6 / 66
6. 失神から目覚めたらの回
しおりを挟む頭に響く耳障りな声につられて目を開けると、俺を覗き込むのは顧問の筋肉ゴリラと中年のおばちゃん教師だった。
「ああ! 目が覚めたか! 頭は打ってないか⁉︎」
心配そうに見つめる筋肉ゴリラの顔はランニングの時には鬼気迫る表情で皆に声を掛け、唾飛ばしていた人物と同じとは思えない。
指導は厳しいけど根はいい教師なのだろう。
「大丈夫……です」
掠れ声しか出なかったから、目の前の教師たちに聞こえたかどうか心配になる。だけど、二人ともが目に見えてホッとした表情を見せたから、聞こえたのだと分かった。
(こんな風に目覚めるのを心配されたのは、いつぶりだっけ?)
「良かったわぁ! 突然道端で倒れたって他の部員から聞いて、驚いたわよ」
「体調が悪かったのか?」
矢継ぎ早に質問してくる二人の様子に、まだクラクラする頭を押さえながらゆっくり起き上がる。
そこは未だ入ったことが無かったが、どうやら保健室のベッドのようだった。
クリーム色のフレームのベッドは、病院の入院患者が使っているものと同じだ。飾り気がなくて、色だけは温かみのある冷たい鉄のベッド。
そんな事を考えながらいつの間にかまたぼーっとしていた俺を、気づけば二人は怪訝そうな顔をして見ていた。
「すみません、ちょっと……」
何と説明したら良いのか、運動が苦手なのに無理して走ったら意識を無くしましたって言えるはずもない。必然的にどこか歯切れの悪い答えになる。
「宗岡くらいの年頃の男子は、すぐに失神するからな、おかしいなと思ったらしゃがむなりして、頭を打ったりしないように気をつけろよ!」
「はい……、すみません」
(あれが失神というのか……。あんな気持ち悪いのはもう二度とごめんだ)
「保健の先生は会議で今不在なのよ。今日はここで少し休んでから、落ち着いたら帰りなさい。先生たちは部活に戻るからね」
「はい、ありがとうございます」
二人の教師たちはガラガラと引き戸を閉めて保健室を出て行く。後ろから見たジャージ姿はホッとした雰囲気が伝わってきた。
まだ少し気分が悪いので休んでから帰ろうと、再び糊が効いて硬めのシーツが張られたベッドに潜り込む。
その時、忘れかけていた大切な事を唐突に思い出した。
「カイル!」
思わず叫ぶようにその名を呼んだ。目が覚めたその時から曖昧になっていく夢のように、危うくまたあの出来事を忘れるところだった。
そうだ、あの時俺はシャルロッテという名の令嬢だった。そしてシャルロッテが愛した男は狩人のカイル。
この前アウトドアショップで出会った切長の目を持つ男は、この世に転生する前シャルロッテと夫婦だった、カイルそのものの外見だったじゃないか。
あの異世界の美しい湖のほとりにある丸太小屋で、狩人のカイルと元伯爵令嬢のシャルロッテは大恋愛の末に夫婦として仲睦まじく暮らしていた。
あんなに幸せな日々を過ごしたのに何故忘れていたんだろう、こんな大切な事を。
俺はこの異世界に転生し、カイルもあのアウトドアショップでまた俺と出会ったんだ。
(だけど、あの態度からしてカイルの方は記憶が無いのかも知れない)
急にあの男への愛情が、俺の内側からブワリと溢れてきた。胸が痛い、苦しい。思わず胸の真ん中を押さえる。そこにある古い傷痕がジクジクと痛んだ。
その時、ガラガラと遠慮がちに保健室の引き戸が開けられる音がした。別に隠れなくても良かったのに、何故か俺は急いで布団に頭を突っ込んで寝たふりをしてしまう。
室内を歩く足音が少しずつ近づいて、シャッとカーテンが引かれる音が聞こえた。一体誰なのか、すぐ近くに誰かが立っている気配がする。
「ヒカル……」
確かにその低い声は俺の名を呼んだ。気のせいか、どこか切なげな声音に聞こえた。
そうすると、誰がそこにいるのかどうしても知りたくなる。今覗かないと、ずっと答えは分からないままで悶々とするかも知れない。
俺はそおっと布団を下げて目を外に出してみた。
「え……」
思わず声が漏れたのは俺か、それとも相手だったのか。まさか俺が起きているとは思わなかったんだろう。
そこには思いもよらない人物が面食らった表情をして立っていた。
1
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
坂木兄弟が家にやってきました。
風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。
ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる