69 / 127
番外編
閑話 アリスノート 3
しおりを挟む
「あ、モーラだ。久しぶりだね。どう、うまくいってる?」
兄上がモーラに明るく声をかけた。
「王太子様、ご無沙汰しております。ええ、順調にすすんでおります」
そう言って、モーラがにっこりと微笑む。
久しぶりって、どういうことだ? 俺は不思議に思って聞いた。
「俺は、ほぼ毎日、モーラにお茶を淹れてもらってるが…。二人は久しぶりなのか?」
「新人のメイドを採用したから、今、モーラはその教育で忙しいんだよね。だから、しばらく、ぼくのところへは、別のメイドがお茶を淹れにきてくれてるんだ」
「え? そうだったのか?! それなら、俺も、他のメイドに持ってきてもらうようにする」
俺がそう言ったとたん、兄上が身をのりだしてきた。
「それは、絶対ダメ! ルイスのお茶を淹れる仕事は、この王宮で最も重要な仕事のひとつだから。モーラ以外のメイドには任せられないよっ!」
…はあ?! 最も重要な仕事のひとつって…。兄上は、何を言ってるんだ?!
「俺のお茶は別にいいだろ。忙しいモーラに、時間を割いてもらうのは悪い」
俺が言い返す。
すると、兄上は首をかしげて、ちょっと考えてから言った。
「モーラじゃなければ、副メイド長のマリアだね。でも、マリアは今、娘のお産でしばらく休暇をとってるから…。そうなると、テオか、ローガンになるけど、それでもいい?」
「え? …いや、いいわけないだろ? テオとローガンって、どっちもメイドじゃないし、定年間近の執事だ。管轄外の俺のお茶を頼むのは悪いだろ」
「じゃあ、残るは、ウルスか…。どう?」
俺はため息をついた。
「ウルスは、兄上の側近じゃないか。そもそも、お茶を淹れられるのか?」
「うーん、ぼくも淹れてもらったことはないから、わからないけど…。ウルス不器用だしね。まあ、味はまずいかも?」
「なら、普通に他のメイドでいいだろ」
「いいわけないよね。だって、ルイスの身の安全が第一だもん」
「身の安全? 俺のお茶にどう関係してるんだ?」
「だって、ルイスの部屋に入るでしょ? それに、お茶に何か入れたりされるかもしれないし。絶対に安心できる相手でないと、兄様は認められない! だから、モーラ以外なら、マリアとテオとローガンとウルスだね。彼らなら、ルイスを子どもの頃から面倒をみていて、魔が差すこともない。絶対的に信用できるから」
そう言って、兄上は真面目な顔で俺を見た。
兄上…。そうか、まだ、心配をかけていたんだな。
幼いころ、俺は、何度かさらわれそうになった。男女問わず、俺の顔に魅了された者たちにだ。
その中には、メイドもいた。他の犯人も、王宮で働く者たちばかり。
つまり、通りすがりとかではなく、俺に会う機会があり、顔を見知っていて、俺が若干でも油断した者たちが犯人だった。働きぶりは真面目で評判も良く、魔が差したとしか思えない者もいた。
「…兄上、もう大丈夫だ。俺はそんじょそこらの暗殺者がきても、簡単には負けない程度に鍛えてきた」
「すごいな、ルイスは! どんどんたくましくなっていくんだから…」
兄上の目がうるっとしている。
猛禽類みたいな目をしている時とは別人のようだ。
俺は、モーラのほうを向いて言った。
「…でも、そうだな。お茶は、引き続き、モーラに淹れてもらいたい。モーラのお茶は美味しいから」
「そう言っていただけて、嬉しいです。ルイス様」
モーラが嬉しそうに微笑んだ。
本当はモーラにお茶の淹れ方を習って、お茶会には俺が自らアリスにお茶を淹れたい。
だが、前もって作っておける菓子と違って、お茶は目の前で淹れるからな…。
俺が、直接お茶を淹れたら、アリスが嫌がるかもしれない。今は、まだダメだ。
だが、結婚したら、俺が淹れたお茶を、アリスに飲んでもらいたい。
菓子だけでなく、食事も作って、アリスに食べてもらいたい。
庭はもちろん、屋敷中に、俺が咲かせた花を飾って、見てもらいたい。
未来のことを思うと、俺の望みはどんどんと増えていく一方だ。
兄上がモーラに明るく声をかけた。
「王太子様、ご無沙汰しております。ええ、順調にすすんでおります」
そう言って、モーラがにっこりと微笑む。
久しぶりって、どういうことだ? 俺は不思議に思って聞いた。
「俺は、ほぼ毎日、モーラにお茶を淹れてもらってるが…。二人は久しぶりなのか?」
「新人のメイドを採用したから、今、モーラはその教育で忙しいんだよね。だから、しばらく、ぼくのところへは、別のメイドがお茶を淹れにきてくれてるんだ」
「え? そうだったのか?! それなら、俺も、他のメイドに持ってきてもらうようにする」
俺がそう言ったとたん、兄上が身をのりだしてきた。
「それは、絶対ダメ! ルイスのお茶を淹れる仕事は、この王宮で最も重要な仕事のひとつだから。モーラ以外のメイドには任せられないよっ!」
…はあ?! 最も重要な仕事のひとつって…。兄上は、何を言ってるんだ?!
「俺のお茶は別にいいだろ。忙しいモーラに、時間を割いてもらうのは悪い」
俺が言い返す。
すると、兄上は首をかしげて、ちょっと考えてから言った。
「モーラじゃなければ、副メイド長のマリアだね。でも、マリアは今、娘のお産でしばらく休暇をとってるから…。そうなると、テオか、ローガンになるけど、それでもいい?」
「え? …いや、いいわけないだろ? テオとローガンって、どっちもメイドじゃないし、定年間近の執事だ。管轄外の俺のお茶を頼むのは悪いだろ」
「じゃあ、残るは、ウルスか…。どう?」
俺はため息をついた。
「ウルスは、兄上の側近じゃないか。そもそも、お茶を淹れられるのか?」
「うーん、ぼくも淹れてもらったことはないから、わからないけど…。ウルス不器用だしね。まあ、味はまずいかも?」
「なら、普通に他のメイドでいいだろ」
「いいわけないよね。だって、ルイスの身の安全が第一だもん」
「身の安全? 俺のお茶にどう関係してるんだ?」
「だって、ルイスの部屋に入るでしょ? それに、お茶に何か入れたりされるかもしれないし。絶対に安心できる相手でないと、兄様は認められない! だから、モーラ以外なら、マリアとテオとローガンとウルスだね。彼らなら、ルイスを子どもの頃から面倒をみていて、魔が差すこともない。絶対的に信用できるから」
そう言って、兄上は真面目な顔で俺を見た。
兄上…。そうか、まだ、心配をかけていたんだな。
幼いころ、俺は、何度かさらわれそうになった。男女問わず、俺の顔に魅了された者たちにだ。
その中には、メイドもいた。他の犯人も、王宮で働く者たちばかり。
つまり、通りすがりとかではなく、俺に会う機会があり、顔を見知っていて、俺が若干でも油断した者たちが犯人だった。働きぶりは真面目で評判も良く、魔が差したとしか思えない者もいた。
「…兄上、もう大丈夫だ。俺はそんじょそこらの暗殺者がきても、簡単には負けない程度に鍛えてきた」
「すごいな、ルイスは! どんどんたくましくなっていくんだから…」
兄上の目がうるっとしている。
猛禽類みたいな目をしている時とは別人のようだ。
俺は、モーラのほうを向いて言った。
「…でも、そうだな。お茶は、引き続き、モーラに淹れてもらいたい。モーラのお茶は美味しいから」
「そう言っていただけて、嬉しいです。ルイス様」
モーラが嬉しそうに微笑んだ。
本当はモーラにお茶の淹れ方を習って、お茶会には俺が自らアリスにお茶を淹れたい。
だが、前もって作っておける菓子と違って、お茶は目の前で淹れるからな…。
俺が、直接お茶を淹れたら、アリスが嫌がるかもしれない。今は、まだダメだ。
だが、結婚したら、俺が淹れたお茶を、アリスに飲んでもらいたい。
菓子だけでなく、食事も作って、アリスに食べてもらいたい。
庭はもちろん、屋敷中に、俺が咲かせた花を飾って、見てもらいたい。
未来のことを思うと、俺の望みはどんどんと増えていく一方だ。
72
あなたにおすすめの小説
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!
水鈴みき(みすずみき)
恋愛
結婚に恋焦がれる凡庸な伯爵令嬢のメアリーは、古来より伝わる『運命の番』に出会ってしまった!けれど彼にはすでに婚約者がいて、メアリーとは到底釣り合わない高貴な身の上の人だった。『運命の番』なんてすでに御伽噺にしか存在しない世界線。抗えない魅力を感じつつも、すっぱりきっぱり諦めた方が良いですよね!?
※他サイトにも投稿しています※タグ追加あり
大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。
airria
恋愛
「私、アマンド様と愛し合っているの。レイリア、本当にごめんなさい。罪深いことだとわかってる。でも、レイリアは彼を愛していないでしょう?どうかお願い。婚約者の座を私に譲ってほしいの」
親友のメイベルから涙ながらにそう告げられて、私が一番最初に思ったのは、「ああ、やっぱり」。
婚約者のアマンド様とは、ここ1年ほど余所余所しい関係が続いていたから。
2人が想い合っているのなら、お邪魔虫になんてなりたくない。
心が別の人にあるのなら、結婚なんてしたくない。
そんなわけで、穏便に婚約解消してもらうために、我儘になってナチュラルに嫌われようと思います!
でも本当は…
これは、彼の仕事の邪魔にならないように、自分を抑えてきたヒロインが、我儘に振る舞ううちに溺愛されてしまう物語。
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。
星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」
涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。
だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。
それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。
「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。
必死に耐え続けて、2年。
魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。
「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」
涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる