とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ

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好転

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 昨夜あったあれやこれやが、頭に浮かびかけ、百合は慌てて首を振った。未知の経験の威力たるや…。誘惑しようなどと考えた自身の甘さを思い知る。


─すごかった


ただそれに尽きる。百合はぼうっと梨を口に運んだ。


◇◇

使用人部屋にて、メイドのアンナが侍女のメアリに話しかけている。


「奥様、どうしちゃったの?なんだか随分態度が違うって話じゃない」

「ふん。すぐに化けの皮が剥がれるよ。調子に乗っていられるのも今だけさ」


侍女のメアリは、昨日“使えない女”と部屋から追い出された、腹立ち紛れにそう言った。
今朝の様子もまたぽわっとしていて、彼女を苛立たせる。

月に一度の営みで舞い上がりやがってと、内心悪態をつく。ベッドを整える手も自然乱暴になるっていうもんだ。メアリは肩を怒らせながら、アンナに言う。


「家政婦長もメイド長も奥様のことをよく思ってない。変に睨まれたくなかったから、余計なことは言わないことだね」

「…わかったわ」

メイドと侍女の間にはれっきとした差がある。それ以上、アンナは強く言えなかった。

◇◇

料理長のエドガーは昼の食事の用意をしながら、他の料理人の進捗具合もしっかり確認していた。

思い出すのは昨日の朝のこと。自然、食事をつくる手にも力がこもる。

朝から奥様に呼ばれていると連れ出され、言われたのは思いもよらないことだった。
自分の料理がまずいと言う。とんだ言いがかりだと思ったが、実際に口にしてみると確かに味が違う。

泥水のようなスープだった。料理長である自分をただの料理人扱いするイネスには、元から良い感情を抱いていなかったが、まさか自分を嘘つき呼ばわりするとは…。

今、思い出しても顔が歪む。
あのとき、奥様が自分のことを信じてくれたようだったのも意外だ。イネスは気に入りのようだったのに自分の肩を持ってくれるとは…。

少しでも美味しいものを提供しよう。


「おい、そこ!手が止まってるぞ」


料理人を指導しながら、エドガーはいつも以上に料理に集中するのだった。

◇◇

百合は一日で状況が変わるとは思っていなかった。さすがにそこまで甘くはない。
執事からまずは、裁量権を取り戻さなくては。それには信用してもらうのが一番なのだが、どうすれば…。

思案していると、ノックの音と共に男が入室してきた。


「奥様、少しご相談が…」

「リーゼント?」


試しにそう呼んでみると、男は怪訝そうな顔で見てきた。


「はあ。どうなさいましたか?」


どうやら執事のリーゼントで間違いないらしい。


「なんでもないの。話を続けて」

「それでは…当家で主催するパーティーについてですが、招待客のリストを僭越ながら選ばせていただきました。奥様には、当日の行程を確認していただきたいのですが…」


そう言って、紙を差し出してきた。
百合は目をやった。元いた場所でイベントの準備もしていた彼女は疑問を口にした。


「これ、随分スケジュールが過密だけど前、主催した時の資料は残ってる?
それと、招待客が随分多いのね。
先に帰ってもらう家と残ってもらう家、分け方の判断は妥当だと思うけど、誘導はどうやってするの?」


執事は驚いていた。いつも黙って自分の言うことに頷き、行程についても全て任せてくると思っていたのに…。

疑問点を口にするだけでなく、過去の資料を持ってこいとは随分様子が違う。まるで別人だ。

リーゼントは、しばしお待ちをと言い、資料片手に再び部屋に戻ってきた。


「どうぞ」

「ありがとう…」


読み始める女主人をじっと見つめる。彼女に何があったのだろうか…。


「誘導についてですが─」

「なるほど、それなら─」


話は白熱していった。結局、パーティーテーマまで決め、満足して向かい合う。


「リーゼント、あなた優秀ね」

「恐れ入ります」


普段言われれば、反感を持つだろう言葉にも素直に頷ける。女主人の意外な一面を知り、少し見直したリーゼントだった。


「奥様こそ、深い考えをお持ちでいらっしゃいますね…」

「…そんなこと。」


ただ慣れているだけと、心の中で口にする。

百合は駄目元で、家の裁量権を返してもらえるか聞いてみた。
執事は今の奥様なら…と了承した。
ただ、自分に何かする前に確認をとってほしいとだけ言い添えて。


(まあそうよね。でもなんとかなりそう…)


事態が少しずつ好転していくのを感じながら、日記で新たに知った名前を口に出す。


「…ライーサ、あなただけは許さない」




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