とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ

文字の大きさ
4 / 6

好転

しおりを挟む
 昨夜あったあれやこれやが、頭に浮かびかけ、百合は慌てて首を振った。未知の経験の威力たるや…。誘惑しようなどと考えた自身の甘さを思い知る。


─すごかった


ただそれに尽きる。百合はぼうっと梨を口に運んだ。


◇◇

使用人部屋にて、メイドのアンナが侍女のメアリに話しかけている。


「奥様、どうしちゃったの?なんだか随分態度が違うって話じゃない」

「ふん。すぐに化けの皮が剥がれるよ。調子に乗っていられるのも今だけさ」


侍女のメアリは、昨日“使えない女”と部屋から追い出された、腹立ち紛れにそう言った。
今朝の様子もまたぽわっとしていて、彼女を苛立たせる。

月に一度の営みで舞い上がりやがってと、内心悪態をつく。ベッドを整える手も自然乱暴になるっていうもんだ。メアリは肩を怒らせながら、アンナに言う。


「家政婦長もメイド長も奥様のことをよく思ってない。変に睨まれたくなかったから、余計なことは言わないことだね」

「…わかったわ」

メイドと侍女の間にはれっきとした差がある。それ以上、アンナは強く言えなかった。

◇◇

料理長のエドガーは昼の食事の用意をしながら、他の料理人の進捗具合もしっかり確認していた。

思い出すのは昨日の朝のこと。自然、食事をつくる手にも力がこもる。

朝から奥様に呼ばれていると連れ出され、言われたのは思いもよらないことだった。
自分の料理がまずいと言う。とんだ言いがかりだと思ったが、実際に口にしてみると確かに味が違う。

泥水のようなスープだった。料理長である自分をただの料理人扱いするイネスには、元から良い感情を抱いていなかったが、まさか自分を嘘つき呼ばわりするとは…。

今、思い出しても顔が歪む。
あのとき、奥様が自分のことを信じてくれたようだったのも意外だ。イネスは気に入りのようだったのに自分の肩を持ってくれるとは…。

少しでも美味しいものを提供しよう。


「おい、そこ!手が止まってるぞ」


料理人を指導しながら、エドガーはいつも以上に料理に集中するのだった。

◇◇

百合は一日で状況が変わるとは思っていなかった。さすがにそこまで甘くはない。
執事からまずは、裁量権を取り戻さなくては。それには信用してもらうのが一番なのだが、どうすれば…。

思案していると、ノックの音と共に男が入室してきた。


「奥様、少しご相談が…」

「リーゼント?」


試しにそう呼んでみると、男は怪訝そうな顔で見てきた。


「はあ。どうなさいましたか?」


どうやら執事のリーゼントで間違いないらしい。


「なんでもないの。話を続けて」

「それでは…当家で主催するパーティーについてですが、招待客のリストを僭越ながら選ばせていただきました。奥様には、当日の行程を確認していただきたいのですが…」


そう言って、紙を差し出してきた。
百合は目をやった。元いた場所でイベントの準備もしていた彼女は疑問を口にした。


「これ、随分スケジュールが過密だけど前、主催した時の資料は残ってる?
それと、招待客が随分多いのね。
先に帰ってもらう家と残ってもらう家、分け方の判断は妥当だと思うけど、誘導はどうやってするの?」


執事は驚いていた。いつも黙って自分の言うことに頷き、行程についても全て任せてくると思っていたのに…。

疑問点を口にするだけでなく、過去の資料を持ってこいとは随分様子が違う。まるで別人だ。

リーゼントは、しばしお待ちをと言い、資料片手に再び部屋に戻ってきた。


「どうぞ」

「ありがとう…」


読み始める女主人をじっと見つめる。彼女に何があったのだろうか…。


「誘導についてですが─」

「なるほど、それなら─」


話は白熱していった。結局、パーティーテーマまで決め、満足して向かい合う。


「リーゼント、あなた優秀ね」

「恐れ入ります」


普段言われれば、反感を持つだろう言葉にも素直に頷ける。女主人の意外な一面を知り、少し見直したリーゼントだった。


「奥様こそ、深い考えをお持ちでいらっしゃいますね…」

「…そんなこと。」


ただ慣れているだけと、心の中で口にする。

百合は駄目元で、家の裁量権を返してもらえるか聞いてみた。
執事は今の奥様なら…と了承した。
ただ、自分に何かする前に確認をとってほしいとだけ言い添えて。


(まあそうよね。でもなんとかなりそう…)


事態が少しずつ好転していくのを感じながら、日記で新たに知った名前を口に出す。


「…ライーサ、あなただけは許さない」




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

婚約破棄された私は彼に囚われる

青葉めいこ
恋愛
「エリザベス・テューダ! 俺は、お前との婚約破棄を宣言する!」 卒業パーティーで顔だけの皇子は、私、ベスことエリザベス・テューダに指を突きつけると、そう宣言した。 私の新たな婚約者となったのは、皇子の叔父である皇弟イヴァンだ。 私を手に入れるために馬鹿皇子に婚約破棄するように仕向けたというイヴァンは、異世界(日本)からの転生者である私の前世に大きく係わっていた。 主人公のベスは「妾は、お前との婚約破棄を宣言する!」の主人公リズの娘で、日本からの転生者です。 「妾は~」のネタバレがあります。 小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない

aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。   「偽聖女マリア!  貴様との婚約を破棄する!!」  目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される  あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…  なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。    婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!

黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。 しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。 レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。 そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。 「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」 第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください! 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末

黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。 ※設定はふわふわ。 ※予告なく修正、加筆する場合があります。 ※いずれ他サイトにも転載予定。 ※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。

悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!

奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。 その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

処理中です...