君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭

文字の大きさ
74 / 95
5.カレン様と展示会

しおりを挟む
 そんなことを思いながら横にいたカレン様に視線を向けると、彼女は至極気まずそうな顔でそろそろこちらを離れていくところだった。

「お待ちください、カレン様」

 すると、レナード様がいつもより低い声で彼女を呼び止める。カレン様はぎくりと肩を揺らして振り向いた。

「なんでしょうか、レナード様」

「……言わなくてもわかっていますよね。なぜメイベルさんを舞台に連れていったんですか? 新作展示会のショーで旧作のドレスを着ていたら、場違いになることはわかっていたでしょうに」

「別に悪意があったわけではありませんわ。演者の急な欠席で主催が困っていたので、代理にちょうどいいと思ってメイベル様を呼んだだけです」

 カレン様は澄まし顔で言う。レナード様の表情が引きつった。

「そんな説明で納得できるとお思いですか。カレン様。メイベルさんを困らせたこと、彼女に謝ってください」

「レ、レナード様! 私は大丈夫です! カレン様も悪気があったわけではないでしょうし!」

 ピリピリした空気に、私は慌てて間に入る。レナード様はでも、と納得いかなそうに私を見た。


 すると、突然どこかから明るい声が飛んできた。

「あっ、君、さっきのショーに出ていた子だよね! すごくよかったよ!」

 声のしたほうに視線を向けると、明るい茶色の髪の青年が楽しげな表情でこちらへ向かってくるところだった。彼の連れらしい黒髪の女性が、突然失礼よ、と言いながら青年を追いかけてくる。

「えっと、ありがとうございます」

「ショーの最中に衣装が変わる演出なんて驚いたよ! ああいうのもいいね」

 青年はレナード様とカレン様が揉めていたのに気づいていないようで、にこやかに話しかけてくる。

「そうおっしゃっていただけて嬉しいです」

「本当によかったよ。いい演出だった! 最初は赤いドレスの子の引き立て役として登場して、後から逆転する感じが斬新だね! やっぱり引き立て役がいると主役が輝くな」

 青年は腕組みして、一人でうんうん納得している。私はぽかんとしてしまった。

「引き立て役……」

「ちょっと、いいかげんにしなさいよ! 引き立て役なんてどちらのご令嬢にも失礼でしょう!?」

「いたっ」

 青年の連れの女性が、青年の背中をバシンと叩く。よほど強い力で叩かれたのか、青年は前のめりによろけていた。

 女性は怒り顔で青年の背中を押しながら、こちらに視線を向けて申し訳なさそうな顔をする。

「この人が失礼なことを言ってごめんなさいね。あなたの最初のドレスも、赤いドレスのご令嬢も綺麗だったわよ」

「あ、ありがとうございます」

「それじゃあ、また。ほら、さっさと行くわよ!」

 女性は文句を言う青年の背中を押しながら、どこかへ去って行ってしまった。

 私は呆気に取られてその様子を眺める。レナード様も先ほどまでの冷ややか表情から、すっかり気の抜けた表情になってしまっていた。

「……は? カレンが……引き立て役……?」

 後ろから、カレン様の虚ろな声が聞こえてくる。

 青年の乱入でぴりぴりした空気はいつの間にかどこかへ行ってしまい、その後はなあなあに別れることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...