政略結婚の相手は、御曹司の元カレでした〜冷たいはずの彼が甘過ぎて困ってます〜

蓮恭

文字の大きさ
35 / 46

35. 幸せが滲む朝

しおりを挟む

 まどろみの中で、私はそっと目を開ける。外はもう、空が白み始めているようだった。

(……夢じゃない)

 隣にあるぬくもり。しっかりと抱き締められている感触。頬に触れた指先の主が、誰なのかなんて、目を開ける前から分かっていた。

「おはよう、静香」

 耳元で囁かれる低い声。眼鏡を外した礼司さんの顔が、すぐそこにあった。

「……おはようございます」

 掠れる声でそう返すと、礼司さんは目元だけでふっと笑って、もう一度私を抱き寄せる。

「昨日……ひどくし過ぎたか?」

 からかうような声色に、私は思わず顔を伏せた。

「……そんなこと、ありません」

 むしろ。と、そこまで言いかけて、声が詰まる。恥ずかしくて、でも幸福で、胸の奥がじんわりと熱くなった。

「このまま……ずっとこうしていられたらいいな」

 呟く言ったその一言は、きっと本音だったのだろう。礼司さんの腕に、ぎゅっと力がこもったのがわかった。

「……静香」

 名前を呼ばれるたびに、どうしてこんなに心が揺れるのだろう。愛しさに溺れて、何も言えなくなりそうで――私は、そっと礼司さんの胸元に顔を埋めた。

(毎日、一日中ずっとこうしていられるはずがない。でも、今は)

 ほんの少しだけ、今朝くらいは、甘えていたい。

「昨日、すごく……綺麗だった」
「……ッ」

 そんな言葉まで囁かれて、私は枕に顔を埋めてしまった。裸の背中に触れる掌が、ゆっくりと私を抱き寄せてくる。

「……もう少しだけ、こうしていてもいいか?」

 礼司さんにしては珍しく、寝起き特有の緩んだトーンが耳元をくすぐる。

 昨夜、何度も何度も名前を呼ばれた。痛みのない、ただ愛に満ちた結びつきのあと。私はまだ夢を見ているような気持ちで、彼の腕に甘える。

「礼司さん……お仕事、遅れますよ……?」

 そう言いながらも、身体は彼に抗えない。腕の中の温もりが心地よすぎて、逃れようとする気力さえ奪われていく。

「……わかってる。でも……もう少しだけ。ちゃんと静香を補給したい」

 恥ずかしくなるような言葉を、さらりと耳元で囁かれる。けれど今朝の私は、もうあの頃の私じゃない。

「……私も」

 心からそう言えて、自分の胸の奥にじんわりと満ちる幸福に気づく。

 結局、彼はいつもの出勤時間を少し過ぎて、ようやくベッドを抜け出した。身支度の最中、スーツの袖に手を通しながら、眼鏡越しに私の方をちらりと見てくる。

「今夜は早く帰る。待っててくれるか?」

 そう言われて、私は静かに頷いた。

 彼を見送ったあと、私はふとスマートフォンのカレンダーを開く。十日後に『誕生日』の文字。

(礼司さんの……お誕生日)

 そっと胸に手を当てた。昨夜、私をあんなにも優しく、でも情熱的に抱いてくれた人。

(何か……私にできることを)

 そう思って、私は静かに立ち上がる。今日は、礼司さんのプレゼントを選びに行こうと。



 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【本編完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※本編完結後、ゆるいSS投稿予定。 ※サイドストーリー(切なめ)投稿予定。

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

愛情に気づかない鈍感な私

はなおくら
恋愛
幼少の頃、まだ5歳にも満たない私たちは政略結婚という形で夫婦になった。初めて顔を合わせた時、嬉し恥ずかしながら笑い合い、私たちは友達になった。大きくなるにつれて、夫婦が友人同士というのにも違和感を覚えた私は、成人を迎えるその日離婚をするつもりでいた。だけど、彼は私の考えを聞いた瞬間豹変した。

【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ
恋愛
冒険者ギルドの受付嬢であるステレは幼い頃から妖精の姿を見ることができた。ある日、その妖精たちのイタズラにより、自分にだけ当たりの強い騎士コルネリウスと1メートル以上離れれば発情する呪いをかけられてしまう。明らかに嫌われてると分かっていても、日常生活を送るには互いの協力が必要不可欠。ステレの心労も祟る中、調べ上げた唯一の解呪方法は性的な接触で──。【ステレにだけ異様に冷たい(※事情あり)エリート騎士×社交的で夢見がちなギルドの受付嬢】 ※ムーンライトノベルスでも公開中です

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。

処理中です...