Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

文字の大きさ
27 / 97
第二章 《第一部》ヒーラー 王国篇

第26話 「痛みが刻む、生の証明」

しおりを挟む
気がつくと、俺は見慣れた天井を見上げていた。

どこかで聞こえる風の音。窓の外で揺れるカーテンの隙間から、月の光がうっすらと差し込んでいる。

ここは……城の部屋だ。俺たちが借りている、いつもの場所。
なのに、胸の奥に刺さるような痛みがある。
まるで、ここが見知らぬ場所であるかのような違和感が、体の奥から滲み出ていた。

「……あれ、模擬戦は?」

そう呟いた瞬間、強い衝撃を受けた。

「アスフィ!!」

俺の体に飛び込んできたレイラが、強く、強く抱きしめる。
彼女の体は、小さく震えていた。鼓動が、痛いほどに伝わってくる。

「アスフィ……レイラ、本当に死んだかと思った……!」

レイラの声は、震えていた。
耳元で聞こえる、彼女のか細い声が、まるで胸の奥を掻きむしるように俺の心を締め付ける。

「……ごめん、レイラ」

言葉が、妙に重く感じた。俺のせいで、彼女を泣かせてしまった。
気づくと、レイラの瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。

「……謝るのは、私の方です」

不意に、聞き慣れない声が耳に届く。振り向くと、そこにはルクスがいた。
彼女の顔は、強者のそれではなかった。
彼女はただ、俺を見つめ、申し訳なさそうに眉を寄せていた。

「すみません……アスフィ……あなたには、大変失礼なことを……謝罪させてください」

そう言い、ルクスは深々と頭を下げた。

彼女の言葉は、どこか弱々しく、儚げだった。

だけど――

俺の脳裏には、まだ焼けつくような痛みが残っていた。
皮膚が爛れ、焼き剥がれ、焦げる臭いが鼻を突き、痛みが脳を焼き尽くす――

「うっ……」

思わず、喉の奥から嗚咽が漏れた。

「大丈夫!?アスフィ!?」

レイラが慌てて俺を支える。俺は、自分の手をじっと見つめた。
焼かれたはずの腕。今は、綺麗なままの皮膚がそこにある。

だが――

体が、震えていた。

傷は治っている。だが、心の傷は消えない。

「私のせいです……アスフィ……」

ルクスの声が、震えていた。

「あなたは……とても、辛い思いをしたはずです……」
「……いや、大丈夫ですよ」

そう言ったものの、俺は自分でも何を言っているのか分からなかった。

「本当に強いですね、ルクスさん……僕なんかじゃ、勝てるわけがありません……」

俺はただ、言葉を羅列するしかなかった。
言葉を紡ぐことで、何かを誤魔化そうとしているみたいに。

「そうだ!僕、初めて詠唱を見たんですよ!僕の母さんは詠唱なしで魔法を使うんです!僕の自慢の母さんなんです――」

「……アスフィ」

レイラが、俺を強く抱きしめた。

「もう、心配しないで……大丈夫だから」

「え?レイラ、どうしたの?今日はやけに心配性だね!でも、そんなレイラも可愛いね!ほら、胸が当たってるよ!また触っちゃうよ~ほらほら――」

「いいよ、アスフィが触りたいなら、いくらでも……」

「どうしたの……さ……僕は何とも………………こわかった」

言葉が詰まった。

胸の奥から込み上げるものが、言葉にならないまま、ただ俺の喉を塞いでいた。

焼かれる感覚が、まだ残っている。

ダメージは、すでに完治している。

だけど――

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……。

焼かれて、回復して、焼かれて、回復して――。

それが、俺の記憶の奥深くに刻まれていた。

「僕は……俺は…………怖かったんだ……レイラ」

「…………うん、分かってる」

レイラは、俺の背中を優しく撫でた。

「……何度も炎に焼かれる感覚が消えないんだ。何度も死にたいと思ったんだ!でも……母さんが俺を引き留めてくれた。死ぬなって……」

「……うん」

「だから僕は……俺は生きることに……した」

そう呟いた瞬間、溢れた。俺は、レイラの胸で、ただただ泣いた。
どうしようもなく、情けなく、みっともなく――。

けれど、それでもいいと思えた。

レイラの胸は、温かかった。

彼女の腕が、俺を包み込むように、優しく抱きしめる。
俺は、何度も何度も、彼女の胸で泣いた。

あの炎の痛みが、消えてくれますように。

「………本当にすみませんでした」

ルクスの声は、震えていた。彼女も、きっと後悔しているのだろう。

だけど――

それでも、俺はまだ、あの痛みを忘れられない。

***

ひとしきり泣いて、ようやく俺の呼吸は落ち着きを取り戻した。
それでも、心の奥にこびりついた恐怖が消えることはない。

レイラの胸に顔を埋めたまま、俺は静かに目を閉じた。
このまま、時間が止まってくれたらいいのに。

「……そのニヤケヅラに戻ったということは、落ち着いたかな、アスフィ?」

ふと、聞き慣れた声が部屋に響く。

「……え!?いつから居たの!?」

俺は慌てて顔を上げた。

「……うむ、ずっといたぞ」

エルザは腕を組み、何やら満足げな表情を浮かべている。

――最悪だ。

つまり、俺がレイラの胸で散々泣きじゃくっていたのを、最初から見られていたということか。

死にたい。

「……まぁなんだ、泣きたい気持ちは分かる。私も昔はよく泣いていたものだ。だから私は何も言わない。その柔らか~い胸で今日は休むといい」

「うん、そうするよ。なんだか今日はレイラが優しいから、この胸で休むことにする……」

「……アスフィがそうしたいなら……いいよ」

俺は再びレイラに寄りかかる。

あれ?いいの?

いつもなら、冗談を言えばすぐに拳が飛んできてもおかしくないのに。

「……あの……アスフィ……すみませんでした」

ルクスが再び謝罪の言葉を口にする。

「もういいのに」

そう思った瞬間だった――

「アスフィに近づくなっ!!!!!!!!!」

レイラの怒号が、部屋中に響き渡った。

空気が、一瞬で凍りつく。

「お前のせいでアスフィがこんなことになったんだ!!!!お前はアスフィに近づくな!!!さっさと出てけ!!!」

レイラの体が一瞬で変化する。

『獣化』――彼女の力が宿り、全身の毛並みが逆立つ。

レイラは俺の頭を胸に抱きながら、牙を剥き、ルクスを睨みつけていた。
俺はその光景に、息を呑む。

こんなにも怒るレイラを見るのは、いつ以来だろうか。
俺が剣術の才能がないことを嘆いた、あの日以来じゃないか?いや、それ以上かもしれない。

「お、落ち着いて、レイラ。僕はもう平気だから……」

「……大丈夫だよ、アスフィ。アスフィはレイラが守るから。心配しないで」

レイラの腕が、俺を強く引き寄せる。

その温かさは、安心感を与えるものだった。
だけど――

「……ウソツキ。アスフィ、体が震えてる」

レイラが、俺の腕をぎゅっと握りしめる。俺は気づいていなかった。自分の体が、まだ震えていることに。

何度死んでも死ねない時間。何度も何度も焼かれては回復する。
それが、体に、頭に、記憶に……深く刻み込まれた。

「……ルクスを許してやってくれ、レイラ」

静かに、その場にエルザの声が響いた。

「……確かに彼女は手加減を知らない」

お前が言うな!!!!

「だが、アスフィもまた私が止めなければ、ルクスを殺していたところだ。……痛み分けというところではどうだろうか」

エルザはルクスも悪いが、俺も悪いと結論づけた。

たしかに、俺は模擬戦の最後、ルクスを殺しかけた。
"ヴァニシングヒール"を使い続けていたら、彼女は――。

「……そうだよ、レイラ。僕はもう大丈夫。だから許してあげて?」

「……レイラはまだこの女を許さない。……でもアスフィがいいなら、レイラはもう何も言わない……」

許せはしないが、理解はしたようだ。
レイラは俺をぎゅっと抱きしめたまま、静かに目を閉じる。

「……ありがとうございます。レイラさん」

ルクスが小さく息を吐き、そう呟いた。

「……別に許したわけじゃない」

レイラは最後までレイラだった。

「よし!では仲直りできたということで!本題に入ろう!」

エルザがパンッ!と手を叩き、話し始める。

彼女の切り替えの早さには、もはや驚かない。
でも、空気の読めないエルザが、今はただただありがたかった。

「今回の模擬戦、勝者はアスフィだ!よってルクスはアスフィに魔法を教える!いいね?」

「……あ、そうですね……でも私に教えられるものなんて」

「僕はルクスさんの魔法をもっと知りたいです。使えなくても構いません。この世界にどんな魔法があるのか……それを知るだけでも価値があります。実際僕は今回の魔法を初めて見ましたし」

今回の魔法は、俺にとってトラウマになったかもしれない。だけど、知っていれば対策も練れる。
俺は今まで、攻撃魔法を使える人物に出会わなかった。そもそも、母さん以外の魔法使いに会ったことすらなかった。それが今回の模擬戦で、仇となったわけだ。

「……分かりました。私は敗者の身……教えましょう」

「ありがとうございます!」

こうして俺は、ルクス・セルロスフォカロから魔法を教えてもらうことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...