックを取り入れましたからね」

「うん。もーまくと指と音声チェック? それをしないとエレベーター乗れないから」

「網膜と静脈と声紋チェックですね。少し厳しいとの意見もありましたが、拠点の地下に誰でも簡単に入ってほしくありませんから」

「そうですね。登録さえしてしまえば本人は簡単に入れるのです。本人以外を連れ込む事が出来ない工夫を面倒だと言う方は、拠点から退去してくださって結構です」


 春政は整った顔をツンと上に傾けた。

 大雪山拠点の地下1階は『ハケンの砂漠』の血盟アジトだ。
 ゲームでのアジトは血盟員以外が入れないシステムだった。ではリアルではどうか?

 残念ながら、アジト登録をしても血盟員以外の出入りも可能であったのだ。
 では何のためのアジトか。

 アジト帰還スクロールで簡単に戻ってこれる、ただその一点だ。

 そこで、地下へ降りる階段やエレベーターに通行制限を設けるシステムを設置したのだ。

 階段の前には駅の自動改札のような物があり、指を翳すとバーが開く。静脈認証だ。
 もしも、バーを飛び越えたり静脈認証をせずに通ろうとすると、改札の先にある壁が閉鎖される仕組みだ。

 階段の前には壁があり、そこで網膜認証する事で扉が開く。10人の団体でもひとりずつ扉を潜る事になる。
 当初、『面倒だ』と言う声もあがったが、そう言う方にはラクな避難所への移動を促した。

 静脈、網膜をクリアすると階段を降りる事が出来るが、降り切った所にまた壁(ドア)があり、そこで名を名乗る。声紋チェックだ。
 因みにカオの私室の前には番犬チェックと言う、怖そうな犬の頭を撫でないと入れない仕組みになっている。(勿論カオのイッヌだ)

 エレベーターも同様だ。
 エレベーターホールの手前の静脈と網膜があり、エレベーターを降りた所に声紋チェックがある。


「たった1階なんだからぁ、健康のためにエレベーターなんて使わずに階段使えよな」

 カオは『階段派』である。

 簡単に侵入を出来ない様にした仕組みであるのだが、どこぞの国の酸っぱいさんは3チェックをくぐり抜ける。しかし今のところ4番目の番犬で引っ掛かっている。


「みんな楽しいって言ってるよー?」


 子供たちには好評のようだ。子供達はカオに用がなくとも番犬の頭を撫でるのが好きだ。


「カオさんは階段派ですね。ですが、先日階段から転げ落ちたと報告を受けました」

「怪我は?」

「それは大丈夫だそうです。カオさんは何気に防御力も高いですから。それにすぐにご自身でヒールをされたようです」

「そうですか。しかしいくら香でも首を折ったら自分でヒールは出来ないでしょう。危険ですね……」

「父さん、すぐにうっかりするから……」

 「そうですね。香は直ぐ考えに没頭するくせがある。考え始めると周りがみえない」


 春政はため息をひとつ吐いた。


「昔の話です。うちの田舎は道路にアスファルトがない道も多い。香はよく学校帰りに歩きながら考えに没入して、泥の水溜まりに足を突っ込んでました。しかも気が付かずに歩き続ける」


 春政のため息が深くなったところに清華が追い討ちかけた。


「わかります、それ。前に洞窟内の通路を斜めに歩いていたカオさんが向こう側の壁に激突したのを見たことがあります。ぶつかった後、今度は反対側へ向かってブツブツ言いながら進んでいったので、ぶつかる寸前に止めました」

「……危なかった、ですね」

「うんうん。父さんねぇ、何か考え始めるとそこに集中しちゃうんだって。僕が小さい時もね、父さんが壁にぶつかりそうになって止めようとしたら、僕、壁と父さんに挟まれちゃった。それで横は危険だと思ったの。だから父さんが歩きながらブツブツ言ってる時は後ろから足に抱きつく事にしたんだけど、父さん、僕を足にくっつけたまま歩き続けるの。僕それ楽しくなっちゃって小さい頃はよく父さんの足にくっついてたー」


「俺も行きたかったです……異世界、ムゥナの街」

「そうですね、私も行ってみたかったです」


 春政と清華のふたりがマルクを羨ましげに見つめた。


「父さんね、喋らなくても思ってる事が相手に伝わるってゴルダさんが言ってた。あ、ゴルダさんってギルドの1番偉い人なの」

「カオさんは口に出さないけど顔に出ていらっしゃるから。ある意味あそこまで裏表がないのも珍しいですね。そう言う所……凄く、好きです」

「僕も好き! ゴルダさんが言ってたけど、父さんは嘘がつけないって。嘘をつかないのはいい事だよね?」

「あはは、そうですね。そう言えば香は、楽しい時も辛そうな時も怒ってる時も、みんな顔に出ていたな。口には一切出さないのに」

「父さんの子供の時から? だからカオなの? 顔に出るからカオって名前なの?」

「マルク君はまだ日本語は勉強中だものね。漢字とひらがなとカタカナの違いが難しいかな。そう言えば、鹿野家は『政』が多いですけどカオさんには政の字はつかなかったのですね」


 清華がふと思い出したように春政の顔を見た。


「そうなんですよ。まぁ、時代もあったのでしょうけどね。香の兄だった政一は長男だから『政』の字を付けられた。それはもう決まっていた名前だったかな。『政一』は父…香の祖父が決めた名で。だけど香の時は綾さんが抵抗してね。綾さんは香の母ですが。まだ性別がわからないお腹に居る時から『香』にすると言って照政兄さんと決めていたらしい。女の子であって欲しいとも願っていたそうだ。香が両親から貰った唯一の物は名前かもしれないな。あの家に居たら長男以外には何も残せないからな」


 春政は目の前の壁を通り越して遠くを、過去を見つめていた。


「そう言えばカオさんは誕生日を祝ってもらった事がないと言ってましたが、ちゃんと初回の誕生は祝ってもらっていたのですね」

「名が贈り物だとしても、どうでしょうね、あれが祝いなのか呪いなのか……」


 春政は少し悲しそうな表情をしていた。


「父さん……、一回だけしかお祝いしてもらってないんだ。僕は毎年父さんがお祝いしてくれてるのに」

「あら、じゃあ今年からお誕生日会をやりましょう? 毎年!」

「やる!」

「いいですねぇ、やりましょう」

「ハルおじさんとキヨカお姉さんのもやろう!」


 3人がカオの誕生会の話で盛り上がっていると扉が開きミレイユが入ってきた。


「おう、遅くなった。あれっ? 今日は3人だけか? 今日はカオフリの日だったか?」


 その後、ミレイユ交えて誕生会の話で盛り上がったのだった。


 因みに『裏会議』にはいくつかメンバーが異なる集まりがある。
 ミレイユが言った『カオフリの日』、正確には『カオフリークの日』。

 カオフリーク……。カオオタクの集まりだ。

 他に『カオマニア』『カオライク』『カオ厨』などの集まりがある。勿論、マルク、春政、清華の3人は全てに参加している。


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フリーク:オタク
マニア:熱中
ライク:~のような
厨:~チックな言動



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