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第二章 《第一部》ヒーラー 王国篇
第27話 「『白い悪魔』」
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最近、俺の生活にはいくつかの変化があった。
そのひとつは、剣術修行の時間が変わったことだ。
これまで、俺とレイラは朝も昼も毎日剣術修行に励んでいた。だが、今は違う。
レイラは変わらず朝も昼も剣術に打ち込んでいるが、俺は昼の時間を魔法の勉強に充てることになった。
新しい魔法の先生、ルクス・セルロスフォカロが来たからだ。
彼女は、『あらゆる魔法を扱える』という才能を持つ天才魔法使い。
普通、魔法を扱うには才能や素質が必要とされる。
攻撃魔法を得意とする者は攻撃魔法しか使えないし、防御魔法を得意とする者は防御魔法しか扱えない。
だが、彼女はそのすべてを扱うことができる例外だった。
攻撃、防御、支援、そして回復魔法ですら……彼女はすべての系統の魔法を単独で行使できる。
その圧倒的な力と、白髪に赤い瞳、黒のローブという異質な外見から、彼女はこう呼ばれていた。
――『白い悪魔』と。
***
「ルクスさん」
「……さんは入りません。ルクスで結構です」
「じゃあ、ルクス。はやく魔法教えてよ」
「……教えるのは構いませんが、アスフィは回復魔法以外扱えないのですよね?」
「まぁね。でも知識は大事って気づいたから」
「……分かりました」
ルクスは、しぶしぶと言った感じで頷いた。
どうやら魔法には、
・初級
・中級
・上級
・最上級
という四段階の分類があるらしい。
これは攻撃、防御、支援、回復すべての系統に共通するものだ。
「アスフィが使っている『ヒール』は初級に当たります」
「ふーん。じゃあ『ハイヒール』は?」
「中級ですね」
「じゃあ、ルクスが使ってたあの炎の嵐は?」
「あれは上級魔法です」
「……あ、そうなんだ」
つまり――
俺に上級魔法をぶち込んだのか、こいつは。
ヒーラーの俺に、回復魔法以外何もできないと予め知っていた俺に、上級魔法を。
普通なら死んでるぞ!?
まぁ、回復魔法しか使えないヒーラーなんて俺くらいだから、想定外だったのかもしれないが……。
「私が使えるのは上級魔法までです」
「え?ルクスは全ての魔法が使えるんじゃないの?」
「いいえ。特に最上級魔法は選ばれた者しか使うことができませんから」
「……へぇ」
俺はルクスが最上級魔法すら扱えるのかと思っていた。
そう思わせるほどの実力を目の当たりにしたからだ。
「ちなみにルクスってランクいくつ?」
「ランクというと等級のことでしょうか?私はS級です」
「……S級!?」
エルザと同じ……!?
いや、大体予想はついていた。
『あらゆる魔法を扱える』とかいうチート持ちなんだし、強いのは当然だろう。
しかし、俺の周りにはA級やS級みたいなバケモノばかりがいる。
もっとこう……B級とかC級のやつと友達になりたいんだけどなぁ……。
「……どうしました?」
「いや、なんでも!で、実際に何種類の魔法を使えるの?」
「今だと……二十種類ほどですね」
「二十種類かぁ……すごいね」
だが、ふと脳裏をよぎる記憶がある。
――母さんは支援魔法だけで十種類使えると言っていた。
もしかして、俺の母さんってとんでもなくすごい人だったんじゃ……?
「凄いんですかね……私はアスフィの方がすごいと思いますが」
「僕なんて全然だよ……だって回復魔法しか使えないんだよ?」
「……え?」
「………え?」
あれ?俺、なんか間違ったこと言った?
ルクスは目を丸くしていた。
「そう……ですか。………なるほど、エルザが言っていたのはこういう事ですか……」
何やら一人で納得しているルクス。俺は何が何だかよく分からなかった。
「ルクスって何歳なの?」
「私ですか?」
「うん、だって小さいし」
「……レイラ……さんが大きすぎるだけです」
……レイラさん、か。まだ仲直りできてないんだな。
まぁ、それもそうか。
レイラがまだルクスに心を開いていない感じだし……。あと、なんかルクスが微妙に勘違いしてる気がするな。
「あの……身長の話だよ?」
「え?……あ、ああ分かっていますよ?もちろん。身長ですよね、はい」
絶対、胸のことと勘違いしただろ。いや、実際小さいけどさ。
「私は二十一になります」
「……え、大人じゃん」
まさかのエルザより年上!?
俺と同じくらいの見た目してるのに!?
見た目と精神年齢が伴ってないエルザ。見た目は小さいが中身は大人のルクス……か。
なんだこのギャップ。
「……何か言いたげですね」
「いや、別に?……大丈夫!まだ成長するよ……たぶん」
「そう……だといいのですが……」
と、胸に手を当てて答えるルクス。
多分、もうそっちは無理だろう……。
***
魔法の授業は順調に進んでいた。
――レイラが来るまでは。
「……で、次は攻撃魔法の詠唱についてですが――」
「アスフィ!一緒に夜ご飯食べにい……こ……なんだまだ居たんだ」
「……はい。すみません、少し長引いてしまいました。……アスフィでは、私はこれで失礼します」
なんだこの空気。めちゃくちゃ修羅場じゃねぇか……。居づらいんですけどー!?
「……なぁ君たち、そろそろ仲直りしてくれない?」
「……アスフィを殺そうとした者を許すなんて無理だよ」
「…………との事なので」
はぁ……。いい加減、仲直りしてくれないと困るんだよなぁ。俺が気まずいんだよ。
「では私は失礼します。また明日」
「うん、ルクスまた明日」
ルクスはそそくさと部屋から出て行った。
「え……?」
「……どうかした?レイラ」
「今、呼び捨てだった」
レイラの声が、ほんの少しだけ低くなる。
「……あぁ、ルクスが〝さん〟は要らないって言うからね」
俺としては、ただ単に呼び方を変えただけのつもりだった。
だけど、レイラの目が、僅かに揺れるのが見えた。
「そう……なんだ」
その言葉には、わずかな間があった。
そして――
またレイラが、不機嫌になった。小さく息を吐きながら、俺は天井を仰ぐ。
「……もうどうしろっていうんだよ……」
ルクスとレイラ、どっちが悪いわけでもない。
だけど、この関係が続く限り、俺の胃は確実に持たない。めんどくさいよ、この関係!
「ねぇアスフィ?」
「どうしたの?」
「……あの女とレイラ、どっちが大事なの?」
レイラの声は、どこか拗ねたような、だけど真剣な響きを帯びていた。
――また、めんどくさいことを言い出した。
俺は心の中で小さくため息をつく。
レイラは、あの模擬戦以来、やたらと距離が近い。
今まで、どちらかといえば控えめで、俺がからかえばすぐにムスッとしたり、顔を赤くして黙り込んだりすることが多かったのに――最近は違う。
なんというか、やたらと感情を表に出すようになった気がする。
今までのレイラは、人見知りで、口数も決して多いとは言えなかった。
でも最近は、俺に対して遠慮なく物を言うようになってきたし、何より――
やたらと俺に過保護すぎる。
「……そんなに気になるの?」
俺がそう聞くと、レイラはじっと俺を見つめた。
その瞳はどこまでも真剣で、俺が軽い気持ちで言った言葉さえも、飲み込んでしまうほどの強い意志があった。
「……うん」
レイラの唇がわずかに動き、俺に向けられたその一言は、やけに重く響いた。
いつもなら、この手の質問は冗談で流せるはずだった。
「バカだなぁ、そんなの決まってるじゃん」と笑いながら、適当に返して、誤魔化せば済む話だった。
なのに――
今のレイラは、違う。
冗談を言えば怒るだろう。適当な返事をすれば、不機嫌になるのは目に見えている。
何より、そんな態度を取れば、彼女のこの真剣な想いを踏みにじることになる。
俺は、どう答えるべきなのか、一瞬迷った。
レイラの問いは単なる好奇心ではない。模擬戦の後、彼女は変わった。
俺に対して過保護になり、感情を隠さなくなった。
それは、俺のためを思ってくれているのか、それとも――
答えを出せないまま、俺は沈黙する。
レイラの期待する答えを、俺は言えるのだろうか。
そのひとつは、剣術修行の時間が変わったことだ。
これまで、俺とレイラは朝も昼も毎日剣術修行に励んでいた。だが、今は違う。
レイラは変わらず朝も昼も剣術に打ち込んでいるが、俺は昼の時間を魔法の勉強に充てることになった。
新しい魔法の先生、ルクス・セルロスフォカロが来たからだ。
彼女は、『あらゆる魔法を扱える』という才能を持つ天才魔法使い。
普通、魔法を扱うには才能や素質が必要とされる。
攻撃魔法を得意とする者は攻撃魔法しか使えないし、防御魔法を得意とする者は防御魔法しか扱えない。
だが、彼女はそのすべてを扱うことができる例外だった。
攻撃、防御、支援、そして回復魔法ですら……彼女はすべての系統の魔法を単独で行使できる。
その圧倒的な力と、白髪に赤い瞳、黒のローブという異質な外見から、彼女はこう呼ばれていた。
――『白い悪魔』と。
***
「ルクスさん」
「……さんは入りません。ルクスで結構です」
「じゃあ、ルクス。はやく魔法教えてよ」
「……教えるのは構いませんが、アスフィは回復魔法以外扱えないのですよね?」
「まぁね。でも知識は大事って気づいたから」
「……分かりました」
ルクスは、しぶしぶと言った感じで頷いた。
どうやら魔法には、
・初級
・中級
・上級
・最上級
という四段階の分類があるらしい。
これは攻撃、防御、支援、回復すべての系統に共通するものだ。
「アスフィが使っている『ヒール』は初級に当たります」
「ふーん。じゃあ『ハイヒール』は?」
「中級ですね」
「じゃあ、ルクスが使ってたあの炎の嵐は?」
「あれは上級魔法です」
「……あ、そうなんだ」
つまり――
俺に上級魔法をぶち込んだのか、こいつは。
ヒーラーの俺に、回復魔法以外何もできないと予め知っていた俺に、上級魔法を。
普通なら死んでるぞ!?
まぁ、回復魔法しか使えないヒーラーなんて俺くらいだから、想定外だったのかもしれないが……。
「私が使えるのは上級魔法までです」
「え?ルクスは全ての魔法が使えるんじゃないの?」
「いいえ。特に最上級魔法は選ばれた者しか使うことができませんから」
「……へぇ」
俺はルクスが最上級魔法すら扱えるのかと思っていた。
そう思わせるほどの実力を目の当たりにしたからだ。
「ちなみにルクスってランクいくつ?」
「ランクというと等級のことでしょうか?私はS級です」
「……S級!?」
エルザと同じ……!?
いや、大体予想はついていた。
『あらゆる魔法を扱える』とかいうチート持ちなんだし、強いのは当然だろう。
しかし、俺の周りにはA級やS級みたいなバケモノばかりがいる。
もっとこう……B級とかC級のやつと友達になりたいんだけどなぁ……。
「……どうしました?」
「いや、なんでも!で、実際に何種類の魔法を使えるの?」
「今だと……二十種類ほどですね」
「二十種類かぁ……すごいね」
だが、ふと脳裏をよぎる記憶がある。
――母さんは支援魔法だけで十種類使えると言っていた。
もしかして、俺の母さんってとんでもなくすごい人だったんじゃ……?
「凄いんですかね……私はアスフィの方がすごいと思いますが」
「僕なんて全然だよ……だって回復魔法しか使えないんだよ?」
「……え?」
「………え?」
あれ?俺、なんか間違ったこと言った?
ルクスは目を丸くしていた。
「そう……ですか。………なるほど、エルザが言っていたのはこういう事ですか……」
何やら一人で納得しているルクス。俺は何が何だかよく分からなかった。
「ルクスって何歳なの?」
「私ですか?」
「うん、だって小さいし」
「……レイラ……さんが大きすぎるだけです」
……レイラさん、か。まだ仲直りできてないんだな。
まぁ、それもそうか。
レイラがまだルクスに心を開いていない感じだし……。あと、なんかルクスが微妙に勘違いしてる気がするな。
「あの……身長の話だよ?」
「え?……あ、ああ分かっていますよ?もちろん。身長ですよね、はい」
絶対、胸のことと勘違いしただろ。いや、実際小さいけどさ。
「私は二十一になります」
「……え、大人じゃん」
まさかのエルザより年上!?
俺と同じくらいの見た目してるのに!?
見た目と精神年齢が伴ってないエルザ。見た目は小さいが中身は大人のルクス……か。
なんだこのギャップ。
「……何か言いたげですね」
「いや、別に?……大丈夫!まだ成長するよ……たぶん」
「そう……だといいのですが……」
と、胸に手を当てて答えるルクス。
多分、もうそっちは無理だろう……。
***
魔法の授業は順調に進んでいた。
――レイラが来るまでは。
「……で、次は攻撃魔法の詠唱についてですが――」
「アスフィ!一緒に夜ご飯食べにい……こ……なんだまだ居たんだ」
「……はい。すみません、少し長引いてしまいました。……アスフィでは、私はこれで失礼します」
なんだこの空気。めちゃくちゃ修羅場じゃねぇか……。居づらいんですけどー!?
「……なぁ君たち、そろそろ仲直りしてくれない?」
「……アスフィを殺そうとした者を許すなんて無理だよ」
「…………との事なので」
はぁ……。いい加減、仲直りしてくれないと困るんだよなぁ。俺が気まずいんだよ。
「では私は失礼します。また明日」
「うん、ルクスまた明日」
ルクスはそそくさと部屋から出て行った。
「え……?」
「……どうかした?レイラ」
「今、呼び捨てだった」
レイラの声が、ほんの少しだけ低くなる。
「……あぁ、ルクスが〝さん〟は要らないって言うからね」
俺としては、ただ単に呼び方を変えただけのつもりだった。
だけど、レイラの目が、僅かに揺れるのが見えた。
「そう……なんだ」
その言葉には、わずかな間があった。
そして――
またレイラが、不機嫌になった。小さく息を吐きながら、俺は天井を仰ぐ。
「……もうどうしろっていうんだよ……」
ルクスとレイラ、どっちが悪いわけでもない。
だけど、この関係が続く限り、俺の胃は確実に持たない。めんどくさいよ、この関係!
「ねぇアスフィ?」
「どうしたの?」
「……あの女とレイラ、どっちが大事なの?」
レイラの声は、どこか拗ねたような、だけど真剣な響きを帯びていた。
――また、めんどくさいことを言い出した。
俺は心の中で小さくため息をつく。
レイラは、あの模擬戦以来、やたらと距離が近い。
今まで、どちらかといえば控えめで、俺がからかえばすぐにムスッとしたり、顔を赤くして黙り込んだりすることが多かったのに――最近は違う。
なんというか、やたらと感情を表に出すようになった気がする。
今までのレイラは、人見知りで、口数も決して多いとは言えなかった。
でも最近は、俺に対して遠慮なく物を言うようになってきたし、何より――
やたらと俺に過保護すぎる。
「……そんなに気になるの?」
俺がそう聞くと、レイラはじっと俺を見つめた。
その瞳はどこまでも真剣で、俺が軽い気持ちで言った言葉さえも、飲み込んでしまうほどの強い意志があった。
「……うん」
レイラの唇がわずかに動き、俺に向けられたその一言は、やけに重く響いた。
いつもなら、この手の質問は冗談で流せるはずだった。
「バカだなぁ、そんなの決まってるじゃん」と笑いながら、適当に返して、誤魔化せば済む話だった。
なのに――
今のレイラは、違う。
冗談を言えば怒るだろう。適当な返事をすれば、不機嫌になるのは目に見えている。
何より、そんな態度を取れば、彼女のこの真剣な想いを踏みにじることになる。
俺は、どう答えるべきなのか、一瞬迷った。
レイラの問いは単なる好奇心ではない。模擬戦の後、彼女は変わった。
俺に対して過保護になり、感情を隠さなくなった。
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