私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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信じてる

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ルーファスは、いまだうっとりと王女様をみつめるモリナさんを刺すような視線でちらりと見ると、すぐに私のほうを向いた。

「僕の推測だと、あれは……いや、あの侯爵令嬢は、王子妃みたいに無理やり従わされたわけじゃなく、どちらかというと、侯爵令嬢自身が王女の竜の力にすりよって、主従関係みたいになっているんだと思う。王子妃みたいに全く感情がないわけでもないからね」

「確かに。全然違う……」

私はルーファスの言葉にうなずいた。

「ああいう竜の力に簡単に影響を受けるのは、獣人の中でも、血が薄い獣人。濃い血だと、僕や母のように反発するから無理だ。更にいえば、侯爵令嬢や王子妃のように、同じ系統の竜の獣人で血がうすい者が一番影響を受けやすいんじゃないかな。王子妃のように反発していても、竜の獣人の血に訴えれば、簡単にねじふせられるし、侯爵令嬢みたいにもともと好意的だと、王女が竜の力を使わなくても、勝手に、侯爵令嬢のほうから竜の力にすいよせられてる感じかな」

「じゃあ、キリアンさんやライザさんは、竜の獣人なの……?」

「そうなんだ。キリアンもライザも竜の獣人だ。しかも、王子妃や侯爵令嬢のように血は薄い」

「それなら、この部屋にいるのも危ないんじゃないの? 念のために、早く、逃げてもらった方がいいよ!」

あわてて言う私に、ルーファスが優しく微笑んだ。

「ララは本当に優しくて、天使だよね」

またまた、私をのんきにほめるルーファス。

「いや、全然普通だよ? 天使はルーファスだから。それより、キリアンさんとライザさんに部屋から出てもらおうよ! 安全第一だよ!」

ルーファスに向かって一気に早口でまくしたてると、私の背後に控えてくれているキリアンさんを振り返った。
微笑みをたたえて立っている様子を見て、ほっとする。
今のところ、異常はないみたい。

「早口のララはかわいくて、ずっと見ていたいけど、心配しなくても大丈夫だよ、ララ。ララの背後にいるキリアンは僕の近くにいるし、ライザも母の近くに控えている。血の濃い竜の獣人の近くにいることで、仮に王女が竜の力を使ってふたりを支配しようとしても影響を受けないんだ。つまり、僕と母が防波堤になる感じかな」

「あー、そうなんだ。良かったー。……あ、王女様が王子妃に話すのをやめたわ。第二王子のほうに何か言ってる」

「ほんとだね。王子妃にどんな指示をすりこんだのかな……。どうせ仕掛けてくるなら、中途半端な計画はやめてほしいよね。王女だからって、なかったことにされたら困るし。なにより、野放しにして、今後、ララに害を与えるなんて許せないからね。仕掛けてくるなら、言い逃れできない感じで徹底的にたたきつぶしておきたいよね……」

なにやら笑顔でつぶやくルーファス。
なんだか、すごく物騒なこと言ってなかった……!?

でも、笑顔はきらきらなのよね。
また、聞き間違い……?

と思ったら、レーナおばさまがルーファスのほうを向くと、さっと注意した。

「本性がもれてるわ。ちゃんとしまっておきなさい」

本性がもれる……?
もれるもなにも、ルーファスはみたまんま、天使だよね?

思わず、ルーファスを見る。

「どうしたの、ララ?」

とろけるように微笑んだルーファス。
うん、やっぱり、天使だ。

「ううん、なんでもない。……あ、王女様が席に戻ってきた」

一気に緊張してきた。
たとえ、自分に影響がないとはいえ、竜の力という特殊な力を使って、王子妃を操ったのを目の当たりにすると、やっぱり怖い。

レーナおばさまが不穏な空気を払うように、違う種類のお茶の説明をしてくれて、メイドさんたちが手際よく、みんなに給仕をしていく。

私もキリアンさんが淹れてくれたお茶を飲んでみる。
このお茶は、ほっとするような優しい味……。

王女様にわきあがった緊張感や恐れのかたまりが、やんわり、溶けて消えていくよう。

メイドさんが焼きあがったばかりのケーキをきりわけたりする音にまぎれて、ルーファスが私にささやいてきた。

「このお茶は気持ちを落ち着ける効果があるんだって。まあ、母の思いもむなしいくらい、向こう側に全く効かないけどね」

「でも、私の気持ちが落ち着いたよ。ちょっと怖くなってきてたから、良かった……」

「ララ……。ララのことは、僕が命をかけて守るから。何があっても僕を信じて」

熱のこもった声が耳にふきこまれて、ドクッと心臓が音をたてた。
顔が一気に熱くなる。

はずかしくなって思わず顔をふせながら、「ルーファスのことはいつだって信じてる」と答えた私。

「ありがとう、ララ。僕もだよ。ララのすべてを信じてる」

これ以上ないくらい甘い声が、顔をふせたままの私の耳にふきこまれた。
更に顔が熱くなる。
心臓のドクドクが止まらない!

「あら、ララベルさん。どうかされたのかしら? お顔が真っ赤よ?」

いきなり、棘のある声が響いた。

はじかれたように顔を上げると、王女様が私をじっと見ていた。
艶やかな笑みを浮かべているけれど、金色の瞳は笑ってはいない。
まるで獲物を狙うように、鋭い光を放っていた。





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