竜皇女と呼ばれた娘

Aoi

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魔法学校編

特訓開始

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翌日、イグニス達は早速ヴァイオレットが自分の力に潰されないようにする為の特訓を始めた


『いいかヴァイオレット、これからお前には魔物と戦ってもらう』
『まもの?昨日のウサギさんじゃなくて?』
『あれでもいいが魔法の上達を早めるには実戦が一番いい。お前も魔法を使うのは好きだろ?』
『好きだけど……ウサギさんみたいに襲ってこない?』
『魔物は人に害を為す存在、見つかったら問答無用で襲ってくるぞ』
『えっやだそんなの怖いよ。お父さんが戦って』
『それじゃあお前の為にならないんだヴァイオレット、お前は普通の者より優れた力を持っている。だがこのままだと将来必ず辛い目に遭う。そうならない為にこれは必要なことなんだ』


イグニスが懸命に説明するが、まだ幼いヴァイオレットにはいまひとつ理解ができないようで戦うことを躊躇していた
そんな話をしていると茂みの奥の方からガサガサと茂みを掻き分ける音が聞こえてきた
現れたのは二足歩行で局部を隠す程度の布切れ一枚だけを身に着けた人の姿に似た魔物、ゴブリンだ


『はぐれゴブリンか、群れから追い出されたならず者だ。あれ位ならヴァイオレットでも倒せるだろう。ヴァイオレット、魔法を使ってあいつを倒してみろ』
『ギャギャギャ!』


ゴブリンはヴァイオレットに対して威嚇しているような声を浴びせてくる
その声に怯んだヴァイオレットは咄嗟にイグニスの後ろへと隠れた


『怖いよお父さん……私戦いたくない』
『大丈夫だ、危なくなったら吾輩が守ってやる』
『本当……?』


イグニスの言葉をヴァイオレットは信じておずおずと前に出ていきながらゴブリンと対峙、それを見てゴブリンはこちらに迫ってきた


『ギャギャギャギャ!』
『ひっ……!』
『恐れるな!攻撃をするんだ』
『うぅっ……ふぁいあぼうる!』


ヴァイオレットの放ったファイアボールは見事にゴブリンに命中した
昨日ウサギ相手に散々練習した成果がしっかりと発揮できていた
しかしまだ急所を狙えるだけの精度はなく、一撃くらった程度ではゴブリンはこちらに向かってくる歩みを止めなかった


『それではダメだ。相手が動かなくなるまで撃ち続けろ』
『ふぁいあぼうる!ふぁいあぼうる!』


倒れないゴブリンにヴァイオレットは無我夢中で何度も攻撃を浴びせた
そして何発目に放ったファイアボールが顔面に直撃したところでゴブリンはようやく倒れ力尽きた


『はぁはぁ……』
『よし、初めてにしては上出来だな。じゃあ次の相手を探しに行くぞ』
『……ない』
『ん?何か言ったか?』
『行かない!もう戦いたくない!なんでこんな怖いことさせるの!?』


ゴブリンのこちらを殺そうとしてくる必死の形相にヴァイオレットは恐怖を覚えてしまった
まだ五歳という年齢でいきなり戦闘をさせるのは酷だとイグニスも重々理解している
だがこうでもしないとヴァイオレットの増幅し続ける魔力がいずれ暴走してしまう
それにこの森で生きていくには最低限戦えるようになっておかなくてはならない
ヴァイオレットが嫌がろうと続けさせなくてはとイグニスは説得を試みようとした


『さっきも言っただろ、これはお前の為であってだな……』
『私の為ならこんな事もうしたくない!お父さんなんてもう嫌い!』
『き、嫌い……だと……!』


ヴァイオレットはイグニスにそう言い捨てるとどこかへ走り去っていってしまった
当のイグニスはというと生まれて初めて愛娘に嫌いと言われたことで精神に大ダメージに負い暫く放心状態に


『グスッ…グスッ…お父さんのバカ……』


ヴァイオレットはイグニスの元を離れた後、とぼとぼと一人森の中を彷徨っていた
しかし普段一人で来たことがない場所まで夢中で走って来たので今自分がどこにいるかも分からずヴァイオレットは不安が募っていった


『ここどこ……?おとうさ……』


お父さんと口にしかけたところで口を噤む
あんな事を言った後で気まずいのとまだ気持ちが整理できていなかった
だが一人でいつまでもこんな場所にいるとまた魔物が出てくるかもしれないと思い、ヴァイオレットは仕方がなくイグニスの元に戻ろうとした
だがその瞬間、突然何者かがヴァイオレットの背後に現れて布で口を押さえつけられる


『うむっ!?』
『ダメだよ嬢ちゃん、こんなところを一人で歩いてちゃ。俺らみたいな悪い人に拐われちゃうよ』


ヴァイオレットの前に現れたのは初めて見る自分と同じ種族の人間
自分よりも大きい人間が数人いて何かを話しかけてきているように見えたが、人の言葉がまだ理解出来ないヴァイオレットにそれは通じなかった


『んー!んー!』
『このだだっ広い森に迷い込んでツイてないと思ったが思いがけねぇ拾い物をしたな。こいつは高く売れそうだ』
『おい、こんなガキが一人なわけがねぇ。どこかに親が近くにいるかもしれねぇから早くヅラかろうぜ』
『あぁ』


男達はヴァイオレットを連れて早々にその場を立ち去ろうとした
しかしその行為はわざわざ竜の逆鱗に触れに行くに等しい
刹那大きな影が上空に現れるとそれは男達の前に立ちはだかった
ヴァイオレットはその姿を見たことで先程まで感じていた恐怖は吹き飛んだ


『むむーむん!』
『貴様等……吾輩の娘を連れ去ろうとは。覚悟はできているのだろうな?』
『は……え……?』
『いや愚問だったな。覚悟が出来ていようといまいと貴様等に待っているのは死のみだ。ヴァイオレット、目を閉じていろ』
『いや……ちょっと……お?』


イグニスに言われた通りヴァイオレットはギュッと目を閉じる
それは僅か数秒の出来事、気づくと男達の声が聞こえなくなりイグニスに目を開けていいと言われゆっくり開けると既にイグニスの手の上にいた


『全く、吾輩の元から離れるなといつも言っていただろ』
『おどんっ……おどうざああん!ごわがっだよおお!!』


安堵したことで緊張の糸が切れたのかヴァイオレットは堰を切ったように泣き出し、イグニスはそれをあやすように優しく頭を撫でた

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