2 / 66
2. シュッとした切長の目の男の回
しおりを挟む「そうなんですよー、Mサイズが欲しくてー……」
頬を綻ばせて振り返れば、どうしてか少し驚いたような顔で声の主を見る姉ちゃんの横に、見た感じは俺と同い年くらいに見える無愛想な短髪の男が立っている。
黒のテーラードジャケットにTシャツ、チノパンというアウトドアとは一見不似合いな格好は、それでもその男の静かな雰囲気には似合っていた。
真っ直ぐ俺の方へと視線を向けているその目は、ぱっちりとした二重の俺とは正反対のシュッとした切長の形だ。
俺を鋭く射抜く切長の瞳から、何故かいつまで経っても目が離せない。
(あれ……? どこかで会ったことがあったっけ?)
――「嘘つき! 約束したのに!」
「……ごめん」
その時、ツキンッと胸が痛んだ。
(この記憶の中の会話は、誰と誰の声だった?)
「はい」
知らぬ間にボーッとしていたんだろう。促すように男がたった一言の声を発したことで、ハッとしていつの間にか伏せていた目を上げる。
自分から話し掛けてきたくせにニコリともしていない男のその手には、ハンガーに掛かったカーキ色のマウンテンパーカーが握られていた。
そして俺の方へとスッと腕を伸ばして真っ直ぐに差し出す。
(しかしこの男、店員……では無さそうだけどな)
この店の店員は私服に揃いの名札を首からぶら下げているのに、目の前の男はそれを吊るしていない。だからきっと客の一人だろうとは思うけど。
「良かったら、これ。俺、別に黒でもいいかなって思ってたから」
「え……」
「はい、探してたんだろ?」
そう言って手渡されたマウンテンパーカーの襟元を確認すると、まさに探し求めていたフェルネのカーキ色、サイズもMサイズで。
「本当に⁉︎ え、でも……いいの⁉︎ いや、いいんですか⁉︎」
「ああ。俺、黒にするから」
俺にとっては求め続けた最高のプレゼントを躊躇なく譲ると、売り場から色違いの黒をさっさと探し出し、それを手に取った男は颯爽と去って行く。
「ラッキー……」
思わぬ幸運に小さくそう呟いて、黒のジャケットを着た長身の背中が去って行くのを、知らず知らずのうちに長い時間見つめ続けていた。
(こんな幸運、ある?)
男の着ているジャケットも黒だし、「黒でもいい」と言うのは本心だったのかも知れない。
男が俺の探している物に気付いたのは、はじめての店にはしゃいだ心と求める物が無かったショックのせいで、いつもより声が大きかったせいだろうか。
そう考えると、今更だが自分の言動が少し恥ずかしくなった。
それにしても見ず知らずの相手にあんな気遣いが出来るなんて、この歳になっても落ち着きが無いと言われる俺は是非見習いたい。
「なかなか出来ないよなぁ」
「何が?」
「だってさっきの人、知らない人間に対してイケメン行動過ぎない? 絶対俺には出来ないよ」
こちらを訝しげに見る姉ちゃんは、明らかに早く帰りたそうにしている。
それもそうだ、このマウンテンパーカーを探して既に三店舗もアウトドアショップを回ってきたんだから。
アウトドアに興味の無い姉ちゃんが、ここまで付き合ってくれただけでも感謝しなきゃならない。
「……そうだろうね、アンタは鈍いから他人が探してても気付きもしないだろうから」
「やっぱりそうかな。まあいいや、遅くなってごめんな。とりあえず会計に行こう」
幼い頃に両親が離婚してからというもの、母子家庭という決して贅沢の出来ない家庭環境だった。
予想外に金のかかる部活だ。母さんから猛反対され、一度は諦めようとした俺の背中を「やりたいならやればいい」と後押ししてくれた姉ちゃん。
「姉ちゃん、思ったより高くてごめん。本当ありがとな!」
「うん、これから頑張ってね。高校入学おめでとう」
よく似た顔で笑う八歳離れた姉ちゃんは、子どもの頃はガキ大将でいくら好き勝手な事をされたとはいえ、俺にとってはかけがえのない大切な家族だ。
1
あなたにおすすめの小説
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。
雪 いつき
BL
凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。
二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。
それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。
「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」
人前でそんな発言をして爽やかに笑う。
発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる