28 / 78
8.お屋敷を綺麗に
②
しおりを挟む
「あ、幽霊さん。こんにちは」
タイミングがいいなと思いながら挨拶をすると、魔女は目をぱちくりする。あいかわらず無表情だけれど、私が声をかけたとき彼女は何となく嬉しそうにしているように感じた。
私は確認したかったことを尋ねてみる。
「幽霊さん、本名はベアトリス様っていうんですか?」
魔女は動かず、ただじっとこちらを見つめていた。私は続ける。
「なんとなくあなたはベアトリス様なんじゃないかって気がしていたので、昨日来た監視係さんに確認したんです。そうしたら、特徴も一致していたので……」
そう言うと魔女はしばらく動かないままこちらを見た後、こくりとうなずいた。
「やっぱり! じゃあ、今日から幽霊さんはやめてベアトリス様って呼びますね」
ベアトリス様はまた静かにうなずく。名前で呼ぶことを許してくれたらしい。
「実は、今朝洗濯室でベアトリス様宛ての手紙を見つけたんです。それで気になって中身を見ちゃいました。……勝手にごめんなさい」
私がそう言って手紙の束を見せると、ベアトリス様がわずかに驚いた顔をした。彼女の目はじっと手紙の束を食い入るように見ている。
「ベアトリス様、色んな方から感謝されていたんですね。お薬や宝石を送って、体調の悪い方にはアドバイスしてあげたりもして」
ベアトリス様が気になっているようだったので、手紙を開いて見せると、彼女は真剣にそれを眺めていた。
「それで……私、前から気になっていたことがあるんですけれど」
そう言うとベアトリス様は手紙から目を離し、こちらに視線を向ける。
「ベアトリス様、もしかして冤罪で幽閉されたのではないですか?」
ベアトリス様は何の反応も示さなかった。目をぱちくりしたり、首を振ったりすることもなく、じぃっとこちらを見つめる。数秒間沈黙が続いた後、ベアトリス様は眉根を寄せて困ったような顔をした。
「ベアトリスさ……」
私が何か言う前に、ベアトリス様はふっと姿を消してしまった。
***
しばらく部屋に留まったまま、ベアトリス様のことを考えていた。
答えてくれなかったので真実はわからないけれど、もしも予想通り彼女が無実の罪を着せられて幽閉されたとしたら。
過酷な取り調べを受け、幼い子供とも引き離され、最後にはお屋敷で弱ったまま亡くなって。あんまりではないだろうか。
そんな仕打ちを受けながらも彼女はお屋敷の中から人助けを続けていた。幽霊になった今だって、人を憎んでいるようには見えない。
私は彼女のために何かしてあげたくなった。
もう死んでしまった人間相手に何ができるかはわからない。けれど、私には彼女の姿が見えるのだし、何かできることはあるのではないだろうか。
「うーん、たとえば、幽閉期間が終わるまでにお屋敷を綺麗にしておくとか……?」
ベアトリス様はこのお屋敷に住んでいる……住んでいるといっていいのかわからないけれど、ずっとここにいるようだし、現在の埃を被って庭も荒れ放題のお屋敷よりも、綺麗なお屋敷のほうが心地良いのではなかろうか。
もっといい方法がありそうだけれど、今は思いつかないのでとにかく思いついたことをやってみよう。荒れ放題になっているお庭も草むしりをしたらきっとすっきりするはずだ。
私は早速、お屋敷の中から掃除を始めることにした。
早速倉庫に行って、箒とバケツ、雑巾を数枚持ってくる。一階の応接間から、順番に部屋を回って掃除していった。
箒で床を掃いて、床を拭いて、家具を磨いて。そうしているうちに、どんよりとしていたお屋敷の空気が、澄み渡っていくような気がした。
午前中いっぱいかけて応接間と食堂と厨房を掃除した私は、ぐったりと疲れ切っていた。応接間のソファに腰掛けて、少しの間休憩する。
「よし! 続きやらないと!」
わざと声に出して気合を入れる。
気分転換も兼ねて、午後はお庭に出て、荒れ放題の草を何とかすることにした。
玄関を出て、初めて庭の中へ足を踏み入れる。
タイミングがいいなと思いながら挨拶をすると、魔女は目をぱちくりする。あいかわらず無表情だけれど、私が声をかけたとき彼女は何となく嬉しそうにしているように感じた。
私は確認したかったことを尋ねてみる。
「幽霊さん、本名はベアトリス様っていうんですか?」
魔女は動かず、ただじっとこちらを見つめていた。私は続ける。
「なんとなくあなたはベアトリス様なんじゃないかって気がしていたので、昨日来た監視係さんに確認したんです。そうしたら、特徴も一致していたので……」
そう言うと魔女はしばらく動かないままこちらを見た後、こくりとうなずいた。
「やっぱり! じゃあ、今日から幽霊さんはやめてベアトリス様って呼びますね」
ベアトリス様はまた静かにうなずく。名前で呼ぶことを許してくれたらしい。
「実は、今朝洗濯室でベアトリス様宛ての手紙を見つけたんです。それで気になって中身を見ちゃいました。……勝手にごめんなさい」
私がそう言って手紙の束を見せると、ベアトリス様がわずかに驚いた顔をした。彼女の目はじっと手紙の束を食い入るように見ている。
「ベアトリス様、色んな方から感謝されていたんですね。お薬や宝石を送って、体調の悪い方にはアドバイスしてあげたりもして」
ベアトリス様が気になっているようだったので、手紙を開いて見せると、彼女は真剣にそれを眺めていた。
「それで……私、前から気になっていたことがあるんですけれど」
そう言うとベアトリス様は手紙から目を離し、こちらに視線を向ける。
「ベアトリス様、もしかして冤罪で幽閉されたのではないですか?」
ベアトリス様は何の反応も示さなかった。目をぱちくりしたり、首を振ったりすることもなく、じぃっとこちらを見つめる。数秒間沈黙が続いた後、ベアトリス様は眉根を寄せて困ったような顔をした。
「ベアトリスさ……」
私が何か言う前に、ベアトリス様はふっと姿を消してしまった。
***
しばらく部屋に留まったまま、ベアトリス様のことを考えていた。
答えてくれなかったので真実はわからないけれど、もしも予想通り彼女が無実の罪を着せられて幽閉されたとしたら。
過酷な取り調べを受け、幼い子供とも引き離され、最後にはお屋敷で弱ったまま亡くなって。あんまりではないだろうか。
そんな仕打ちを受けながらも彼女はお屋敷の中から人助けを続けていた。幽霊になった今だって、人を憎んでいるようには見えない。
私は彼女のために何かしてあげたくなった。
もう死んでしまった人間相手に何ができるかはわからない。けれど、私には彼女の姿が見えるのだし、何かできることはあるのではないだろうか。
「うーん、たとえば、幽閉期間が終わるまでにお屋敷を綺麗にしておくとか……?」
ベアトリス様はこのお屋敷に住んでいる……住んでいるといっていいのかわからないけれど、ずっとここにいるようだし、現在の埃を被って庭も荒れ放題のお屋敷よりも、綺麗なお屋敷のほうが心地良いのではなかろうか。
もっといい方法がありそうだけれど、今は思いつかないのでとにかく思いついたことをやってみよう。荒れ放題になっているお庭も草むしりをしたらきっとすっきりするはずだ。
私は早速、お屋敷の中から掃除を始めることにした。
早速倉庫に行って、箒とバケツ、雑巾を数枚持ってくる。一階の応接間から、順番に部屋を回って掃除していった。
箒で床を掃いて、床を拭いて、家具を磨いて。そうしているうちに、どんよりとしていたお屋敷の空気が、澄み渡っていくような気がした。
午前中いっぱいかけて応接間と食堂と厨房を掃除した私は、ぐったりと疲れ切っていた。応接間のソファに腰掛けて、少しの間休憩する。
「よし! 続きやらないと!」
わざと声に出して気合を入れる。
気分転換も兼ねて、午後はお庭に出て、荒れ放題の草を何とかすることにした。
玄関を出て、初めて庭の中へ足を踏み入れる。
203
あなたにおすすめの小説
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。
しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。
同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。
その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。
アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。
ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。
フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。
フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります
せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。
読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。
「私は君を愛することはないだろう。
しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」
結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。
この人は何を言っているのかしら?
そんなことは言われなくても分かっている。
私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。
私も貴方を愛さない……
侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。
そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。
記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。
この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。
それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。
そんな私は初夜を迎えることになる。
その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……
よくある記憶喪失の話です。
誤字脱字、申し訳ありません。
ご都合主義です。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる