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21.その後
④
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「お久しぶりです、ベアトリス様。今日はリュシアン様も一緒なんです」
ベアトリス様はちらっとリュシアン様のほうを見てから、こくんとうなずく。私は続けた。
「以前もお話ししましたが、二十年前の事件の真相はちゃんと明らかになりましたからね。今では王都でベアトリス様は王家を救った人として尊敬を集めています。今さらって感じかもしれませんが……」
ベアトリス様はやっぱり表情を変えないままだ。嬉しそうにも、不快そうにも見えない。
「そうそう、さっきフェリシアンさんにお茶を出してもらったんです。あの青いお茶。ベアトリス様が魔法をかけたんですよね?」
尋ねると、ベアトリス様はうなずいた。
「やっぱり! あのお茶はベアトリス様の魔法がないと完成しないんですね。私もお城でお茶を淹れてみたんですが、普通の茶色の紅茶になっちゃいました。それにしても、親子でお茶づくりなんて素敵ですね」
そう言うと、ベアトリス様は小さく微笑んだ。滅多に見せないベアトリス様の笑顔。あまり感情を見せないけれど、フェリシアンさんがお屋敷にいるのがやっぱり嬉しいのだろうなと思う。
私が王都に戻ってからの近況を話そうと口を開くと、すっとベアトリス様が近づいてきた。
そうして私の目元に手の平を重ねる。感触は感じられないけれど、思わず目を瞑った。
すると、ひゅぅっと音を立てて、大きな風が庭中を吹き抜ける。
「ベアトリスさ……」
目を開けて飛び込んできた光景に、言葉を失った。
目の前には、見渡す限りの水色が広がっている。庭中の木や草に、見惚れるほど美しい水色の花が咲いているのだ。まるでどこか知らない世界に迷い込んでしまったみたい。
「おい、なんだこれ。風が吹いたと思ったら、突然花が咲いたぞ!?」
リュシアン様が驚いた様子で言う。
「きっとベアトリス様が……。あの、これベアトリス様がやったんですよね?」
尋ねるとベアトリス様はにっこり笑って見せた。それからお屋敷のほうに向かってすっと姿を消してしまう。
神聖なまでに美しいその光景にはどこか見覚えがあった。あれは以前、お庭の草を刈っていたときのこと。
庭の奥に一か所だけ水色の花が咲く場所があったのだ。目の前にはあの場所が全体に広がったような美しい空間が広がっている。
私はあの時、ベアトリス様の前でリュシアン様と一緒にこのお花を見られたらと呟いたことを思い出した。
「やっぱりベアトリス様の魔法みたいです。なんて綺麗なんでしょう……」
「ベアトリスの霊がこれを」
リュシアン様は花畑を見ながら目をぱちくりしている。ベアトリス様の姿が見えないリュシアン様は、突然変わった目の前の景色に私以上に驚いているようだった。
「前にベアトリス様に、いつかリュシアン様とこのお花を見たいって言ったことがあるんです。まさかこんな風に叶えてくれるなんて……」
「お前、幽閉中に幽霊に向かってそんなのん気なことを言ってたのか」
「仕方ないじゃないですか! お屋敷にいる間は、生身のリュシアン様に会えなかったんですもの。リュシアン様と出かけるところを思い浮かべてなんとか寂しさを乗りきってたんです」
力を込めてそう言うと、リュシアン様は眉をひそめて怒った顔になった。怒った顔ではあるけれど、頬っぺたが若干赤い。リュシアン様が照れたときによくする表情だ。
「そもそも幽閉されるようなことをしなければいいんだろ」
「そ、そうですね……。反省しております」
「これからは二度と毒を盛るなよ」
呆れたように言われ、私は目を泳がせた。もちろん、反省はしている。私だってこれからはリュシアン様に迷惑をかけない人間になろうと、いつだって思っているのだ。
「多分、もうやりません……!」
「多分じゃねーよ、馬鹿」
絞り出すようにそう答えたらリュシアン様の頭をはたかれてしまった。
私が頭を押さえながら謝っていると、風に混じってどこかから笑い声が聞こえた気がした。
終わり
───
最後まで読んでくれてありがとうございました!
ベアトリス様はちらっとリュシアン様のほうを見てから、こくんとうなずく。私は続けた。
「以前もお話ししましたが、二十年前の事件の真相はちゃんと明らかになりましたからね。今では王都でベアトリス様は王家を救った人として尊敬を集めています。今さらって感じかもしれませんが……」
ベアトリス様はやっぱり表情を変えないままだ。嬉しそうにも、不快そうにも見えない。
「そうそう、さっきフェリシアンさんにお茶を出してもらったんです。あの青いお茶。ベアトリス様が魔法をかけたんですよね?」
尋ねると、ベアトリス様はうなずいた。
「やっぱり! あのお茶はベアトリス様の魔法がないと完成しないんですね。私もお城でお茶を淹れてみたんですが、普通の茶色の紅茶になっちゃいました。それにしても、親子でお茶づくりなんて素敵ですね」
そう言うと、ベアトリス様は小さく微笑んだ。滅多に見せないベアトリス様の笑顔。あまり感情を見せないけれど、フェリシアンさんがお屋敷にいるのがやっぱり嬉しいのだろうなと思う。
私が王都に戻ってからの近況を話そうと口を開くと、すっとベアトリス様が近づいてきた。
そうして私の目元に手の平を重ねる。感触は感じられないけれど、思わず目を瞑った。
すると、ひゅぅっと音を立てて、大きな風が庭中を吹き抜ける。
「ベアトリスさ……」
目を開けて飛び込んできた光景に、言葉を失った。
目の前には、見渡す限りの水色が広がっている。庭中の木や草に、見惚れるほど美しい水色の花が咲いているのだ。まるでどこか知らない世界に迷い込んでしまったみたい。
「おい、なんだこれ。風が吹いたと思ったら、突然花が咲いたぞ!?」
リュシアン様が驚いた様子で言う。
「きっとベアトリス様が……。あの、これベアトリス様がやったんですよね?」
尋ねるとベアトリス様はにっこり笑って見せた。それからお屋敷のほうに向かってすっと姿を消してしまう。
神聖なまでに美しいその光景にはどこか見覚えがあった。あれは以前、お庭の草を刈っていたときのこと。
庭の奥に一か所だけ水色の花が咲く場所があったのだ。目の前にはあの場所が全体に広がったような美しい空間が広がっている。
私はあの時、ベアトリス様の前でリュシアン様と一緒にこのお花を見られたらと呟いたことを思い出した。
「やっぱりベアトリス様の魔法みたいです。なんて綺麗なんでしょう……」
「ベアトリスの霊がこれを」
リュシアン様は花畑を見ながら目をぱちくりしている。ベアトリス様の姿が見えないリュシアン様は、突然変わった目の前の景色に私以上に驚いているようだった。
「前にベアトリス様に、いつかリュシアン様とこのお花を見たいって言ったことがあるんです。まさかこんな風に叶えてくれるなんて……」
「お前、幽閉中に幽霊に向かってそんなのん気なことを言ってたのか」
「仕方ないじゃないですか! お屋敷にいる間は、生身のリュシアン様に会えなかったんですもの。リュシアン様と出かけるところを思い浮かべてなんとか寂しさを乗りきってたんです」
力を込めてそう言うと、リュシアン様は眉をひそめて怒った顔になった。怒った顔ではあるけれど、頬っぺたが若干赤い。リュシアン様が照れたときによくする表情だ。
「そもそも幽閉されるようなことをしなければいいんだろ」
「そ、そうですね……。反省しております」
「これからは二度と毒を盛るなよ」
呆れたように言われ、私は目を泳がせた。もちろん、反省はしている。私だってこれからはリュシアン様に迷惑をかけない人間になろうと、いつだって思っているのだ。
「多分、もうやりません……!」
「多分じゃねーよ、馬鹿」
絞り出すようにそう答えたらリュシアン様の頭をはたかれてしまった。
私が頭を押さえながら謝っていると、風に混じってどこかから笑い声が聞こえた気がした。
終わり
───
最後まで読んでくれてありがとうございました!
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