私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭

文字の大きさ
75 / 78
21.その後

しおりを挟む
 ルナール公爵への処分が決まってから、三ヶ月が経った。

 幽閉が決まったルナール公爵同様、公爵の計画に深く関わり王太子を直接陥れようとした罪で、オレリア様も公爵とは隔離されて同じ屋敷に幽閉されている。

 公爵が次の国王に仕立て上げようとしたセルジュ様は直接関わっていなかったため幽閉まではされないそうだけれど、騒ぎが多少落ち着く頃にはいつの間にか王都から姿を消していた。

 爵位も屋敷も没収され、身内にこんな悪評が立ってしまった状態では、王都に居づらくなって逃げたのだろうなんて噂されていたけれど、実際のところはどうなのだろう。

 煌びやかだったルナール公爵邸はたった数ヶ月ですっかり寂れてしまい、今では悲しげに佇んでいる。


「過去に魔女を無実の罪で幽閉して、現在は自分が幽閉されるとは、皮肉なものだな」

 ルナール公爵のその後を聞かされた時、リュシアン様は冷めた顔でそう言った。

「ああ、リュシアン様、すぐ怒ってかっとなるところも素敵ですが、その冷酷な顔も素敵です……!」

「いつも怒らせてるのはどこのどいつだよ」

「いひゃい、いひゃいです、リュシアンさま!」

 リュシアン様の非情な目をうっとり眺めながら言うと、頬を思いきりつねられてしまった。


「だいたいお前な、会議に乱入してくる奴があるか! 今回はうまく行ったからいいものの失敗したらどうするつもりだったんだ!?」

「ご、ごめんなさい。だってリュシアン様がピンチだと思ったら、いてもたってもいられなくて……」

「何の対策もせずに追及会議に出向くわけないだろうが。夜のうちに大急ぎで公爵家の罪を証言できる者がいないか探して、なんとか当時の監視係を見つけて呼び寄せておいたんだ」

 リュシアン様は私の頬を引っ張りながら呆れ顔で言う。そういえば、会議の日の朝、リュシアン様は目の下に隈を作って疲れきった顔をしていた。きっと寝ずに準備をしていたのだろう。

「けれど、それならどうしてドミニクさんを最初から会議に呼ばなかったんですか? はじめに呼んでしまえば、すぐに無罪だとわかってもらえたんじゃ……」

「タイミングを測ってたんだよ。下手したら叔父上にうまく言いくるめられて、証言を信じてもらえない可能性もあるだろ」

「まぁ……! そんなに考えていらしたのに、私ったら軽率な真似を……!」

「本当だよ」

 リュシアン様は溜め息交じりに言う。それからぽつりと呟いた。

「それに、できることなら平穏に暮らしている平民を巻き込みたくなかったしな……」

 その一言で、私は自分の考えのなさに顔が熱くなった。そうだ。今回は無事に証言が認められて公爵の罪を明らかにできたからいいものの、失敗すればドミニクさんに被害が行く可能性もあったのだ。

 平民の身分で公爵家を敵に回せば、どんな被害が出るのかわからない。

 私はドミニクさんがそんな危険を冒してやって来たことに、今まで考えも至らなかった。

「トマスに言ったら多分俺が助かること最優先で動くだろうから、ドミニク殿を不都合なタイミングで呼びかねないと思って黙ってたんだ。それだけじゃなく、お前のことも対策しておくべきだった」

「そ……うですね」

 私は悲しくなって俯いた。やっぱり私はリュシアン様と何もかも違う。自分のことや、自分の好きな人のことばかり考えている私は、王太子の婚約者にふさわしくないのかもしれない。

 私が本気で落ち込んでいるのに気づいたのか、リュシアン様は戸惑い顔になった。

「おい、ジスレーヌ。そこまで落ち込むことないだろ」

「けれど……私自分のことばかり考えていて、恥ずかしいです」

 絞り出すようにそう言ったら、リュシアン様は仕方なそうに言った。

「……今回公爵が王位簒奪を企んでいたことがわかったのは、そもそもお前の言葉のおかげだ。そこは感謝している」

「リュシアン様……」

「あと、めちゃくちゃ迷惑だったけど、会議室にお前が血相変えて飛び込んで来たのを見たときは、その……少し嬉しかった。めちゃくちゃ迷惑だったけどな!」

「リュシアン様……!」

 感極まって思わず抱き着こうとしたら、リュシアン様に調子に乗るなと押しのけられた。しょんぼりしていたら、リュシアン様はぽんぽん頭を撫でてくれた。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。

しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。 同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。 その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。 アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。 ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。 フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。 フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

処理中です...