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第一章 《第一部》ヒーラー 少年篇
第10話 「隠された王 ミスタリスの玉座」
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次に目覚めた時、俺は柔らかいものと……そして、また別の柔らかいものに上下から挟まれていた。
意識が朦朧とする中、その心地よさに微かに安堵する自分がいる。
「うぷ……」
声にならない声を漏らすと、目の前にレイラの顔が飛び込んできた。
「アスフィっ!!起きた!?」
彼女の瞳は涙に濡れていた。俺が膝枕をされていることに気づいたのは、その瞬間だった。
「……レイラ?大丈夫?」
自分の状況を確認するよりも先に、彼女の無事を確かめる。それが俺の第一声だった。
「うん!レイラは大丈夫!それよりアスフィこそ大丈夫なの!?」
彼女の声には、明らかに俺を気遣う感情が滲んでいた。だが俺にはその理由が掴めない。
「え、なにが?」
「覚えて……ないの?」
その問いかけに、記憶が断片的によみがえる。俺が倒れた直前のこと、ハンベルとの戦い、そして――。
「……あっ!!ハンベルは!?」
半ば反射的に身を起こし問い詰める。
「……死んだよ。ほら、あそこに」
レイラが震える手で指さした先には、冷たく横たわるハンベルの姿があった。
「……レイラがやったの?」
「……なんかね。怖カッコイイヒーローがレイラ達を助けてくれたよ。すごくカッコよかったけど……それ以上に怖かったんだよ」
怖カッコイイヒーロー?俺たちを助けてくれた?一体彼女は何を言っているんだ――。
その疑問は口に出す間もなく消えた。目の前にいるレイラが無事であること、それだけが今の俺にとって何よりも大切だったからだ。
「そうなんだぁ……でもレイラが無事で本当によかったよ!」
「レイラもアスフィが無事でよかったよ」
彼女の言葉は、俺の心をほんの少し軽くしてくれた。
「……なんだか僕、疲れたからもう少しこの気持ちよさ味わっててもいい?」
少し冗談めかしてそう言うと、レイラは苦笑しながら答えた。
「……今日だけ特別だよ」
その言葉に甘え、俺は彼女の膝の上で再び目を閉じた。
***
「さて、ミスタリス王国に向かうかぁ」
目を覚まし、しっかりと体力を回復した俺は旅路を再開することにした。
「もういいの?」
「うん!ありがとうレイラ!おかげで元気になったよ、色々と!……またお願いしてもいい?」
「……ダメだよ?」
「だよねっ!!!」
笑い声が響く中、俺たちは再びミスタリス王国への道を歩み始めた。
それにしても、ハンベルたちのせいで迂回する羽目になったのは悔しい。道が遠回りになってしまったが、目的地は変わらない。
そんなことを考えていると――またしても俺たちの前に鎧を纏った人物が現れた。
「やぁ君たち、こんなところでなにしてるんだい?」
その声に振り向くと、馬に跨る騎士の姿が目に入る――。
「またお前らか!!?」
俺の怒声が響き、レイラは身を縮めるように震えた。俺たちを狙う者たちが再び現れた――そう思わずにはいられなかった。
「お、おいおい!敵意を向けないでくれ!……私はミスタリス王国騎士団副団長のエルザだ。エルザ・スタイリッシュだ!」
金髪のロングヘアーに銀色の鎧を纏った女性騎士が、馬から降り立ち自らを名乗る。
その胸には、騎士団の証である二本の剣が交差する紀章が輝いていた。
一見して俺たちとは住む世界が違う存在――それが彼女、エルザ・スタイリッシュだった。
けれど、ただの見た目だけじゃない。彼女が発する声、仕草、そしてその立ち居振る舞い、その全てに安心感があった。
俺たちの顔を覗き込んで「大丈夫かい?」と問いかけるその言葉には、不安をかき消すほどの優しさが滲んでいた。
その声が、どれほど救いだったか。今まで俺たちを脅かしてきた奴らにはない“本物”の温もりが、そこにはあった。
震えるレイラを見て、彼女はそっと一歩引いて距離を取った。怯える俺たちに寄り添う、その配慮。それだけで十分だった。
この人は頼れる人だ――心からそう思えた。
「……うむ、そんな事があったのか。それは可哀想に。でも、大丈夫!私はそれはもう確実に騎士でありそれも副団長だから安心したまえ!ハッハッハッ!……ところでレイラ、君の見たその″怖カッコイイヒーロー″とやらはどこへ?」
「……」
「エルザさん、僕ら疲れてるので今はその話、控えて頂けますか?」
俺はレイラを気遣い、話を中断させることにした。
「……うむ、承知した。では私自らミスタリスへ案内しよう。この子はパトリシアと言う。大人しくて人懐っこい子だ。仲良くしてやってくれ」
と、エルザは白馬を紹介してくれた。レイラは初めて見たからなのか不思議そうに見ていた。
……あれ?俺は何故不思議だと思わないんだろうか。
***
「で、でけぇ……」
「そう……だね……」
俺たちは目の前にそびえる巨大な門をただ見上げていた。
田舎育ちの俺たちにとって、こんな光景は初めてだった。どこか圧倒されるようなその大きさに、胸の高鳴りを抑えられない。
「エルザ副団長! お疲れ様です!」
「うむ、ご苦労」
門番らしき二人の騎士が、恭しく頭を下げる。俺たちの方にも軽く視線を向けたが、すぐにエルザへ戻った。
「ところでそちらのお子様たちは……?」
「私の客人だ。丁重に扱うように」
「「はいっ!」」
俺たちの存在を一瞥した門番が、再び深く頭を下げる。二人が大きな門をゆっくりと押し開けた瞬間、俺たちの目の前には信じられない光景が広がった。
噴水があり、その周りには着飾った人々が行き交っている。街並みは左右に並ぶ大きな石造りの建物。どれもが整然として美しい。
そしてなにより、その中央にそびえる白い大きな城。門の外から見えていたあれだ。頭頂部にはエルザの紀章にも描かれていた二本の剣が交差するシンボルの旗が堂々と掲げられている。
「すげぇぇぇぇぇぇ……」
「すごぉぉぉぉぉ……」
俺とレイラはほとんど同時に、同じ感想が口から漏れた。
「ハッハッハ! 驚いたろう! ミスタリス王国はそれなりに栄えた街だからな!」
エルザは豪快に笑いながら、胸を張って言った。
「……僕たちの村が、なんだかしょぼく見えます……」
「だね……」
レイラも小さな声でぽつりと漏らす。それを聞いてエルザは真剣な顔で俺たちを見た。
「そんなことはない! あの辺は空気が美味い! 城の中に閉じこもっているより、遥かに気持ちがいい場所だ!」
「そうなのかな……」
「そうとも!」
エルザは力強く頷いて見せる。そう言われると、少しだけ自分たちの村も悪くない気がしてきた。
「それより、君たちの目的を聞いていなかったな」
エルザが真剣な顔つきで俺たちに問いかける。彼女のその態度に、俺は少しだけ安心感を覚えながら話し始めた。
「……僕たち、人探しをしているんです。母が病で――」
俺はエルザに『呪い』のこと、そして母を救うためにこの旅をしている理由を伝えた。話しながら、その言葉の重さに自分でも胸が苦しくなる。
「……なるほど。なら、城で王に聞いてみるといい」
「え? いきなり王様ですか?」
「お、王様に……あ、あ、会うのはちょっと……」
レイラの顔は引きつり、声は震えていた。
いや、俺だってそうだ。いきなり王様に会うなんて、そんな覚悟でここに来たわけじゃないし……。
「そう身構えるな!」
エルザは豪快に笑いながら肩を叩いてくる。
「王は話のわかる人物だ。それに、王の耳にはこの王国の全ての情報が入って来るからな……あ、もちろんプライベート以外だ!」
……それ、言う必要ある? 俺とレイラは目を見合わせながら内心で突っ込んだ。
「うーん、なら行ってみようか、レイラ」
「……アスフィが行くなら、レイラも行くよ」
「決まりだな!」
エルザは大きく頷くと、急に俺たちを見つめてニヤリと笑った。
「……にしても、君たち仲がいいな! 結婚するのか?」
いきなり何言い出すんだ、この人。
俺もレイラも何も言えずに固まってしまった。
「……すまない!」
エルザは自分で気まずくなったのか、バツが悪そうに頭をかいた。
「私は空気を読むのが苦手でな……では、城に向かおう!」
エルザの案内で、俺たちは街の中央にそびえる大きな城へ向かうことになった。
その道中、エルザには次々と声がかかる。
「エルザさん! 今日もお疲れさんっ!」
街の商人らしき男性が親しげに声をかける。
一方で、着飾った貴族らしき女性は少し堅苦しい口調で挨拶をした。
「これは、エルザ様。今日もお疲れ様です」
どうやら、立場によって挨拶が違うらしい。
道中でそのやり取りが何度も繰り返され、俺たちは正直居心地が悪くなってきた。
「あ~ども~」
俺は曖昧に会釈をしながらついていく。
相手は「誰だコイツ?」という顔をしていたけど、気にする余裕もない。
隣ではレイラが無言で俯きながら歩いていた。完全に萎縮している。
人見知り、いつになったら治るんだろうか……。
「すまないな」
エルザが後ろを振り返り、申し訳なさそうに笑う。
「私はいつもこのように声をかけられるんだ」
「いえ、レイラがちょっと萎縮しているくらいなので……大丈夫です」
「それは大丈夫なのか?」
「はい! 平常運転です!」
俺が即答すると、エルザは一瞬ぽかんとした顔をしてから、大声で笑い出した。
「あはは! 君たちは本当に面白いな!」
エルザの笑顔に俺は少しだけ緊張が解けた。なんだか、彼女とは友達になれそうな気がする。そう思いながら、意を決して声をかけた。
「エルザさん! 僕たち、友達になれませんか?」
「ん? もちろん! 私はもう既に君たちを友だと思っていたが?」
「……ありがとうございます! 嬉しいです!」
「それじゃ、友達記念と言っちゃなんだが」
エルザが少しだけ冗談めかして言う。
「その堅苦しい話し方はやめないか? 私、そういうのあまり好きじゃないんだ」
「わか……ったよ、エルザ」
「うん、それがいい! 我が友アスフィ! そして、レイラよ!」
「……ぁりがとう」
レイラはかすかに聞こえるほどの小さな声でお礼を言った。
きっと彼女なりにエルザを信頼し始めたんだろう。そんな彼女の姿に、俺は少しだけ安心した。
***
「着いたぞ! ここがミスタリス王国の城であり、そして砦だ!」
目の前にそびえ立つ城を見上げた瞬間、俺はその圧倒的な威容に息を飲んだ。
言葉では表現しきれないほど大きい。いや、大きいなんてもんじゃない。
俺たちの家と比べるのも馬鹿馬鹿しいほどでかい。まさに王城にふさわしい堂々たる姿だった。
「で、ででででは……入ろう、エルザ!」
「うむ!」
「本当に……でかい……」
少し緊張しながらも、俺たちはその巨城に一歩足を踏み入れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「うむ!」
「あ~ども~」
エルザが堂々とメイドたちの挨拶を受ける中、俺も軽く会釈をしてみたが……どうにも馴染めない。
というか、さっきから気になることがある。
「……ねぇエルザ」
「なんだ?」
俺はエルザの耳元に小声で問いかけた。
「ここのメイドさん達って、男嫌いなの?」
「ん? そんなことは無いと思うが」
「いや、だってさ。レイラのことは『お嬢様』って呼ぶのに、俺のことは完全スルーだよ!? 俺だって『お帰りなさいませ、ご主人様』って言われたいよ!」
少し拗ねながら言うと、エルザは笑いを堪えるように口元を押さえた。
「……そうなのか? なら私が言おうか?」
「いいよ! エルザに言われても何も嬉しくないよ!」
俺がそう返すと、エルザは大声で笑い出した。
「ハッハッハ! 面白いな、アスフィ! それなら『ご主人様』って私が——」
「いいってば!」
俺が勢いよく遮ると、その瞬間近くにいたメイドたちが俺を睨みつけた……気がする。
視線がギラリと光ったような、そんな錯覚を背後から感じた。
「……やっぱり、この城のメイドさん達って男嫌いなのかな……」
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか俺たちは城の奥深くまで進んでいた。
ついに巨大な扉の前に辿り着いたのだ。
「ここだ。いいか? 開けるぞ?」
「……すぅ……はぁ……よし、いいよ!」
俺は深呼吸で気持ちを整えた。隣のレイラを見ると、彼女は無言で緊張しているようだった。
そして、重厚な扉がゆっくりと開かれる。
目の前に現れたのは、整然と並んだメイドたち。中央には立派な赤い絨毯が敷かれ、その先には豪華すぎるほどの玉座があった。
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
しかし肝心の玉座には誰も座っていない。
「……あれ? ねぇエルザ、王様がいないんだけど」
「ん? 王ならいるじゃないか」
「え? どこどこ?」
俺は辺りを見回したが、メイドと俺たち以外に人影は見当たらない。
するとエルザは急に中央へ進み、そのまま玉座に向かって歩いていく。
まさか……そのまま堂々と座る気じゃ……?
「ちょっとエルザ! 王様がいないからって、そんなところ勝手に座ったらダメだって!」
焦った俺がそう叫ぶと、隣でレイラが袖をクイックイッと引っ張った。
「なに? どうしたのレイラ」
「……お、おぅさま」
「だからどこよ!!」
レイラは無言で玉座を指差した。その先には……エルザが悠然と座っていた。肘を着きながら……
「アスフィ・シーネット。王は私だ」
玉座に腰を掛けたエルザは、微笑みながら静かに言葉を続けた。
「エルザ・スタイリッシュ。それが私の名であり、この国の王の名前でもある!」
俺はその場で卒倒しそうになった。
まさか、エルザがこの国の王様だったなんて――想像すらしていなかった。
あの威厳、あの存在感。それでも俺たちと対等に接してくれていた彼女の言葉が、今になって重みを増していく。
嘘であってほしい。冗談だと言ってほしい。だが、その玉座に座る彼女の姿は、揺るぎない現実を突きつけていた。
俺の心臓は高鳴り、呼吸すら忘れてしまうほどだ。逃げるのか、受け入れるのか――俺は次の一歩を決めることすらできず、ただ立ち尽くしていた。
意識が朦朧とする中、その心地よさに微かに安堵する自分がいる。
「うぷ……」
声にならない声を漏らすと、目の前にレイラの顔が飛び込んできた。
「アスフィっ!!起きた!?」
彼女の瞳は涙に濡れていた。俺が膝枕をされていることに気づいたのは、その瞬間だった。
「……レイラ?大丈夫?」
自分の状況を確認するよりも先に、彼女の無事を確かめる。それが俺の第一声だった。
「うん!レイラは大丈夫!それよりアスフィこそ大丈夫なの!?」
彼女の声には、明らかに俺を気遣う感情が滲んでいた。だが俺にはその理由が掴めない。
「え、なにが?」
「覚えて……ないの?」
その問いかけに、記憶が断片的によみがえる。俺が倒れた直前のこと、ハンベルとの戦い、そして――。
「……あっ!!ハンベルは!?」
半ば反射的に身を起こし問い詰める。
「……死んだよ。ほら、あそこに」
レイラが震える手で指さした先には、冷たく横たわるハンベルの姿があった。
「……レイラがやったの?」
「……なんかね。怖カッコイイヒーローがレイラ達を助けてくれたよ。すごくカッコよかったけど……それ以上に怖かったんだよ」
怖カッコイイヒーロー?俺たちを助けてくれた?一体彼女は何を言っているんだ――。
その疑問は口に出す間もなく消えた。目の前にいるレイラが無事であること、それだけが今の俺にとって何よりも大切だったからだ。
「そうなんだぁ……でもレイラが無事で本当によかったよ!」
「レイラもアスフィが無事でよかったよ」
彼女の言葉は、俺の心をほんの少し軽くしてくれた。
「……なんだか僕、疲れたからもう少しこの気持ちよさ味わっててもいい?」
少し冗談めかしてそう言うと、レイラは苦笑しながら答えた。
「……今日だけ特別だよ」
その言葉に甘え、俺は彼女の膝の上で再び目を閉じた。
***
「さて、ミスタリス王国に向かうかぁ」
目を覚まし、しっかりと体力を回復した俺は旅路を再開することにした。
「もういいの?」
「うん!ありがとうレイラ!おかげで元気になったよ、色々と!……またお願いしてもいい?」
「……ダメだよ?」
「だよねっ!!!」
笑い声が響く中、俺たちは再びミスタリス王国への道を歩み始めた。
それにしても、ハンベルたちのせいで迂回する羽目になったのは悔しい。道が遠回りになってしまったが、目的地は変わらない。
そんなことを考えていると――またしても俺たちの前に鎧を纏った人物が現れた。
「やぁ君たち、こんなところでなにしてるんだい?」
その声に振り向くと、馬に跨る騎士の姿が目に入る――。
「またお前らか!!?」
俺の怒声が響き、レイラは身を縮めるように震えた。俺たちを狙う者たちが再び現れた――そう思わずにはいられなかった。
「お、おいおい!敵意を向けないでくれ!……私はミスタリス王国騎士団副団長のエルザだ。エルザ・スタイリッシュだ!」
金髪のロングヘアーに銀色の鎧を纏った女性騎士が、馬から降り立ち自らを名乗る。
その胸には、騎士団の証である二本の剣が交差する紀章が輝いていた。
一見して俺たちとは住む世界が違う存在――それが彼女、エルザ・スタイリッシュだった。
けれど、ただの見た目だけじゃない。彼女が発する声、仕草、そしてその立ち居振る舞い、その全てに安心感があった。
俺たちの顔を覗き込んで「大丈夫かい?」と問いかけるその言葉には、不安をかき消すほどの優しさが滲んでいた。
その声が、どれほど救いだったか。今まで俺たちを脅かしてきた奴らにはない“本物”の温もりが、そこにはあった。
震えるレイラを見て、彼女はそっと一歩引いて距離を取った。怯える俺たちに寄り添う、その配慮。それだけで十分だった。
この人は頼れる人だ――心からそう思えた。
「……うむ、そんな事があったのか。それは可哀想に。でも、大丈夫!私はそれはもう確実に騎士でありそれも副団長だから安心したまえ!ハッハッハッ!……ところでレイラ、君の見たその″怖カッコイイヒーロー″とやらはどこへ?」
「……」
「エルザさん、僕ら疲れてるので今はその話、控えて頂けますか?」
俺はレイラを気遣い、話を中断させることにした。
「……うむ、承知した。では私自らミスタリスへ案内しよう。この子はパトリシアと言う。大人しくて人懐っこい子だ。仲良くしてやってくれ」
と、エルザは白馬を紹介してくれた。レイラは初めて見たからなのか不思議そうに見ていた。
……あれ?俺は何故不思議だと思わないんだろうか。
***
「で、でけぇ……」
「そう……だね……」
俺たちは目の前にそびえる巨大な門をただ見上げていた。
田舎育ちの俺たちにとって、こんな光景は初めてだった。どこか圧倒されるようなその大きさに、胸の高鳴りを抑えられない。
「エルザ副団長! お疲れ様です!」
「うむ、ご苦労」
門番らしき二人の騎士が、恭しく頭を下げる。俺たちの方にも軽く視線を向けたが、すぐにエルザへ戻った。
「ところでそちらのお子様たちは……?」
「私の客人だ。丁重に扱うように」
「「はいっ!」」
俺たちの存在を一瞥した門番が、再び深く頭を下げる。二人が大きな門をゆっくりと押し開けた瞬間、俺たちの目の前には信じられない光景が広がった。
噴水があり、その周りには着飾った人々が行き交っている。街並みは左右に並ぶ大きな石造りの建物。どれもが整然として美しい。
そしてなにより、その中央にそびえる白い大きな城。門の外から見えていたあれだ。頭頂部にはエルザの紀章にも描かれていた二本の剣が交差するシンボルの旗が堂々と掲げられている。
「すげぇぇぇぇぇぇ……」
「すごぉぉぉぉぉ……」
俺とレイラはほとんど同時に、同じ感想が口から漏れた。
「ハッハッハ! 驚いたろう! ミスタリス王国はそれなりに栄えた街だからな!」
エルザは豪快に笑いながら、胸を張って言った。
「……僕たちの村が、なんだかしょぼく見えます……」
「だね……」
レイラも小さな声でぽつりと漏らす。それを聞いてエルザは真剣な顔で俺たちを見た。
「そんなことはない! あの辺は空気が美味い! 城の中に閉じこもっているより、遥かに気持ちがいい場所だ!」
「そうなのかな……」
「そうとも!」
エルザは力強く頷いて見せる。そう言われると、少しだけ自分たちの村も悪くない気がしてきた。
「それより、君たちの目的を聞いていなかったな」
エルザが真剣な顔つきで俺たちに問いかける。彼女のその態度に、俺は少しだけ安心感を覚えながら話し始めた。
「……僕たち、人探しをしているんです。母が病で――」
俺はエルザに『呪い』のこと、そして母を救うためにこの旅をしている理由を伝えた。話しながら、その言葉の重さに自分でも胸が苦しくなる。
「……なるほど。なら、城で王に聞いてみるといい」
「え? いきなり王様ですか?」
「お、王様に……あ、あ、会うのはちょっと……」
レイラの顔は引きつり、声は震えていた。
いや、俺だってそうだ。いきなり王様に会うなんて、そんな覚悟でここに来たわけじゃないし……。
「そう身構えるな!」
エルザは豪快に笑いながら肩を叩いてくる。
「王は話のわかる人物だ。それに、王の耳にはこの王国の全ての情報が入って来るからな……あ、もちろんプライベート以外だ!」
……それ、言う必要ある? 俺とレイラは目を見合わせながら内心で突っ込んだ。
「うーん、なら行ってみようか、レイラ」
「……アスフィが行くなら、レイラも行くよ」
「決まりだな!」
エルザは大きく頷くと、急に俺たちを見つめてニヤリと笑った。
「……にしても、君たち仲がいいな! 結婚するのか?」
いきなり何言い出すんだ、この人。
俺もレイラも何も言えずに固まってしまった。
「……すまない!」
エルザは自分で気まずくなったのか、バツが悪そうに頭をかいた。
「私は空気を読むのが苦手でな……では、城に向かおう!」
エルザの案内で、俺たちは街の中央にそびえる大きな城へ向かうことになった。
その道中、エルザには次々と声がかかる。
「エルザさん! 今日もお疲れさんっ!」
街の商人らしき男性が親しげに声をかける。
一方で、着飾った貴族らしき女性は少し堅苦しい口調で挨拶をした。
「これは、エルザ様。今日もお疲れ様です」
どうやら、立場によって挨拶が違うらしい。
道中でそのやり取りが何度も繰り返され、俺たちは正直居心地が悪くなってきた。
「あ~ども~」
俺は曖昧に会釈をしながらついていく。
相手は「誰だコイツ?」という顔をしていたけど、気にする余裕もない。
隣ではレイラが無言で俯きながら歩いていた。完全に萎縮している。
人見知り、いつになったら治るんだろうか……。
「すまないな」
エルザが後ろを振り返り、申し訳なさそうに笑う。
「私はいつもこのように声をかけられるんだ」
「いえ、レイラがちょっと萎縮しているくらいなので……大丈夫です」
「それは大丈夫なのか?」
「はい! 平常運転です!」
俺が即答すると、エルザは一瞬ぽかんとした顔をしてから、大声で笑い出した。
「あはは! 君たちは本当に面白いな!」
エルザの笑顔に俺は少しだけ緊張が解けた。なんだか、彼女とは友達になれそうな気がする。そう思いながら、意を決して声をかけた。
「エルザさん! 僕たち、友達になれませんか?」
「ん? もちろん! 私はもう既に君たちを友だと思っていたが?」
「……ありがとうございます! 嬉しいです!」
「それじゃ、友達記念と言っちゃなんだが」
エルザが少しだけ冗談めかして言う。
「その堅苦しい話し方はやめないか? 私、そういうのあまり好きじゃないんだ」
「わか……ったよ、エルザ」
「うん、それがいい! 我が友アスフィ! そして、レイラよ!」
「……ぁりがとう」
レイラはかすかに聞こえるほどの小さな声でお礼を言った。
きっと彼女なりにエルザを信頼し始めたんだろう。そんな彼女の姿に、俺は少しだけ安心した。
***
「着いたぞ! ここがミスタリス王国の城であり、そして砦だ!」
目の前にそびえ立つ城を見上げた瞬間、俺はその圧倒的な威容に息を飲んだ。
言葉では表現しきれないほど大きい。いや、大きいなんてもんじゃない。
俺たちの家と比べるのも馬鹿馬鹿しいほどでかい。まさに王城にふさわしい堂々たる姿だった。
「で、ででででは……入ろう、エルザ!」
「うむ!」
「本当に……でかい……」
少し緊張しながらも、俺たちはその巨城に一歩足を踏み入れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「うむ!」
「あ~ども~」
エルザが堂々とメイドたちの挨拶を受ける中、俺も軽く会釈をしてみたが……どうにも馴染めない。
というか、さっきから気になることがある。
「……ねぇエルザ」
「なんだ?」
俺はエルザの耳元に小声で問いかけた。
「ここのメイドさん達って、男嫌いなの?」
「ん? そんなことは無いと思うが」
「いや、だってさ。レイラのことは『お嬢様』って呼ぶのに、俺のことは完全スルーだよ!? 俺だって『お帰りなさいませ、ご主人様』って言われたいよ!」
少し拗ねながら言うと、エルザは笑いを堪えるように口元を押さえた。
「……そうなのか? なら私が言おうか?」
「いいよ! エルザに言われても何も嬉しくないよ!」
俺がそう返すと、エルザは大声で笑い出した。
「ハッハッハ! 面白いな、アスフィ! それなら『ご主人様』って私が——」
「いいってば!」
俺が勢いよく遮ると、その瞬間近くにいたメイドたちが俺を睨みつけた……気がする。
視線がギラリと光ったような、そんな錯覚を背後から感じた。
「……やっぱり、この城のメイドさん達って男嫌いなのかな……」
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか俺たちは城の奥深くまで進んでいた。
ついに巨大な扉の前に辿り着いたのだ。
「ここだ。いいか? 開けるぞ?」
「……すぅ……はぁ……よし、いいよ!」
俺は深呼吸で気持ちを整えた。隣のレイラを見ると、彼女は無言で緊張しているようだった。
そして、重厚な扉がゆっくりと開かれる。
目の前に現れたのは、整然と並んだメイドたち。中央には立派な赤い絨毯が敷かれ、その先には豪華すぎるほどの玉座があった。
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
しかし肝心の玉座には誰も座っていない。
「……あれ? ねぇエルザ、王様がいないんだけど」
「ん? 王ならいるじゃないか」
「え? どこどこ?」
俺は辺りを見回したが、メイドと俺たち以外に人影は見当たらない。
するとエルザは急に中央へ進み、そのまま玉座に向かって歩いていく。
まさか……そのまま堂々と座る気じゃ……?
「ちょっとエルザ! 王様がいないからって、そんなところ勝手に座ったらダメだって!」
焦った俺がそう叫ぶと、隣でレイラが袖をクイックイッと引っ張った。
「なに? どうしたのレイラ」
「……お、おぅさま」
「だからどこよ!!」
レイラは無言で玉座を指差した。その先には……エルザが悠然と座っていた。肘を着きながら……
「アスフィ・シーネット。王は私だ」
玉座に腰を掛けたエルザは、微笑みながら静かに言葉を続けた。
「エルザ・スタイリッシュ。それが私の名であり、この国の王の名前でもある!」
俺はその場で卒倒しそうになった。
まさか、エルザがこの国の王様だったなんて――想像すらしていなかった。
あの威厳、あの存在感。それでも俺たちと対等に接してくれていた彼女の言葉が、今になって重みを増していく。
嘘であってほしい。冗談だと言ってほしい。だが、その玉座に座る彼女の姿は、揺るぎない現実を突きつけていた。
俺の心臓は高鳴り、呼吸すら忘れてしまうほどだ。逃げるのか、受け入れるのか――俺は次の一歩を決めることすらできず、ただ立ち尽くしていた。
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なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
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(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
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