竜皇女と呼ばれた娘

Aoi

文字の大きさ
5 / 342
魔法学校編

戦う理由

しおりを挟む
棲み処に帰ってくるとヴァイオレットは泣き疲れたのかイグニスの背中の上で眠ってしまったので、その日は魔物との戦闘を中断することに
その夜、ヴァイオレットが目を覚ますとそこにはバシリッサが優しく包み込むような形で見守ってくれていた


『起きたみたいね』
『お母さん……』
『気分はどうかしら』
『お腹減った……』


バシリッサの問いにヴァイオレットが空腹だと告げてくる
昼間から何も食べていなかったヴァイオレットは用意しておいたスープを渡されるとゆっくりと胃袋の中へと入れていった


『食欲があるなら大丈夫そうね。明日からまた頑張りましょう』
『……』


その言葉を聞いた途端ヴァイオレットの手が止まる
また今日のように魔物と戦わなくてはいけないと思ったら気が重くなってしまったようだ


『また……魔物と戦わなきゃダメ?』
『ヴァイオレットは戦うの嫌い?』
『だって怖いんだもん……』
『そう……実は私もね、戦うのはそんなに好きじゃないの』
『お母さんも?』


バシリッサはイグニスとは対照的で温和な性格をしており、確かに戦っている姿は一度も見たことがなかった


『えぇ、けれどねヴァイオレット。私でも戦う時があるわ。一つは自分の命を脅かしてくる相手が現れた時、そしてもう一つは大切なもの守る時よ』
『大切なもの……』
『そう。私の場合はあなたよヴァイオレット』
『えへへ』


ヴァイオレットの頭を優しく撫でてあげながらバシリッサは続ける


『ヴァイオレットにもいつかきっと守りたいものができるはず。だからその時の為に今から頑張らなくちゃいけないの。最初は怖いし逃げたくなるわよね、けれどあなたが成長したらその力はきっと役に立つはずよ』


バシリッサの話を聞いてヴァイオレットは幼い身なりに思考を巡らし、暫くしてから口を開いた


『私でも頑張れば強くなれるかな』
『大丈夫、ヴァイオレットなら出来るわ。だって私達の娘ですもの』
『私……もうちょっと頑張ってみる!』
『そうね、お母さんも協力するし応援するわ。あっ、あとイグニスにちゃんと謝りなさい。あなたに嫌いって言われたのが相当ショックだったみたいで落ち込んでるみたいなのよ。イグニスも強引だったかもしれないけど決して悪気があったわけじゃないの』
『うん、私お父さんに謝ってくる!』


バシリッサが間に入ったことでヴァイオレットとイグニスは仲直りすることができ、特訓もどうにか続けさせることができた

そんな出来事が起きた日からあっという間に一年が経過、ヴァイオレットが六歳になる年を迎えた
あれからイグニスとバシリッサの指導の元ヴァイオレットは魔力のコントロールを学び魔物との戦いを頑張った
途中で何度も投げ出しかけたが、その度イグニス達に支えてもらったことでヴァイオレットは一年で見違えるように逞しくなった


『お父さん!見てみて!』
『ほぉキングゴブリンを倒したのか。やるじゃないか』
『周りにゴブリンがたくさんいたけどなんとか倒せた!』
『最近コイツ等が森の生態系を荒らしていたからこれで元通りになるな』
『ねぇゴブリンって食べられる?』
『やめておけ、ゴブリンの肉は固くて食えたもんじゃないぞ』
『でも気になるなぁ。ちょっとだけ試しに食べてみよ』


ヴァイオレットの肉好きは成長すると共に増しており、色んな肉を食べてみたいという衝動に駆られていた
イグニスにも昔そういった過去があったので強く引き止めることはできず、毒があるもの以外は許していた
ゴブリンから食べられそうな部位だけを剥ぎ取りその日の夕飯に早速焼いて食べてみるとヴァイオレットの表情が渋くなる


『うーん……これはちょっと……』
『だから言っただろ。ほら、吾輩の狩ってきた獲物を分けてやる。しかしヴァイオレット、随分と魔法を扱えるようになったな。最初の頃なんて泣いて逃げていたというのに。この調子ならもう少し森の奥に入ってもよさそうだな』
『もっと強い魔物がいるの?』
『この森は奥に進めば進む程強い魔物が出てくるんだ。お前にはいずれ一番奥深くにいる魔物を倒してもらうつもりだ。それが卒業の証となる。まぁまだ当分先の話だがな』


ヴァイオレットも強くなったとはいえまだまだ成長途中、森の奥深くに存在する魔物の相手をするにはもっと力をつけなくてはならない


『その魔物ってお父さんでも倒せないの?』
『馬鹿を言うな、吾輩にかかれば一撃だ』
『やっぱりお父さんは凄いねぇ!どうすればお父さんみたいにもっと強くなれるの?強くなる方法教えてよ』
『どうすれば……?吾輩はひたすら暴れていたら気づけばこうなっていたな』
『えーなにそれー』
『強くなる方法は何も一つではない。ヴァイオレットはヴァイオレットの合った方法でゆっくりと強くなっていけばいい』
『はーい』


それからもヴァイオレットは日々増え続ける魔力を制御しながら魔物との戦いに明け暮れた
そしてそんな生活を送り続けていると気がつけば十年という歳月が経過し、ヴァイオレットは十六歳になった

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...