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5. 異世界の記憶の回
しおりを挟む鬱蒼とした木々に囲まれた少し薄暗い場所。
森の中なのか山の中なのか、ザワザワと風に木の葉が擦れて騒がしい。その上どこか見えない場所で鳥が鳴いていて、ただ自然の音だけが聞こえる静かなところだ。
そこかしこにある木漏れ日の柱が、落ち葉と下草の生えた地面に様々な形の光の模様を作っていてとても美しい。
(俺はこの場所をよく知ってる)
かさついた茶色い落ち葉と青々とした草の、ふんわりとした柔らかな地面を踏み締めると懐かしい感覚がした。
(この先に小屋があるはずだ)
迷う事なく同じような景色の道を進むと、木々が途切れて急に開けた場所に出た。
そこにあるのは、緩やかな曲線を描いたそれほど広くはない湖。
静かに揺れる水面は、周囲の緑や空の景色を反転して映し出している。
(やっぱり、あった……)
湖のほとりにある少しくたびれた丸太小屋は、やはり記憶と変わりなくそこに存在した。木枠の窓が遠慮なく開け放たれているのもいつもと同じ。
瑞々しい下草をサクサクと踏みしめながら、ゆっくりと丸太小屋に近付いた。
しかし、すぐにトントン……と乾いた木の床を歩く足音が聞こえて、俺が入るより先に入り口から背の高い男が出てくる。
「シャルロッテ、おかえり」
こちらを向いてフワリと笑うその男の顔からは、明らかにこちらへの好意が見てとれる。優しさが滲み出た声色には、愛情が溢れていた。
そしてその男に対して、俺も自然と頬を緩めて穏やかに微笑んだのが感覚で分かった。
(この男は……)
「ただいま、カイル」
鈴を転がすような声というのはきっとこういう声の事だろう。
俺の口から紡ぎ出された美しい声音は女のもので、明らかに俺自身のものでは無い。
目の前の男と同じで、その声色も愛情に満ちたものだった。カイル、と親しげに呼んだ男には確かに見覚えがある。
黒い短髪で少し大人びた顔、切長の目はこちらを向いて優しく細められているが、あの時俺にマウンテンジャケットを譲ってきた時はもっと無愛想だった。
おとぎ話に出てくる狩人のようなモスグリーンのチュニックに黒いパンツ、折り返した革のブーツという出立ちのカイルに走り寄る自分の体は、いやに軽い。
「見て! こんなに沢山のキノコと薬草を取ってきたのよ」
気づけば手に持っていた籐でできた籠、そこには色々な形のキノコやら葉っぱやらが山盛りになっていた。
籠を引っ掛けた腕は、真っ白で手触りの良いブラウスの上からでも細くて華奢なのが分かる。
「シャルロッテも随分ここでの生活に馴染んだな」
「当然よ、ここで貴方の妻になってもう半年よ?」
「そうか、早いものだな」
俺の手と言っていいものか分からないが、今この身体の主のシャルロッテという女の手からスッとさりげなく籠を抜き取ったカイルは、細身の身体をグイッと自分の方へと抱き寄せる。
長身でスラリとした体型だと思ったが、頬を寄せた胸板は思ったよりもしっかりと男らしかった。ドクンドクンと跳ねる心臓の鼓動が、耳にうるさいほどに響く。同時に、男に対する恋慕の情が胸をキュウっと締め付けた。
「シャルロッテ……、おかえり」
改めて「おかえり」と優しい声音で言ったカイルは、シャルロッテの頭のてっぺんにキスをしたみたいだ。その優しい感触に、どこかむず痒くなりながらも全身が幸福に満ちる。同時に再び胸がキュウっと苦しくなる。いや、苦しいどころかそのうち、胸の真ん中がジクジクと痛んできた。
「ただいま、カイル。どうしたの?」
シャルロッテの口から、ふふふと女らしい笑い声が漏れる。
「シャルロッテがちゃんと帰って来るのか、毎回心配で堪らないんだ」
「帰るわよ。ここが私の居場所なんだから」
「そうだよな」
二人とも相手を愛しいという気持ちを隠しきれないような、とても温かな声だった。
そのままカイルはシャルロッテの顎を掬い上げ、じっと見つめてくる。カイルの潤んだ瞳に映っているのは、長い髪をゆるやかに一つに編んで、その髪を左胸の方へと垂らした俺の顔で。
(ああ、この目は知ってる。俺の事を心配する目、俺への優しさが溢れる目)
やがてすうっと二人の距離は縮んでいった……。
(あ……、もう目が覚める)
現実の世界からグイグイと何かに引っ張られているような感覚がした。無理矢理起こされて、一気に現実に引き戻されたのが分かる。目眩のような不快感が残った。
「宗岡! 宗岡 光!」
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