1 / 66
1. ガキ大将の姉ちゃんとの回
しおりを挟む「ない……ない……」
カシャッ、カシャッと小気味良い音をさせながら、マウンテンパーカーが掛けられた売り場のハンガーを次々と横にスライドさせていく。
同時に目線は襟元のタグに表記されたサイズをよく確認するのも忘れない。
「ええー……嘘だろ、カーキのMサイズだけがない! 姉ちゃん、どうしよう⁉︎」
今日は姉ちゃんと二人でアウトドア用のアウターを探しに、新しく出来た大型アウトドアショップにやって来ていた。しかし目当てのものが見つからず、近くで他の商品を物色する姉ちゃんへと情けない声で訴える。
探しているのは多くの人に愛用されている今一番人気のアウトドアブランド、『Ferne』のマウンテンパーカー。中でもカーキ色のMサイズは品薄の為になかなか見つけられないでいた。
「何? やっぱここにも無いの? もう別に他の色でもいいじゃない」
「いや、絶対カーキ! ちょっと店員さんに聞いてみようかなぁ」
(人気商品だとは知っていたけれど、まさかこの大型店舗でも品切れだなんて……)
昨今のアウトドアブームのせいなのだろうか、多くの客で溢れかえるこの新店舗では手の空いた店員を捕まえる事すら難しい。
しばらく店内をうろついたけれど、どの店員もアウトドア用品を買い求める客への対応や、売り場の案内で忙しそうだった。
問い合わせをしようにも、どこにも品出しや服を畳んだりしている店員は見当たらなくてついため息が零れる。
「はぁー……。それにしても、凄い客の数だな」
先日のこと、高校の入学祝いに何か欲しいものはないのかと姉ちゃんが聞いてきた。だから俺は、迷わず部活に使う物が欲しいと頼んだ。
それでわざわざ今日は二人で買い物に来ているというのに探し物は見つからず。その上アウトドアには興味の無い姉ちゃんを待たせていると思うと、ついつい気持ちばかりが焦る。
「私は全然詳しくないんだけど、アウトドアって人気なんだねぇ。アンタの入る山岳部も人数多いのかな?」
「んー。見学の時には割と部員は多かったと思うけど」
俺は山岳部に入るつもりでいた。まだ今は部活見学しか許されておらず、入部の受付すらしていない期間だ。だけどどうしても待ちきれなくて、絶対に必要であろう物だけ調べて買いに来たのだった。
正直に言えば、実家を出てバリバリ働く歳の離れた姉ちゃんの脛を弟の俺が未だにかじるなんてちょっと抵抗がある。
高校ではどうせなら中学には無かった部活に挑戦したかったのと、自然が好きだからという理由で山岳部のある高校を選んだ。決して運動は得意では無いが、楽しく活動できそうだと思ったから。
だけど登山となると専用の服とかリュックとか、思いのほか必要なものは多い。だから姉ちゃんからの申し出はとてもありがたかった。
「もー、別に何色でもいいじゃない」
そう言って次々と他の色のジャケットを売り場から手に取っては、姉ちゃんが目を凝らしながら俺の身体に当てていく。
「ほら、Mサイズならさー、黒とかネイビーもいいし。あっ! 光は女の子みたいに可愛い系の顔だから、優しげなベージュもいいかもよ!」
高価な買い物だからと、長々と時間をかけて商品を選び続ける時間に飽きてきた様子の姉ちゃんは、なんとか他の色で俺を我慢させようと、わざとらしくテンションが高めの様子で勧めてきた。
昔から比較的気が短い姉ちゃんはこういうところがある。何でもいいからさっさと決めて欲しいというのが見え見えだ。
(女みたいな可愛い系の顔なんて、高校生になった俺にとっては一番言われたくない言葉だろう。相変わらずデリカシーの無い姉ちゃんは分かってない)
昔から、姉ちゃんとそっくりなこの女っぽい顔立ちがコンプレックスだった。はっきりした二重の目もちょっと厚めの唇も、姉ちゃんは女だからいいけど俺は男なんだから。
幼い頃にはガキ大将みたいな振る舞いをする姉ちゃんに、自分のスカートだのワンピースだのを無理矢理着せられていた事もある。
その頃の姉ちゃんにとって、俺は大きな着せ替え人形だったらしい。今思えば、そんなのを着て出歩かされていたというのはとても不自然なんだろうけど。
「やだ。絶対カーキのMがいい! Mサイズ、一枚くらいないかなー……」
どうしても諦めきれずに、もう一度一枚一枚サイズを確認していく。そんな俺を見て姉ちゃんは肩をすくめ、ため息を吐いた。後ろで待つ姉ちゃんの気配を感じながらも、懸命に目を走らせる。
(姉ちゃんには悪いけど、やっぱりどうしてもあれが欲しい)
「それのカーキ、欲しいの?」
突然後ろから聞こえてきた低めで安定感のある声に、やっと手の空いた店員が気付いてくれたのだと思った俺は、思わず愛想のいい笑顔でクルリと体を反転させた。やっと気付いてくれたんだと。
1
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
坂木兄弟が家にやってきました。
風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。
ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる