(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん

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番外編

閑話 フィリップのクリスマス 後編

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「どうぞ~」

フィリップの返事に、ワゴンを押して入ってきたのは、モーラさんだ。
いつも、朝いちでお茶を淹れにきてくれる。

「メリークリスマス、モーラ!」

「メリークリマスマスです、王太子様」

は? モーラさんまで、どうした……? 

「ちょっと、モーラ! クリじゃなくて、クリだよ!」

「あ、失礼しました。せっかく王太子様に教えていただいていたのに、間違えてしまって……。では、あらためて、メリークリスマス、王太子様」

「うん、さすが、モーラ。喜びがあふれるような、いい発音だね!」

「ありがとうございます。嬉しいです」

はずかしそうに微笑むモーラさん。

どうでもいいが、ふたりの意味不明な会話は一体なんなんだ……?
俺の疑問をよそにふたりの会話は続いていく。

「今日はいいお天気でようございました。さすが、異世界でのルイス様のお誕生日ですね」
と、モーラさん。

「でしょ? やっぱり、ルイスは天使だから、ルイスの誕生日は天界も喜んでるってことだよねー。あ、そうだ。ここは異世界じゃないから、メリークリスマスじゃなくて、メリールイスのほうがいいかもね。メリールイス! ほら、モーラも一緒に」

「メリールイス!」
「メリールイス、さま!」

ふたりの声が重なった。
いくらなんでもそれは変だ……。

ともかく、とりあえず、基本的なことだけつっこんでみる。

「ルイスの誕生日は今日じゃないんだが」

「そんなことわかってるよー。だから、さっきから言ってるよね。今日は異世界の神の子の誕生日。神の子といえば、天使。天使といえば、ルイス。つまり、異世界のルイスの誕生日ってこと。モーラはすぐに理解したのに、ウルスは理解できないの?」

いや、できないんじゃなくて、そんな変な連想ゲームみたいな話をわかろうとしたくないだけだ……。
が、ここで反論したら余計に変な方向にいってしまう。

俺は黙って、ふたりのおかしな会話が終わるのを待つことにした。

「そうだ。モーラにもプレゼントがあるんだ」

「まあ、私に!?」

喜ぶモーラさん。

フィリップは引き出しの中から、青い包装紙のつつみをモーラさんに手渡した。

「まあ、ルイス様の瞳の色にあわせた包装紙なんですね! 美しいわ!」

感嘆したような声をあげるモーラさん。

包装紙が瞳の色? 
いや、まさか、そこまではしないだろ……と思ったら、フィリップが破顔した。

「そうなんだよね! ルイスの瞳みたいな美しい色の包装紙なんてないんだけど、少しでも似せたくてね。すぐに気づくなんて、さすが、モーラだ!」

「王太子様とルイス様のおそばにいて、気づかない人なんていません!」

いや、ここにいる……。

モーラさん。本当にいい人なんだけど、最近、ますます、フィリップに傾倒しすぎてないか?
発想が似てきて、怖いんだが……。

モーラさんは宝物でも扱うような手つきで、丁寧に包みをあけた。
中からは、青い手袋がでてきた。

「まあ、素敵……!」

感極まって、涙ぐむモーラさん。

「異世界のルイスの誕生日だから、プレゼントはルイスを思いおこすような色の物にしたんだ。そこにモーラの名前も入れといたから」

金色の糸で刺繍がしてあるのが見えた。

「まあ、こちらはルイス様の髪の毛の色ですね……!」

いや、髪の毛の色って、さすがのフィリップもそこまでしないだろ……と思ったら、

「さっすが、モーラ! そこも気づいちゃった!? 嬉しいな」
と、喜ぶフィリップ。

なにが気づいちゃった、だ。やっぱり怖いな、このふたり……。

「こんな美しい手袋はじめてです! 家宝にします!」

「家宝じゃなくて、使ってよ、モーラ」

なんてふたりのやりとりを聞きながら、俺は考えた。
さっき、フィリップは言ってたよな? 
プレゼントはルイスを思いおこすような色の物にしたって。

つまり、モーラさんの手袋と同じように青い色の物だということだろう。

俺は普段、濃紺の服はよく着ている。青は同じ系統だ。
それならば、たとえ、身に着けるようなものだとしても、あのグリーンの服ほどの痛手はないだろう。
今度は服ではないらしいしな。

ほっとした俺の前にフィリップがふたつの包みを置いた。
青い包装紙の大きいつつみと、小さなつつみだ。

「ほら、ウルスもあけてみて」
と、目を輝かすフィリップ。

その隣で、モーラさんも期待に満ちた目で俺を見ている。

まずは、小さなつつみから。
包装紙をあけると、ほそながい箱がでてきた。その箱もこれまた青。

箱をあけると、青い色のペンがでてきた。

「おおー、普通のペンだ……! これなら使える!」

思わず、本音がもれた。

「はあ、普通って……。ほんと美的感覚がないね、ウルスは」 

「本当です! ウルスさん、失礼ですよ。こんな美しいルイス様色の素晴らしいペンをいただいたのに、普通だなんて……!」

ふたりの非難する声が聞こえたが、俺にとったら普通が一番だ。
使えない物じゃなくて本当に良かった……。

「ウルス、そのペン、なんとルイスへのプレゼントと色違いなんだから大事にしてよね」

「ああ、ありがとう。使わせてもらう。だが、色違いって、今回のプレゼントは全部、ルイスの目の色なんじゃないのか?」

「んー、それも考えたんだけどね。ほら、ルイスって、謙虚で奥ゆかしいから。ルイスの瞳みたいな美しい青だよ。なんていったら、いつも怒られるんだよね。ほんと恥ずかしがっちゃって、かわいいよね」

いや、恥ずかしいのではなく、本気で嫌がってるだけだろ。
が、それを言うと、また、フィリップがうるさいので、気になったことを聞いてみた。

「じゃあ、ルイスへのプレゼントは何色のペンにしたんだ?」

「ルイスが一番、喜ぶ色だけど」

「何色だ?」

「ええ、それもわからないの、ウルスは?」

わざとらしく目を見開いた顔が小憎らしくて、いらっとする。

「ルイス様の喜ばれる色といえば、もちろん、アリス様のお色です」

「あったり! さすが、モーラ。そう、ルイスはアリス嬢の色だと喜ぶから、プレゼントしても使ってくれるんだよねー」

「へえ……」

「ということで、ルイスへのプレゼントはアリス嬢の瞳のはちみつ色でまとめました! アリス嬢の動向をメモするためのはちみつ色のペンに、アリス嬢とのお茶会用のお菓子をつくるための、はちみつ色のエプロン、アリス嬢とのお茶会で飾る花を育てるための、はちみつ色のスコップ。アリス嬢を常に身にまとっているような、はちみつ色のジャケット……」

「フィリップ、もういい……。アリス嬢からの説明が長すぎる……」

「でも、そう言わないと、遠慮深いルイスは何も欲しがらないんだ」

なるほど……。
普段は冷静なルイスもアリス嬢が関わったとたん、一気に、フィリップっぽくなるから納得だ……。

「じゃあ、俺はそろそろ仕事に……」

「ちょっと、ウルス! 大きいプレゼントのほう、まだ見てないんだけど?」

あ、そうだった。すっかり、忘れていた……。

今度は、青色のなんだろう? と思いつつ、青い包み紙をあけた。
また、青い箱がでてきた。

さっとふたをあける。

一瞬、だまったあと、俺はさけんだ。

「……はあ!? なんで青じゃないんだ!?」

「ペンが青だったから、こっちは、ルイスの髪色によせたんだよ」

凝視したまま、動けない俺。

このやたらときんきらした物は一体なんだ……。
俺のテリトリーに縁のない物だよな……。

すると、見かねたモーラさんが、箱から、金色の物をとりだして、俺の首にまいた。

ああ……このまばゆい物は、マフラーなのか……。

「きらきら輝いて、なんてきれいな金色でしょう!」
と、手をたたくモーラさん。

「ここまでの金色のマフラーって、珍しいんだよね。ウルス、大事に使ってね」

満足そうに言ったフィリップ。

「フィリップ……。これは、俺に似合うのか……?」

こてんと首をかしげたフィリップ。

「似合う似合わないっていうより、マフラーに目がいくから、ルイスの輝く髪を思い出しちゃうよね」

「ええ、本当に。マフラー以外、目がいきませんし、ルイス様の美しい髪が目にうかびます」
と、モーラさん。

つまり、マフラーに俺の存在は完全に消されるというわけだな……。

ルイスの色にするなら、せめて、ペンのほうを金色にして、マフラーを青色にしてくれれば、俺も使いやすかったんだが……。
どっちにしても、こんなド派手な金色のマフラーは、グリーンの服以上にハードルが高そうだ。

「フィリップ。悪いが、やはり、小さい贈り物だけいただく。こっちは返すから他の人にでも……」

そう言いながら、マフラーを首からはずそうとした手を、何故か、モーラさんががしっとつかんだ。

「ウルスさん、王太子様からの贈り物を返すなんて失礼です!」

モーラさんの目が怖い……。

「そうだよ、ウルス。それに、そのマフラーはウルス専用だから他の人にあげられないんだよね」

「俺、専用……? いや、最初、俺に選ばそうとしたよな? 小さいほうか、大きいほうかって」

「ああ、あれ? だって、そんな感じで聞いてみたら楽しいかなあ、と思っただけ。ふたつとも、ウルスに用意したプレゼントなんだ。ほら、そのマフラーとペン、ちゃんと見てよ」
と、嬉しそうに微笑むフィリップ。

俺は首にかけている、まぶしすぎるマフラーを見下ろした。

すると、金色のマフラーの端に刺繍された青い文字が見えた。

「あ、俺の名前を刺繍しているのか。ウル……ル?」

あわてて、青いペンのほうも手に取る。
くるっとまわすと、金色で文字があった。

こっちも、ウル。はあああ!?

「おい、フィリップ! ウルルってどういうことだ……!?」

「子どものころ、言ったよね。ルイスとウルスって似てるから、ウルルに名前かえてよって。咄嗟にひらめいた名前だけど、結構、気に入ってるんだよね、ウル

そう言って、楽しそうに微笑んだフィリップ。

「俺はウルだ! ウルじゃない! どっちもいらん!」


 ◇ ◇ ◇


あれから2週間。
俺は、毎日、金色のマフラーをして王宮に通い、青いペンを仕事で使っている。

俺の存在が消されるほどの派手な金色のマフラーであろうと、あたたかさは格別で、一度身に着けると、手放せない。
青いペンも書き心地が最高すぎて、これまた手放せない。

悔しいことに、目利きのフィリップの選んだ物はどちらも極上だった。

ウルルと名入れされようが、いい物はいい。
俺はフィリップからのプレゼントにすっかり心をつかまれてしまった。

恐るべし、フィリップ……。





※ 素敵さゼロの変なクリスマス話となりましたが、読んでくださった方、ありがとうございました!
次回からは、また、辺境編にもどります。よろしくお願いします! 
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