私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
17 / 101

イチゴのマカロン

しおりを挟む
「それにしても、あの王女様、すごい威圧感ね。獣人の血がうすい私でも、さっき、ルーファスを呼んだ時の声、まるで竜が吠えたみたいで、鳥肌がたったわ」

アイリスが腕をなでながら、言った。

「迫力はあると思ったけれど、やっぱり、獣人だともっと感じるんだね。お父様に、ルーファスがいても、王女様の近くにはいかないように言われてるの。私、獣人じゃないから、なにかあっても気づきにくいからだって」

「確かにね……。あれだけの竜の獣人だと、威圧されただけで怖いと思うし、私も近くに寄りたくないわね。それに、ルーファスのことをかなり気に入ってそうなのが気になるし……。侯爵様の言うように、特にララは近寄らないほうがいいわ」

「え? どういうこと?」

「そうね……。私の勘かな」

それだけ答えると、アイリスが警戒した目で王女様を見た。
まわりを見回していたグレンが驚いたような声をあげた。

「王女様のまわりにいるジャナ国の護衛の人たち。やっぱり純血の獣人だから、見た目からして全然違うね~」

グレンに言われて、初めて護衛の人たちにも目を向けてみた。
王女様を守るように立っている屈強な護衛の人たち。よく見ると、鋭い爪が長くのびていたり、オオカミのような耳があったり、長いしっぽが制服からでていたりもする。

この国では、物語の中でしか見ないような獣人の姿だ。

「あっ、王女様の首。嘘でしょ? もしかして、竜の鱗が残ってるの……!?」

そういって、アイリスが息をのんだ。

目をこらしてみると、王女様の首のあたりが光にあたって、やけに、きらきらとしている。
確かに、首に鱗があるみたい。

「まさか竜の鱗があるだなんて、すごいわね……。もしかしたら、竜の姿になれるかもしれないってことだもの……。やっぱり、ララは絶対に近づいちゃダメよ! 多分、ルーファスのほうからも今日はララに近づいてこないと思うわ。ララの安全をなにより考えてるあの男のことだもの。用心してるに決まってる」

「え、なんで?」

「私の勘」

アイリスはまたもやそう答えた。

正直、アイリスの勘はよくあたる。
言っている意味はよくわからないけれど、お父様だけじゃなく、アイリスまでそう言うのなら、王女様に近づかないように気をつけよう。



それから自由に歓談する時間がはじまり、一気に、あたりはにぎやかになった。
両親の姿を探すと、他の貴族の大人たちと談笑しているよう。

よし! これなら、ずっとアイリスのところにいてもいいよね。

今日は立食なので、私もアイリスたちと一緒に食べ物の並ぶテーブルに近づいた。
テーブルには沢山の食べ物と飲み物が並べられていた。

おしゃれな飾り付けがされたイチゴのマカロンが目に入った。
給仕係の人に、大好物のイチゴのマカロンをお皿にとってもらい、さあ食べようとした時だった。
ふいに、ルーファスが目の前にいるかのように思い、手がとまった。

「大好物のいちごのマカロンを片手に、なんで固まってるの、ララ?」
と、アイリスが不思議そうに聞いてきた。

「イチゴのマカロンを食べようとしたら、ルーファスを思い出して。ほら、ルーファスって、いつものカフェで、マカロンセットを頼んでは、必ず、イチゴのマカロンのほうを私にくれるでしょ? イチゴのマカロンは嫌いみたいで、ピスタチオのマカロンしか食べないんだよね」

アイリスがあきれたように私を見た。

「ああ……あれね……。あのね、ララ。ルーファスは別にイチゴのマカロンが嫌いなわけでも、ピスタチオのマカロンが好きなわけでも、そもそも、マカロン自体が好きなわけでもないと思うよ。ただただ、ララに、食べさせたいだけで、毎度毎度、あのマカロンセットを頼んでるんでしょ?」

「……ん? 私に食べさせたい? いや、違うと思うよ。ピスタチオのマカロンだけが食べたいんだと思う」

「まあ、今はいいわ……。で、それで、なんで、ルーファスを思い出して、固まってるの?」

「イチゴのマカロンを食べようとすると、条件反射のように、ルーファスの顔のアップが自然とうかんでくる私が、……もしも、その時がきて、ちゃんと、ルーファス離れができるか猛烈に不安になってきたんだよね……」

イチゴのマカロンと私を見比べたあと、アイリスが神妙な顔でうなずいた。

「なるほど……。さすが、ルーファス、あなどれないわね……。正直、ルーファスが、カフェでララにマカロンをたべさせ始めたのを見た時は、ララの鈍さにつけこんで、姑息なことをしはじめたとあきれたものだけど、これは、ただララに手づから食べさせたいというルーファスの気持ちの悪い欲望だけじゃなかったってことね……。イチゴのマカロンと一緒にルーファスの顔を刷り込むという、餌付け作戦だったのね……。私としたことが、うっかり目先の気持ち悪さにとらわれてたわ。ルーファスは、こうなる先を見据えて、計画を立て、コツコツと動いてたのね。これは商売にも使えることだわ。私もルーファスを見習わなきゃ」

そうつぶやいた後、すっかり仕事用の顔でなにやら考えはじめたアイリス。

その間、ふと気になって、ちらっとルーファスのほうを見た。
が、ルーファスはにこやかに王女様と話をしている。

なんか、距離が近くない?

またもや、胸がチクっとしたけれど、無視して、イチゴのマカロンを口に放り込んだ。
やわらかいマカロンが口の中で溶けていく。

はあ、美味しい! 幸せ! ……と、いつもならなるはずなのに、今日は、なんだか味がしない。

生まれて初めて、イチゴのマカロンがおいしくないと思った。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。 ※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡

処理中です...