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16.お兄様こそが オレリア視点

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「オレリア、いいかな」

「お兄様! どうぞ入ってらして」

 返事をすると、お兄様が遠慮がちに顔を出す。口元に無意識に笑みが浮かぶ。

「お兄様、どうなさったんですか? 部屋を訪ねてくださるなんて珍しいですね。今、お茶の用意をしますわ」

「ああ、お茶はいいよ。気を遣わないでくれ。少し話したいことがあってね」

 お兄様はそう言うと、ゆっくりソファに腰掛けた。私も向かいに座る。

「話ってなんですの?」

「父上がそろそろ動こうと考えているそうなんだ。殿下に罠をしかける予定らしい。お前にも協力を頼むかもしれないと言っていた」

「まぁ、ついにですのね! 私、何でも協力いたしますわ!」

「ああ。本当は父上はジスレーヌ嬢が毒を盛った件を追及して弱みにつけ込む気だったらしいんだけど、冤罪だとわかってしまったそうだからね。どう要求を呑ませようかと、随分頭を悩ませてたよ」

「……本当に、あの子たちは馬鹿なことをしてくれましたわ。あんな杜撰な作戦なら、最初からやらないでくれたほうがましだったのに。けれど、あの場では毒を入れてないにしろ、犯人はジスレーヌ様に決まってます」

「そうかもしれないけれど、証拠がないからなぁ。まぁ、いいじゃないか。少し計画が遅れるだけだ。オレリアも心の準備をしておいてくれ」

「ええ、もちろんですわ!」

 私はお兄様の言葉に大きくうなずく。頼まれなくたって、私はいつでもお兄様を王にするために殉じる覚悟だ。

「それにしても、ジスレーヌ嬢は今裁きの家にいるのか……。ベアトリスが幽閉された場所にいるなんて不思議な気分になるな」

 お兄様は遠い目をして言う。

「あのお父様の最初の計画を邪魔した馬鹿な女のことですか」

「おいおい、そんな言い方をするなよ。ベアトリスには悪いことをした。彼女は僕のことを可愛がってくれたのに。けれど、父上に湖の中に落ちて彼女に落とされたのだと証言するよう命じられ、仕方なかったんだ」

 お兄様の声はどこか寂しげだった。そんなことを気にする必要ないのにと思う。計画を盗み聞きしたあげく、王家に告げ口しようとする女なんて消えるべきだ。

 お父様は、この国のためを思い、愚鈍な国王から王位を引き継ごうとしていただけなのに。

 やり方は少々過激でも、大義のために犠牲を出すのは仕方ないことではないか。

「ベアトリスのためにも、計画を必ず成功させないとね」

「ええ、お兄様」

 ベアトリスのためにという言い方は引っ掛かったけれど、お兄様がやる気を出してくれたのはいいことだ。

 お兄様は誰よりも王にふさわしい資質を持っているというのに謙虚な方なので、昔はお父様に勧められても王位を継ぐことに乗り気でない様子だったのだ。

 でも、そんなお兄様も今は計画に前向きになってくれた。

 私はお兄様のさらさらした灰色の髪と、儚げなアイスブルーの目をうっとりと眺める。ああ、お兄様は本当に素敵。私、お兄様のためならなんだってできる。お兄様のために死ねたら何も思い残すことはない。

「やっと、やっと夢が叶いますのね」

 熱にうかされたような気持ちでそう言ったら、お兄様は困ったような笑みをこちらに向けた。
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