君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭

文字の大きさ
93 / 95
6.ルヴェーナ魔法学園

しおりを挟む
 数秒間の沈黙の後、レナード様が口を開いた。

「……あのさ、メイベルさん。前に僕が、婚約者を探したくないのは魔法省に入るか迷っていること以外にも理由があるって言ったの覚えてる?」

「……? はい、おっしゃっていましたね」

 以前、レナード様が婚約者の件で揉めている際に、ラスウェル邸に行ったときのことを思い出す。レナード様はあの時、婚約者を探したくないのには将来のことを決めかねていること以外に別の理由があると言っていた。

「あれ、魔術院に気になる子がいるからなんだ」

「え……っ」

 予想外の言葉に、思わずよろめいた。

 ちっとも気づかなかった。エリアナ様の件は勘違いだったようだけれど、レナード様にはほかに好きな方がいたのだ。

 一体誰のことだろう。記憶を探ってみても見当もつかない。

「だけどその子は、魔法にひたむきでいつも一生懸命で、ほかのことは視界にも入らないみたいだった。夢に向かって頑張っているその子を邪魔することができなかったんだ」

「そ、そうなんですね……。そんな方が……」

 私は衝撃に耐えながら答える。

 レナード様にそんなに想われている方とは一体誰なのだろう。というか、それこそ私は馬鹿みたいではないだろうか。レナード様にはそこまで想ってらっしゃる方がいるのに、のん気に自分が魔術院で一番近しい存在だと思っていたなんて……。

 ショックで気が遠くなっていると、レナード様に手を握りしめられた。

「メイベルさん、いつも一生懸命な君がずっと好きだった。僕と婚約してくれないか」

「…………え?」

 言われた言葉を理解しきれないままレナード様を見る。

 今さっき魔術院に気になる方がいると言っていたのに、そこからなぜそんな話に?

「え? 今魔術院に気になる方がいるとおっしゃっていませんでしたか?」

「うん、メイベルさんのことがずっと気になってた」

 レナード様ははっきりとそう言った。

 手を握りしめられたまま、私は固まってしまった。つまり、レナード様が魔術院で気になっている人というのは私ということ……?

 理解した途端、顔が熱くなった。

「え、ええ……!? 本気で言ってますか!?」

「冗談でこんなこと言うわけないじゃないか」

「でも、だって……!」

 私なんて、元婚約者につまらないとか、お姉様のほうがいいとか言われるような人間だし。それでなくても、レナード様のような立派な方に私がつり合うと思えない。

 戸惑いながら見つめ返すと、レナード様は少し不安そうな顔になって私を見た。

「メイベルさん、僕じゃだめかな……?」

 じっと見つめられた途端、胸がきゅんと音を立てた。

 私なんてとか、釣り合わないとか、そういうことを取り払った本音はなんだろう。私は本当はどうしたいのか。

 そう考えていたら、悩むまでもなく答えはひとつしかないと気づいた。

 私はどぎまぎしながら口を開く。

「私でよければ、どうかよろしくお願いします……っ!」

「本当に!? 僕と婚約してくれる!?」

「はい、それと私も、レナード様のことが好きみたいです!」

 そう言ったら、レナード様の表情がぱっと輝いた。レナード様がまた私の手をぎゅっと握りしめて、嬉しそうにありがとうと言ってくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

処理中です...