婚約破棄したいのに今さら溺愛なんてしないで!

佐倉ミズキ

文字の大きさ
2 / 4

2.一緒の部屋だけは勘弁です

しおりを挟む
翌週。

私はマークスラット家で、私のために用意された部屋で肩を落とした。

結局何度も、お父様に婚約破棄をお願いしたけど叶わなかったわ……。

まぁ、当り前よね。私、ライラ・フォーデン家の爵位は子爵。
公爵家のマークスラット家に婚約破棄など申し入れることすら身分的に不可能だ。

だから直接アルノルト様に直談判しに行ったのに、結果がこうして一緒に住むことになるなんて……。

「アルノルト様にはもっとお似合いの方がいらっしゃるはずなのに……、どうして私なの……」

こんなに身分が違うのにどうして婚約なんて……。

あぁ、そうだった。親同士が大学時代の同級生という間柄で友人関係にあったんだわ。たまたま再会し、子供同士の年が近いということで話が進んだのよね。

親が決めた結婚なんて本人の意思はまるで無視だわ。

「どうだ、広い部屋だろう」

窓の外を眺めていると、アルノルト様が部屋の入口に立って声をかけてきた。

「えぇ」

部屋は申し分ない。
私の実家の部屋よりも広く、備え付けの家具も高級品。
ドレスやアクセサリーなどもいくつか用意されており、不自由はしない様子だった。

「俺と同じ部屋がよかったか?」
「いいえ」
「さすがに籍を入れるまでは部屋は分けておこうと思ってな」

勝手に残念がっているアルノルト様は、私の髪をそっと撫でた。
栗色の柔らかい髪はアルノルト様の手をスルっとすり抜ける。

「柔らかい髪だな。お前は小さくて、きっとなにもかもが柔らかいんだろうな。壊れてしまいそうだ」

そう言いながら優しく撫でてくるその大きな手に、不覚にも顔が赤くなってしまう。

柔らかいだなんて……。

そんな風に男の人に言われたことも、触れられたこともなかった。

あぁ、ライラ。何をドキドキしているの。ほだされてはだめよ。この人にとってはこんな台詞朝飯前なのだから。

「アルノルト様。婚約についてもう一度考え直していただけませんか」
「無理だ」

振り向いて伝えるが、にべもなく断られて唇をかむ。

「俺らの婚約を決めた両親が安心しきって王都へ移った。この領土は今後、俺が任されることになる。そんな時に、婚約破棄などできない」
「しかし……」
「大丈夫だ、心配ないから」

そう言って部屋を出ていくアルノルト様の背中を睨みつけた。

何が大丈夫、よ。

他に大勢、愛人がいる旦那様なんて私は嫌なの。結婚相手には、私だけを愛してほしいのよ。

これから先、前途多難だわ。

私はそのままベッドに倒れこんだ。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

最難関の婚約破棄

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
婚約破棄を言い渡した伯爵令息の詰んでる未来。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

幼なじみの王子には、既に婚約者がいまして

mkrn
恋愛
幼なじみの王子の婚約者の女性は美しく、私はーー。

晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。

四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。 どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

処理中です...