私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
55 / 101

話題をかえて

しおりを挟む
顔をあげた私を見て、王女様はおおげさに言った。

「本当に真っ赤な顔をしてるわよ、ララベルさん! 熱でもあるのではない? 獣人の血が全くはいっていない、人だと、体も丈夫ではないのでしょう? 」

あからさまに、獣人ではない私をみくびっている口調だ。
王女様の隣の席に座るモリナさんがクスクスと嬉しそうに笑っている。

「いえ、熱もないし、大丈夫です。確かに、私は獣人の血は全くはいっていませんが、ものすごく丈夫です。小さいころから、風邪ひとつひかないのが、私の自慢ですから」

怖がっていると思われないよう、胸をはり、できるだけ、低くて強そうな声をだしてみた。

が、慣れていないので、変な声になってしまった。

かえって、弱そうな雰囲気がただよってしまったんじゃない?
こんなことなら、強そうに聞こえる声のだしかたでも練習しておけばよかった……。

隣で、ふっと、やわらかい笑い声がもれた。
もちろん、ルーファスだ。

ルーファスは王女様に向かって、口を開いた。

「ララの言うとおり、ララは体が丈夫ですよ。それに、竜の獣人であっても、こどものころ、僕はしょっちゅう風邪をひいていました。いつも、ララがお見舞いにきてくれて、つきそってくれたけれど、ララには一度もうつりませんでしたから。ねえ、ララ」

そう言って、私のほうを見て、優しく微笑んだルーファス。

確かに、ルーファスはよく風邪をひいていた。
あの誘拐未遂事件のあと、時々、体調を崩していたルーファス。
私は心配でよく様子をみにいっていた。
それがおさまってきたなあと思って少し安心していたら、今度はよく風邪をひくようになった。

で、そのたびに、「ララ、すぐに、お見舞いにきて!」って連絡が届いてたんだよね。

しかも、公爵家からの直接の連絡じゃなくて、ルーファスの手書きのメモを、ルーファスの家庭教師の先生とか、ルーファスの近所に住んでいる、ルーファスの幼馴染の男の子だったり、いろんな人がうちに届けてきた。

後で知ったんだけど、私に風邪がうつったらいけないから私を呼んではいけないと、レーナおばさまがとめたから、ルーファスは、いろんな手段を使ってうちに連絡してきたみたい。

そのころの私は、ルーファスのお見舞いにはすっかり慣れていたから、すばやく、絵本やぬいぐるみや遊び道具を大きなバスケットにぎゅんぎゅんにつめこんで、お母様かジョナスお兄様をひっぱって(一度ひとりで出かけようとして、こっぴどく怒られたので)、うちの馬車をだしてもらって、かけつけていたんだよね。

結局、私に風邪がうつらないのと、ルーファスが私をよぶのを絶対にあきらめないので、レーナおばさまも折れたよう。
「また、ルーファスが風邪をひいて、ララちゃんに会いたがってるの。遊びにきてくれる?」
と、レーナおばさまから連絡がくるようになった。

お母様やジョナスお兄様が私につきそえない時は、レーナおばさまが馬車で送り迎えをしてくださって、「いつも、ルーファスが甘えてしまってごめんなさいね、ララちゃん」と、しきりに謝られた。

ベッドで寝ていても、私が行くと、ルーファスの顔がぱあっと輝いて、うれしかったなあ。
小さい頃のルーファスを思い出すと、その愛らしさに、自然と顔がゆるみまくってしまう。

あ、いけない! 王女様の前だった。
のんきに思い出にひたっている場合じゃないよね。
私は、あわてて、ゆるみきっていた顔をひきしめた。

そこで、レーナおばさまが王女様にむかって、やわらかい口調で話し始めた。

「王女様。ルーファスの言ったとおりですわ。ルーファスは体調をくずすと、ララちゃんに甘えて、すぐに呼ぼうとするから、私がララちゃんに知らせないようにしていたものです。風邪の場合は、うつりますから。でも、困ったことに、あらゆる手段を使って、ルーファスはララちゃんに連絡をいれるんです。しかも、ララちゃんがきたら、ルーファスがわがままを言って、離れないものですから、ララちゃんににうつったらと心配しておりました。が、一度も、ララちゃんにはうつらなかったんです。獣人ばかりが住まわれているジャナ国のことはわかりませんが、我が国では、獣人と人で健康面で違いがあるというよりは、あくまで、個人の体質の違いですわね」

おお、さすがレーナおばさま!

私が丈夫かどうかなんて、どうでもいい話題をうちけすような、ジャナ国と我が国の違いという、お茶会にふさわしい感じのきれいなまとめかた。 

これで、私の話題はきれいさっぱり終わるよね! 

モリナさんが悔しそうな顔をして、私をにらみつけてきた。

王女様はレーナおばさまに言った。

「ルーファスのほほえましいお話をありがとう。ロイド公爵夫人」

そして、私の方に向いて、意味ありげな笑みをうかべた。

「ララベルさんは丈夫というか、風邪をひかない体質のようね」

え、この感じ、まだ続けるの……?

「ねえ、ララベルさん。ジャナ国では、おもしろいことわざがあるの。風邪をひかない獣人たちは能天気だっていうものよ。もちろん、ララベルさんがそうだと言っているわけではないわ。でも、風邪をよくひいていたというルーファスは、とても頭のいい子どもだったのね」

うん……? つまり、私が馬鹿だったっていいたいわけ?

さっきまで私をにらんでいたモリナさんが、プッとふきだした。

「まさか、王女ともあろうかたが、そんなこと、本気で信じているわけではないですよね? 風邪をひくと頭がいいなんて、わけがわからない。その逆もしかりだ。そのことわざに似たものを、他国のことわざで読んだことがあります。確か、風邪をひいても全く気にしないくらい、おおらかだという、いい意味のことわざでした。ちなみに、ララは海のように広い心をもっていて、とてもおおらかで優しいんです」

ルーファスが王女様にむかって、言い放った。

ルーファス……。

私は海のように広い心はもってないよ……。
靴をなげたくなるくらい、限りある、狭い心しかもってないんだけど……。

笑っていたモリナさんの顔が、またもや、憎々し気にゆがめられた。

「もちろん、冗談よ、ルーファス。そんなこと信じていないわ。ララベルさんも、ただのことわざを言ったまでだから、気を悪くしないでね」

「はい、大丈夫です」
と、きっぱり返事をする。

今度こそ、私へ絡んでくるのはやめて欲しいという願いをこめて……。

すると、王女様が私にむかって、何故か不敵な笑みをうかべたあと、また、しゃべりはじめた。

「この国は、普段、獣人と人を意識せず暮らしているみたいね。興味深いわ。でも、いくらこの国で、分け隔てなく暮らしていても、絶対的に獣人と人では違うことがあるわよね。血が濃い獣人だと、避けられないのではなくて? もちろん、人であるララベルさんも、わかっているわよね?」
と、挑むように聞いてきた王女様。

もしかして、もしかしなくても、私の大嫌いなあのことを言ってるんだよね……?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

番など、御免こうむる

池家乃あひる
ファンタジー
「運命の番」の第一研究者であるセリカは、やんごとなき事情により獣人が暮らすルガリア国に派遣されている。 だが、来日した日から第二王子が助手を「運命の番」だと言い張り、どれだけ否定しようとも聞き入れない有様。 むしろ運命の番を引き裂く大罪人だとセリカを処刑すると言い張る始末。 無事に役目を果たし、帰国しようとするセリカたちだったが、当然のように第二王子が妨害してきて……? ※リハビリがてら、書きたいところだけ書いた話です ※設定はふんわりとしています ※ジャンルが分からなかったため、ひとまずキャラ文芸で設定しております ※小説家になろうにも投稿しております

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆
恋愛
 獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。  私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。  だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。 『飼い主』の存在だ。  獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。  この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。  例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。  そう。私の番は前世持ち。  そして。 ―――『私の番には飼い主がいる』

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

処理中です...