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番外編
私の悩み 13
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ウルスが行ってくれたから、もう大丈夫だ。
ほっとした私は、一息入れるため、すでに冷たくなったお茶を飲む。
と、その時、ダンが焦った声をだした。
「大変です!」
「どうした、ダン?!」
「ルイス殿下が、近づいてきておられます!」
「…ルイスが?!」
あわてて、視線を窓の外に戻すが、ルイスは見えない。
「ルイスは、見えないが…?」
「まだ、少し遠いですが、王太子様の後方におられます」
ダンの言葉に、フィリップの後ろを、ずっと、視線でたどっていく。
…いた!
片手に練習用の剣を持ち、タオルを首にかけているところを見ると、剣の稽古だったんだろう。
後ろには、眼光鋭い護衛騎士ダレンが付き従っている。
幼い頃、人並外れた美貌のため、王宮内で、血迷った者たちにさらわれそうになったことのあるルイス。
自分の身を守るため、剣の稽古は欠かさない。
上達は早く、同年代の少年たちには負けないほどに強くなったそうだが、まだ10歳。大人の男には力で負ける。
そのため、腕もたち、私が人柄的にも絶対の信用をおく護衛騎士のダレンを護衛につけてある。
「ルイスは、フィリップの方に近づいてきているのか?!」
「剣の稽古を終え、中庭を通り、ルイス殿下の部屋へ戻っている途中かと思われます。近道ですから…」
「それは、まずいな…。ちょうど、ルイスは、フィリップの真後ろの方向から近づいてきている。フィリップにとったら死角で、令嬢たちの視線の先だ。このままいけば、令嬢たちのほうが、先にルイスに気づくだろう。あ、でも、ウルスが行っているから、なんとかしてくれるか…」
私の言葉に、ダンが首を横にふった。
「いえ、この部屋から、あの場所まで、直線距離だと近いですが、遠回りをしないと行けません。ルイス殿下が近づいてきた場合、間に合わないかと…」
「だが、さっき、ウルスは急いで行っただろう? あの調子で、走って行けば、間に合うんじゃないか?」
「残念ながら、ウルスの足は壊滅的に遅いんです」
「壊滅的…? いや…だが、いつも、せわしなく早足で動いていて、特に遅いようには見えないが…」
ダンは、何とも言えない顔で言った。
「ええ、確かに。ウルスは、歩く分にはスピードは普通です。というより、いつも早足で急いでいるので、素早く見えるかもしれません。ですが、走った場合も、早足の時と変わらないんです」
早足と変わらない…?
更にダンは詳しく説明をしはじめた。
「以前、ロンダール国の王弟殿下が来られていた時がありましたよね?」
「ああ、あった」
「あの時、ご子息を連れてこられていたんですが、これが、悪ガ…いえ、やんちゃなお子様で…。会談中、お預かりしていたのですが、メイドたちを散々ふりまわしたあげく、逃げ出したんです。メイドたちから報告されて、追いかけると、ちょうど、ご子息が走っていく廊下の先に、ウルスと王太子様が歩いてこられていたので、『ウルス、そのご子息を、保護してくれ!』と、私は叫びました。が、ウルスは早足のまま追いかけるので、小さな子どもとはいえ、追いつかず、逆に遊ばれている感じになりました。だから、私はさらに叫んだのです。『ウルス、走れ!』と。すると、ウルスが、『俺は全力疾走しています!』」と、叫び返してきました」
「なるほど…」
「私は、ウルスに頼むのをあきらめました。が、このまま、ご子息が走っていけば、ルイス殿下の勉強している部屋の前を通ります。邪魔をしてはいけないので、そこへたどり着くまでには、ひき戻したい。ちょうど、ウルスよりも遠いところを歩いている騎士のメイソンが見えたので、私は叫びました。『メイソン! ルイス殿下が勉強されているから、邪魔にならないよう、そのご子息を、速やかにつかまえてくれ!』と」
この展開、嫌な予感がする…。
が、一応、聞いてみた。
「それで? その子どもをメイソンが捕まえたのか?」
「いえ、違います…。猛スピードで走り始めたのは王太子様でした。息も乱さず、あっという間に、ご子息をとらえたかと思うと、ものすごい笑顔で、ご子息の頭を片手で掴みました。そして、言ったんです」
「…何をだ」
「ルイスの邪魔をしたら、つぶすよ?」
「うっ…言いそうだな…」
「やんちゃだったご子息が、一瞬にして震えあがっていました。更に、王太子様は、追い打ちをかけるように言いました。『ルイスの邪魔をするなら、徹底的につぶすから。他国であろうが、王族であろうが関係ないからね。覚えておいて? わかった?』と。ご子息は、震えながら、コクコクとうなずいていました。ちょうど、その時、ご子息の父である王弟殿下が会談を終えて、ご子息を迎えにきたんです。「手のかかる子で、迷惑をかけなかっただろうか?」と。王太子様は、それはそれは、きらきらした笑顔で答えました。『とても話のわかるご子息ですね。私の弟が、この先の部屋で勉強をしているのですが、気遣ってくれて、ほら、こんなにおとなしくされていますよ』と、おっしゃったのです。ご子息の頭を掴んでいた手で、ご子息の頭をなでながら…」
「かわいそうに。怖かっただろうな、その子どもは…」
「ええ。別人のように大人しくなって、あげくに王太子様に深々と頭を下げて帰っていかれました。この一部始終を見ていた者たちは、皆、ルイス殿下の邪魔になるようなことは絶対にしないと心に誓ったと思われます」
「そうか…。つまり、今の状況は、まさに令嬢たちにとって最大の危機が近づいているわけだな」
「ええ、そうなりますね」
ウルスが間に合わないのなら、こっちでどうにかするしかないということか…。
※ 不定期な更新のなか、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、ご感想、エールもありがとうございます! 大変、励まされております!
ほっとした私は、一息入れるため、すでに冷たくなったお茶を飲む。
と、その時、ダンが焦った声をだした。
「大変です!」
「どうした、ダン?!」
「ルイス殿下が、近づいてきておられます!」
「…ルイスが?!」
あわてて、視線を窓の外に戻すが、ルイスは見えない。
「ルイスは、見えないが…?」
「まだ、少し遠いですが、王太子様の後方におられます」
ダンの言葉に、フィリップの後ろを、ずっと、視線でたどっていく。
…いた!
片手に練習用の剣を持ち、タオルを首にかけているところを見ると、剣の稽古だったんだろう。
後ろには、眼光鋭い護衛騎士ダレンが付き従っている。
幼い頃、人並外れた美貌のため、王宮内で、血迷った者たちにさらわれそうになったことのあるルイス。
自分の身を守るため、剣の稽古は欠かさない。
上達は早く、同年代の少年たちには負けないほどに強くなったそうだが、まだ10歳。大人の男には力で負ける。
そのため、腕もたち、私が人柄的にも絶対の信用をおく護衛騎士のダレンを護衛につけてある。
「ルイスは、フィリップの方に近づいてきているのか?!」
「剣の稽古を終え、中庭を通り、ルイス殿下の部屋へ戻っている途中かと思われます。近道ですから…」
「それは、まずいな…。ちょうど、ルイスは、フィリップの真後ろの方向から近づいてきている。フィリップにとったら死角で、令嬢たちの視線の先だ。このままいけば、令嬢たちのほうが、先にルイスに気づくだろう。あ、でも、ウルスが行っているから、なんとかしてくれるか…」
私の言葉に、ダンが首を横にふった。
「いえ、この部屋から、あの場所まで、直線距離だと近いですが、遠回りをしないと行けません。ルイス殿下が近づいてきた場合、間に合わないかと…」
「だが、さっき、ウルスは急いで行っただろう? あの調子で、走って行けば、間に合うんじゃないか?」
「残念ながら、ウルスの足は壊滅的に遅いんです」
「壊滅的…? いや…だが、いつも、せわしなく早足で動いていて、特に遅いようには見えないが…」
ダンは、何とも言えない顔で言った。
「ええ、確かに。ウルスは、歩く分にはスピードは普通です。というより、いつも早足で急いでいるので、素早く見えるかもしれません。ですが、走った場合も、早足の時と変わらないんです」
早足と変わらない…?
更にダンは詳しく説明をしはじめた。
「以前、ロンダール国の王弟殿下が来られていた時がありましたよね?」
「ああ、あった」
「あの時、ご子息を連れてこられていたんですが、これが、悪ガ…いえ、やんちゃなお子様で…。会談中、お預かりしていたのですが、メイドたちを散々ふりまわしたあげく、逃げ出したんです。メイドたちから報告されて、追いかけると、ちょうど、ご子息が走っていく廊下の先に、ウルスと王太子様が歩いてこられていたので、『ウルス、そのご子息を、保護してくれ!』と、私は叫びました。が、ウルスは早足のまま追いかけるので、小さな子どもとはいえ、追いつかず、逆に遊ばれている感じになりました。だから、私はさらに叫んだのです。『ウルス、走れ!』と。すると、ウルスが、『俺は全力疾走しています!』」と、叫び返してきました」
「なるほど…」
「私は、ウルスに頼むのをあきらめました。が、このまま、ご子息が走っていけば、ルイス殿下の勉強している部屋の前を通ります。邪魔をしてはいけないので、そこへたどり着くまでには、ひき戻したい。ちょうど、ウルスよりも遠いところを歩いている騎士のメイソンが見えたので、私は叫びました。『メイソン! ルイス殿下が勉強されているから、邪魔にならないよう、そのご子息を、速やかにつかまえてくれ!』と」
この展開、嫌な予感がする…。
が、一応、聞いてみた。
「それで? その子どもをメイソンが捕まえたのか?」
「いえ、違います…。猛スピードで走り始めたのは王太子様でした。息も乱さず、あっという間に、ご子息をとらえたかと思うと、ものすごい笑顔で、ご子息の頭を片手で掴みました。そして、言ったんです」
「…何をだ」
「ルイスの邪魔をしたら、つぶすよ?」
「うっ…言いそうだな…」
「やんちゃだったご子息が、一瞬にして震えあがっていました。更に、王太子様は、追い打ちをかけるように言いました。『ルイスの邪魔をするなら、徹底的につぶすから。他国であろうが、王族であろうが関係ないからね。覚えておいて? わかった?』と。ご子息は、震えながら、コクコクとうなずいていました。ちょうど、その時、ご子息の父である王弟殿下が会談を終えて、ご子息を迎えにきたんです。「手のかかる子で、迷惑をかけなかっただろうか?」と。王太子様は、それはそれは、きらきらした笑顔で答えました。『とても話のわかるご子息ですね。私の弟が、この先の部屋で勉強をしているのですが、気遣ってくれて、ほら、こんなにおとなしくされていますよ』と、おっしゃったのです。ご子息の頭を掴んでいた手で、ご子息の頭をなでながら…」
「かわいそうに。怖かっただろうな、その子どもは…」
「ええ。別人のように大人しくなって、あげくに王太子様に深々と頭を下げて帰っていかれました。この一部始終を見ていた者たちは、皆、ルイス殿下の邪魔になるようなことは絶対にしないと心に誓ったと思われます」
「そうか…。つまり、今の状況は、まさに令嬢たちにとって最大の危機が近づいているわけだな」
「ええ、そうなりますね」
ウルスが間に合わないのなら、こっちでどうにかするしかないということか…。
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