私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭

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16.お兄様こそが オレリア視点

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※公爵令嬢のオレリア視点の話です

 ───


 ジスレーヌ様が毒を盛ったところを見たなんて嘘を吐いたあの令嬢たちは、なんて馬鹿なのだろうと呆れてしまう。

 大方、リュシアン様はジスレーヌ様を嫌っているから、嘘でも何でも乗って来るのだろうと考えたのだろうけれど、短絡思考もいいとこだ。

 リュシアン様がジスレーヌ様を嫌っているなんて、ただのポーズに過ぎないのに。

 あの人はジスレーヌ様の奇行全てを許してしまうほど彼女に甘く、彼女以外を見ていない。そんな嘘を吐いてバレたら、怒りを向けられるのは当然だ。


 馬鹿が自滅するのは構わないけれど、ルナール公爵家所有の裁きの家に入れたらいいなんて提案を聞いたときには、張り倒してやりたくなった。

 裁きの家には極力王族関係者を近づけたくないのに。

 私の心情になんて気づきもせず、提案した令嬢はやってやりましたとばかりにこちらに笑みを向ける。それで私に媚びを売っているつもりなのか。いまいましい。

 令嬢たちも愚かしいけれど、大事にしているジスレーヌ様をあっさり嘘に騙されて罰してしまうリュシアン様もなかなかに間の抜けた男だと思う。

 彼女の罪が公になるのを恐れたのだろうが、もう少し冷静になればいいのに。

 一体、何のために毒やけがで苦しんでいる姿を隠してまでジスレーヌ様をかばってきたのか。まぁ、ほかの人にはわからなくても、私にはジスレーヌ様のやったことなんてバレバレなんだけど。

 やはり、あの人は王太子にふさわしくない。

 この国の王太子にふさわしいのは、そしていずれ王として君臨するのにふさわしいのは、セルジュお兄様なのだ。


***

 物心ついたときから、私は父に兄を支えるために生きろと言い聞かされてきた。

 お父様は元はこのシェラージュ王国の第二王子で、現国王の弟にあたる人だ。王位を継承するのは男児の第一子であると決まってはいたが、優秀だったお父様を国王にと推す者は少なくなかったという。

 勉学にも剣術にも秀で、高い判断力とカリスマ性を持っていたお父様に比べ、兄である国王様はいたって凡庸な方。いつしかお父様は兄よりも自分のほうが国王にふさわしいと考えるようになった。


 しかし慣習にとらわれた王族貴族たちに柔軟な判断など下せるはずもなく、先に生まれたというだけで第一王子、つまりお父様の兄が王位を継承した。

 それでもあきらめきれなかったお父様は、臣下に下って兄に忠誠を誓うふりをして、ひそかにその座を狙った。

 国王が街を訪問する際、こっそり買収した店で暗殺しようと考えたのだ。王位のためなら実の兄でも手をかけるお父様の覚悟は、本当に尊敬してしまう。

 しかし、計画は実行に移す前に頓挫した。

 愚かな侍女が計画を盗み聞きして、王家に密告しようとしたのだ。

 お父様は計画を断念せざるを得なかった。

 お父様は仕方なく、その女が公爵家の長男、つまり当時三歳だったセルジュお兄様を殺しかけたと見せかけ、幽閉することで計画を終わらせた。

 侍女は幽閉されたものの、いつどこで計画を誰かに漏らしているかわからない。ほかのことならまだしも、国王暗殺に関わることなんて、誰か一人にでも証拠を掴まれたら終わりだ。

 お父様は不安要素が取り除かれるまでの間、大きな動きを避けるはめになった。暗殺が成功しても、犯人だと疑われれば王位も何もない。

 お父様は自分が国王になることを諦めるしかなかった。

 代わりに息子のセルジュお兄様を王位につかせることを考え始めたのだ。

 それには邪魔な者が一人いる。陛下の息子であるリュシアン第一王子。国王の息子は一人なので、あの男さえいなくなればセルジュお兄様が国王になることも十分考えられる。

 ルナール公爵家の悲願は、お兄様を国王にすること。

 そのためなら私は何だってする。どんな犠牲を払ったって構わない。

 窓の外を眺めながら決意を新たにすると、扉を叩く音がした。
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