Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第四章 《第一部》ヒーラー 模索篇

第57話「その名は果実の魔物」

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俺は目を覚ますと、隣で小さな女の子が寝ているのを見つけた。

「…………ん……」

あ、起きた。薄く開いた目がこちらを向く。

この状況は明らかにおかしい。俺は焦りながらも、その小さな女の子に話しかけてみることにした。

「なぁ、おい起きろ」

「……ん~なんだ?……我は腹が減ったぞ」

開口一番、腹が減ったときた。だが、それは俺も同じことだ。

「それは俺も同じだ。それよりもお前は誰だ」

「………お、おお~!また会ったな!『神の子』よ!」

神の子?いきなりそんなことを言われても困る。
そもそも、こいつ誰だよ。俺はこんなやつと会った記憶なんてないぞ。

「目を覚ましたと思ったら今度は『神の子』?誰だよそれ。てか、お前に会うのなんて初めてだよ……」

「ん?お前もしかして我の事を忘れておるのか?」

「俺はこんな小さな女の子知らない」

俺がきっぱりと答えると、白髪の少女は眉をひそめて考え込み始めた。何か思い出そうとしているような仕草だ。

「う~ん……」

しばらく悩んだ末、彼女は突然手を叩いて顔を輝かせた。

「そうだ!思い出したっ!あの時、我フード被っておったわ」

「フード?」

「ほれ、これでどうだ。これで我を思い出しただろう」

そう言いながら、少女は自分の頭にフードを被せた。

それを見た瞬間、俺の脳裏にあの光景が蘇る。
そうだ、こいつはアイリスとの戦いに割り込んできたゼウス・・・とかいう奴じゃないかっ!!

「おいっ!!お前まさかゼウスかっ!」

俺は勢いよくその少女の肩を掴むと、軽く揺らしてしまった。

「わあわあわあ、揺らすなぁ~~~」

「あ……わ、悪い」

求めていた神が急に現れたもんだから、俺は少し興奮してしまった。

「……そうだ、あの時助けたのは我だ感謝しろ」

「いや、確かにあの時は助かったが……お前には聞きたいことが山程ある」

「それは今じゃないとダメか?皆寝ているが」

「………なら場所を移そう」

俺は周囲を見回しながら、彼女に提案した。

みんなを起こさないようにと気を使いながら、俺とゼウスは少し離れた場所へと移動することにした。

***

「……ここなら大丈夫だろう」

辺りは静まり返り、俺とゼウスの声だけが響く。

「……話せ」

俺は小さな岩の陰に腰を下ろし、ゼウスに向き直る。

「で、我に何が聞きたい」

「俺は何者で、お前は何者だ」

真っ直ぐにゼウスを見据えながら尋ねると、彼女は小さな細腕で腕を組み、考え込むような素振りを見せた。

「……お前は『神の子』で我は『神の者』」

「俺が神の子……?」

その言葉に、俺はただ目を見開くことしかできなかった。
 
ゼウスは俺を見据えたまま、その小さな細腕を再び組み直す。

「お前は『シーネット家』で生まれた人間だ・・・

「そうだよ。俺はガーフィ・シーネットとアリア・シーネットの息子だ」

俺は間髪入れずに答えた。それが揺るぎない事実だと信じているからだ。

「しかし、そう思い込んでいるだけだ」

ゼウスの静かな言葉が、まるで氷のように冷たく突き刺さる。

「違うっ!!!俺は冒険者ガーフィ・シーネットとその妻アリア・シーネットの息子だ!!」

思わず声を荒げる俺に、ゼウスはため息をつきながら言葉を続けた。

「……頑固なやつだ。おかしいと思わなかったのか?」

「おかしい?何がだよ?」

「お前は自分が他の者と違う点をいくつも感じたはずだ。その力はなんだ。その姿は?その思想は?」

ゼウスの言葉が胸に刺さる。俺は何も返すことができなかった。その全てに心辺りがあったからだ。

「お前は『この世界の人間』じゃない。しかしこれより詳しい内容は盟約により言えない。これはお前・・自身が神とかわした盟約」

また出た、『盟約』という言葉。

アイリスも同じようなことを言っていた。さらには、俺の中に現れるあいつ・・・も。

「……俺はそんな盟約かわした覚えは無い」

「白々しい」

ゼウスの冷たい声が、さらに俺を苛立たせる。

こいつは何が言いたいんだ。俺をイラつかせたいだけなのか?

「まあいい、我は――」

――ズドンッ

突然の雷鳴が響き渡り、俺は思わず身を竦ませる。

「……うるさいハエだ」

ゼウスは周囲にいたゴブリン達を一瞬で焼き尽くした。焦げた肉の臭いが辺りに漂う。

「……我はお前に忠告しに来た」

「忠告?」

「我の片割れ・・・に注意しろ」

片割れ?なんだそれ。

「それだけだ」

「……そうか、結局お前も何も言ってくれないんだな。神は皆そうなのか?」

俺の呟きに、ゼウスは小さく笑みを浮かべる。

「ポセイドンのやつは何も言ってくれなかったのか」

「ああそうだよ。意味深なことだけ残して何もな」

「……ま、そうだろうな。アイツは神の中でも変神へんじんだ。それ故にお前に同情したのだろう……我もアイツについてはよく知らん」

アイリスが俺に同情?何にだよ。ただの生意気なガキだろ。

「それよりも我は腹が減った。何かくれ」

話は終わりってことか。

やはり俺は自分で探すしかないってことか。

ひとに頼るのではなく、自分で模索・・しろ」

ゼウスはそう言い残し、立ち去る準備を始めた。

***

「おい!どこに行っていたのだアスフィ……ん?」

俺が戻ると、エルザが腕を組みながら声を上げた。

「アスフィ!心配しましたよ……って誰ですかその子」

ルクスも驚きの声を上げる。やはり目立つな、この白髪の少女。

「………ゼウス……あなたも来たのですか」

アイリスだけが冷静な様子で、少女をじっと見つめていた。

「ああこいつは――」

と、俺が言いかけたところでゼウスが堂々と前に出る。

「我の名前はゼーウスだ。よろしく頼む」

ゼウス改め『ゼーウス』はそう言いながら軽く頭を下げた。

「ゼーウスか……うむ、よろしく頼む!」

エルザが満面の笑みで手を差し出した。

「ゼーウスですか……よろしくお願いします」

ルクスも少し警戒しつつ、ゼーウスに頭を下げる。

「…………そう来ましたか……フフッ……お願いしますね?ゼーウス?」

アイリスは少し皮肉めいた笑みを浮かべながら、彼女らしい優雅な態度で受け入れる。

なんで皆、そんな簡単に受け入れてんだよ。そもそもゼーウスってそのまんまじゃねぇか。せめてもうちょっと捻れよ。

俺が紹介する暇もないほど、ゼーウスはすでに仲間として溶け込んでいた。

「我は腹が減ったぞ、なにか食べ物を所望する」

「俺達も探してるんだよ……黙っててくれ、余計腹が減る……」

ゼーウスは俺の言葉にはまったく動じず、さらに腹が減ったとアピールしてくる。

しかし現実は厳しい。この一帯には食料になりそうなものが何もない。あるのはゴブリンだけだ。最悪、エルザの言う通り、緑の化け物を食べることになるかもしれない。

だが、それだけは絶対にゴメンだ。

「お前達はどこへ向かっている?」

ゼーウスが何気なく問いかける。

「『アスガルド帝国』だ」

「うむ、資金を調達しにな!」

エルザが元気よく答える。

「私たちはお金がありませんから、クエストを受ける必要がありますので」

ルクスもその意見に頷く。

「何故だ?」

「生きるため、ですよ?ゼウ……ゼーウスさん?」

アイリスが丁寧に答えるが、どこか皮肉めいた口調だ。

「……そうか、それなら仕方ない。早く我に何か食べさせろ」

「だから俺達も腹減って死にそうなんだって……」

このやりとりを繰り返している間に、空腹はますます酷くなり、足取りも重くなっていく。

……

歩き続けること数時間。それでも『アスガルド帝国』までの道のりはまだ遠い。

「まだあと三日か……」

俺は小さく呟く。
このままだと、本当に何か食べられるものを見つけないと、全員が力尽きるかもしれない。

「……私はもうダメだ。腹が減って力が出ない……誰か変わってくれ」

ついにエルザが弱音を吐いた。あの元気が取り柄のエルザが、こんなにも憔悴するとは……。
その上、緑色はもう見たくないとまで言い出し、その場に大の字で倒れ込んでしまった。

「仕方ないゴブリンを食べ――」

「見てください……!果実の魔物カジュモンです!」

俺が最悪の選択肢を口にしようとしたその瞬間、ルクスが興奮気味に叫びながら指差した。

「果実の魔物……?なんだよそれ」

その方向を見てみると、奇妙な姿をした魔物が佇んでいた。
本体は大きな花のような形をしており、その花からは無数のつるが伸びている。その蔓には、小さな果実がいくつもぶら下がっていた。

「キモ……」

思わず俺は本音を漏らした。

「何を言っているんですか!これはレア魔物ですよ!」

ルクスが俺の言葉を否定し、興奮を隠しきれない様子で答える。

「うむ!これは美味そうだ……じゅるり」

エルザもその姿に反応し、舌なめずりをする。

「我が仕留めよう」

ゼーウスが一歩前に出る。

「やめておきなさいゼーウスさん、あなたがやれば跡形もなく消え去ります。……エルザさん、お願いします」

「任された!!」

エルザが大きくジャンプし、果実の魔物《カジュモン》に向かって剣を振り下ろした。

魔物は一瞬で倒れ、血のように見える赤い果汁を吹き出した。血の雨ならぬ、果汁の雨。

「……なぁ、これ本当に血じゃないよな?」

俺は不安げに尋ねる。

「当たり前です。美味しいですよ?」

ルクスは落ち着いた様子で返事をするが、その赤い果汁の飛沫を見ていると、どうにも食欲が湧かない。

「ハッハッハ!美味い!美味いぞー!!!!!」

エルザはすでに果汁を口にしており、満足げな笑顔を浮かべていた。その姿はまるで血に染まった狂戦士のようだった。

「アスフィもどうだ!?美味いぞ!」

エルザが楽しそうに果汁を勧めてくるが、俺は首を横に振った。

「俺はその実っている果実だけでいい……」

赤い液体にはどうしても手を出す気になれない。

「わたくしは両方遠慮しておきます」

アイリスが冷静な口調で断る。

「我は頂こう」

ゼーウスはさっそく果汁をすすり始めていた。

「私ももちろん頂きます。滅多に見られないので……あとお腹が空いて選り好みしている場合ではないので」

ルクスも果汁に手を伸ばす。

俺は果汁ではなく、実っている果実を選んで口に運んだ。その瞬間、驚くほど甘い香りが口いっぱいに広がった。

「……なんだこれ……美味い……」

果実は想像以上に甘く、口の中にフルーティな風味が溢れ出す。こんな美味いものがこの辺りに生えているとは思わなかった。

だが――。

「………………あれ?」

俺の口元から、ぽたぽたと何かが垂れる。甘さが原因か?いや、違う。

「ヨダレが止まらない……!!」
「おい!お前ら食べるのちょっと待て!…………って遅かったか」

俺が慌てて叫ぶが、すでにエルザ、ルクス、ゼーウスは手遅れだった。

「ん……なんだ~?じゅる」

「なんですかアスフィ~じゅる」

「うま……うま……美味い……じゅる」

三人ともヨダレを垂らしながら、果実を美味そうに食べ続けている。

地面に滴り落ちるヨダレの量が尋常じゃない。
これは見た目のインパクトがデカすぎる……。

「フフッ、一時間近くは止まりませんよ?果実の魔物カジュモンの果汁は、その神をも虜にする甘さと引き換えに、ヨダレが止まらなくなるという………いわば毒です」

「毒かよ!……じゅる」

俺はアイリスの解説に驚きつつも、ヨダレを垂らし続けるしかなかった。

その後、俺たちはアイリスの言う通り、一時間近くヨダレを垂れ流しながら歩くことになった。

空腹は何とか満たされたが、俺はもう二度とこの果実を食べないと誓った。

『アスガルド帝国』到着まであと二日。
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