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修学旅行の英雄譚 Ⅱ
File.1 おやすみ
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夜道を並んで歩く四人の空気は最悪で誰一人として言葉を発しようとしない。
ローランは再び火のついた復讐心ともう彼等に迷惑をかけまいという気持ちの中で揺らぎ、際神は氷翠を傷付けたステインへの怒り、新條は相手を倒しきれなかったもどかしさを感じており、久瀬も自分の非力さを感じ、そして三人の空気を読んで気まずそうにしている。
『自分達の力が相手に適わなかった』
合わせて数十分程度の戦闘でそれを叩きつけられる。
帰り道を数十分歩いて最初にその静寂を破ったのは新條だった。
「なんか、気持ち悪いな」
全員が新條の方を向き首を傾げる。それを見た新條は手を振って否定する。
「ああいや、別に何か含んでる訳じゃなくてな?一応俺達は彼奴らを退けたわけで……言っちまえば事実上『勝った』はずなんだよ。でもあの場にいた俺達四人がこんなテンションで帰るって……てなんてな」
三人が顔を俯かせる。
「だーもう!だから勝ったって言ってんだろ!?辛気臭い顔すんなー!」
「……でもよぉ」
久瀬がおそるおそる声を出す。
「なんだぁ!?」
何か言いたげな顔をしていたが新條の圧に負けて引き下がる。
新條の言葉で初めに調子を戻し始めたのはローラン、そしてそれに続くように悠斗も気合を入れ直す。
「そうだね、まだ負けたわけじゃないんだ。しかもどれだけ不満の残る戦いだったとしても相手を退けたのは僕らなんだし新條君の言うように勝ちでいいじゃないか」
「よっしゃ、そうと決まれば向こう着いてからまた作戦練り直しだな。敵の持ち札は分かったんだ。今度は遅れとってたまるかよ!」
そこまで言ったところで悠斗の携帯が鳴る。こんな時間に誰かと思いながら画面を開くと同時に悠斗の動きが止まった。
その直後に久瀬の携帯も鳴り、画面を着信先を確認した久瀬も悠斗と同じように硬直した。
状況が読めないローランと新條が携帯を覗くと二人して苦笑いする。
この悠斗とローランが最も知られるのを恐れ、そして久瀬が一番今会いたくなかったお姉様方からだった。
『悠斗、詳細は全て舞璃菜から聞いたわよ?早く帰ってらっしゃい』
「……はい」
『ミキ、私です。事情が変わったのでこちらに来ました。とりあえず今夜は……分かりますね?』
「……はい、会長」
携帯を閉じると二人して同じように肩を落とした。
可笑しそうに笑いながら新條が二人の肩に手を置いて訊く。
「それで、お二人はなんて仰ってましたか?」
膝から崩れながらこのあとのことに絶望する二人を見て新條は大笑いし、ローランもお腹を抱えている。
十数分前───
「光崎さーん、悠斗君達大丈夫かな?」
久瀬君が勢いよく出て行ったのはいいもののこちらが静か過ぎてさすがに眠たくなってきた。
「どうだろうか?申し訳ないが俺にもそれは分からない。あの山の灯りはおそらく彼奴らが戦闘している最中なのだろう。」
光崎さんが指を指す方を見るが何も見えない。
「えぇ……なんにも見えないよ?」
目を凝らしても灯りどころか建物すら見えない。彼の視力はどうなっているんだろうか?
「ふあぁ……」
欠伸をして重たくなっていく瞼を起こすために目を擦る。そして目を開けると光崎さんが私の目の前にいた。
「どうした氷翠嬢?眠たいのなら自室のベットに戻ってくれても構わないぞ?」
「ふぇ?」
突然の浮遊感に驚くが眠気が勝り何をされたのか一瞬分からなかった。
「あなたに無理をさせるわけにはいかない。蘇生してからまだ日も浅い内はなるべく安静にしていて欲しい」
「あ、うん、ありがと」
自分の格好を確認するといわゆるお姫様抱っこをされている。
「ヒューヒュー!光崎さんカッコイイぞー」
「いいなぁマリちゃん、私も誰かそういう人いないかなー」
「それならミッキーにやってもらえば?」
「えー、絶対マゼスト君でしょ。されるならイケメンにしてもらいたい!」
草戎ちゃんと水戸部ちゃんに冷やかされて顔が熱くなるけれど、正直嫌な気はしない。だって光崎さんカッコイイし……昔のあんな些細なことでこんなにも私のこと大切にしてくれるし。
「どうした?俺が抱えているんだ、そのまま寝てくれて構わないぞ?」
なんとなく光崎さんの顔をじっと見ていると向こうがそれに気づいて心配するように聞いてくる。なんか自分だけが勝手に意識して馬鹿らしくなってきた。
「はぁ……なんでもない、それじゃぁ私だけ先におやすみしようかな?」
おそらく何を言っても無駄だから素直に連れて行ってもらおう、一日歩き回って疲れたしそのほうが楽でいいよね。
「ちょっとちょっと、マリちゃんが認めたよ!」
「まさかリア充誕生の瞬間に立ち会えるなんて……今日は厄日だ」
「明日教会でお祓いしてもらお?」
「いや、私達日本人だし効かないんじゃない?そもそもこの国に厄日って文化があるかすらわからないし」
また二人が騒ぎ始めたよ……だからそういうのじゃないってのに。こういうのに普通の女子と比べて疎いって分かってるけど、なんですぐにそうやって人と人を繋げたがるんだろ?
自動ドアが開くと同時に光崎さんが外で盛り上がっている二人の方を向いて、
「俺は氷翠嬢をベッドまで運んでくる。すぐに戻るが周辺の警戒を任せるぞ?」
と言う。二人は満面の笑みを浮かべて「ごゆっくりー」と二人手を振って送り出された。
「はぁ、あいつらは一体俺に何を期待しているのやら……」
それを言わないでくださいよ。多方あの二人が何を考えているのかは予想がつく。
「さ、さぁなんだろうね?まぁ女子高生の考えることなんかそんな大したことじゃないよきっと」
自分で言っていて虚しくなるが咄嗟にでてきた言い訳がこれだった。まぁ実際クラスの皆とかいつも服とかスイーツの話ばっかりしてるし的を得てないわけじゃないんだろう。
「高校……学校……か」
そんな呟きが聞こえてふと気になり訊く。
「そういえば光崎さんって学校には行ってないの?」
「………」
あ、もしかして地雷を踏んじゃったかな?腕の中から顔を覗き込んでみても変わらない表情を貼り付けているだけで、何を考えているのか分からない。
「俺はいわゆる兄弟や家族といった者が一人もいない。将来のために教養を得たいとは思っているのだがどうにもそこの壁がな。しかし今はこの生活に不満は無い……いや、全く無いと言えば嘘になるな」
「それは教えてくれるの?」
薄い笑みを浮かべながら階段沿いの窓越しに月を見る、少し上がった踊り場に着くとそこに設置されたベンチに私を下ろした。
「俺には一人だけ友と呼べる者がいる。とある事情で今は仲違いをしているが、身寄りのない俺を迫害せずに受け入れ、そして俺に名をくれた良い奴だった。そしてもう一人……」
「もう一人?」
そこまで言うとハッとなり話を止める。
「いや、なんでもないんだ。とにかくだな、俺は叶うことならもう一度あいつと肩を並べて歩きたいんだ」
いいなぁ、自分にはそこまで言える人はいない。これまで変に意地を張って親に逆らって勝手に家を飛び出して、勝手に真波学園に入学して、勝手に一人暮らし始めて、勝手に……勝手に……勝手に……勝手に……その時に隣には誰もいなかった。だからずっとあっていないのにそうやってもう一度って言えるほどの友達がいることが羨ましい。
「そっか、それなら会えるといいね。その時がきたら私に紹介してよ?光崎さんがそこまで言う人がどんな人か気になっちゃった」
そう言うと少し不機嫌な顔になる。
「む?お嬢には俺がそんなに無情な人間に写るのか?そんなことは無いと思うが……」
「違う違う!そういうつもりで言った訳じゃなくてね?もし光崎さんがその人にまた会うことができたら、私が仲直りの手伝いをしてあげるよって言いたかったの」
一瞬目を丸くしてじっと私の顔を見てくる。な、何か変なこと言ったかな?
「フフ」
「?」
「フフ、ハハハ!うん、うん、それは面白いな!」
今度はさっきの表情から打って変わって声高らかに笑いだした。そんな彼を見てさらに心配になってしまう。
「うん、それなら余計死ねなくなったな。俺の恩人の望みなんだ、何がなんでも叶えてやらないといけないな、親が親なら子も子とはよく言ったものだ」
「どういうこと?」
「俺がなぜ今日この日にお嬢や禁龍と接触したか分かるか?」
「ううん」
首を横に振って否定する。
すると服の内ポケットから携帯を取り出し、一通のメールを見せてくれた。そこにはお父さんからのメッセージが書かれていた。
「俺たちの任務は異端者の排除、コールブランドのレプリカの回収、若しくは破壊。その異端者の中に実はお嬢、あなたも含まれていたんだ」
『光崎君、氷翠だ。突然の連絡ですまない──』
「あなたの通う学校が修学旅行でフランスに来るという情報が本部に知らされ、それと同時に奴らもここにいるという情報が来たことによって俺と真希が異端者の排除任務に任命された。そして後日、氷翠様から俺に直接このメールが来たんだ」
『舞璃菜が教会の異端者になってしまい、排除任務に君が任命されたことは既に聞いている。これは君にしか頼めないことなんだ。なんとしても舞璃菜に接触して守ってやってくれ』
「このメールが来た時は驚いたさ。教会の隅で邪険に扱われていた俺をまさかあの人が覚えているなんて、と」
驚いているのはこちらの方だ。自分の命が狙われていたのは薄々気づいてはいたが、それよりまさかあの民主主義を体現したような人が個人的な感情で動いたことが信じられなかった。周りのために実の娘の私を追い出して、ちゃんと話をしようとしても聞いてくれなかったお父さんがそんな根回しをしているなんて思ってもなかったから。
「これを?本当にお父さんが?」
光崎さんは小さく頷いて肯定する。
「分かってくれたか?あなた達親子はどこまで俺に優しくしてくれるのか……だから俺は絶対にあなたを裏切らないし、彼らを見捨てるようなこともしないと約束しよう」
少しの間静寂が流れる。急に大それたことを言われてしまいどうしようか迷ってしまう。こういう時ってなんて言えばいいんだろう?
「っと、話が逸れたな。それでさっき言った友人は日本の高校に通っているらしくてだな、どこの高校かは分からないがそいつのいるところに俺も行ってみたいと密かに思っている」
「ふーん、光崎さん、その人のこと大好きなんだね?そんなに会いたいんだ」
「会いたいというか、面と向かって話したのがだいたい八年前が最後だからな。携帯で話すこともあるがそれもなかなか……」
『大好き』というところを否定しないあたり本当に大切なんだろうなと分かる。仲違いをしたって言ってたし多分それを本人の前で表に出すのが恥ずかしいんだろうな。
そんなことを考えてニヤけているとまたあの浮遊感に襲われる。
「ここでは冷めてしまうだろう。俺の話は部屋に着いてからでも遅くはない」
自分で歩くからいいよ、と言おうとしたけれどせっかくだしご厚意に甘えるとしますか。
それにしても学校に行きたい、か。家の人に無理言って頼んでみようかな?意外となんとかなりそうな気がする。日本に行けばその人に会える可能性も増すわけだしお父さんと面識があるなら向こうの生活で困ることも無くなるでしょ……多分。
あーでもなー……学校でずっと私に付いてくるだろうしそれをどうやってリーナちゃん先輩と結斗先輩に説明しようか悩むなぁ。この人絶対嘘つけないタイプだから全部正直に言っちゃうよ……結斗さんはこのことを把握してるみたいだから大丈夫だけどこんな勝手をリーナちゃん先輩に知られたらなんて怒られるかわかんないよ。
「誰かこのことがバレるとまずい人でもいるのか?」
「うん、学校の先輩でリーナ先輩っていうんだけど、その人にバレるのだけは絶対になんとかしたいんだよ」
「グランシェールは怒ると怖いからな。しかしまぁ、おそらくあの久瀬の言う『会長』とやらが知らせるだろうな。久瀬と禁龍が繋がっているのならその上もそうだろう」
「あー、たしかにそうなるのかな…………え?」
そこまで言ってあることに気づいてしまい光崎さんの顔をじっと見る。
ちょっと待って、私も悠斗君もマゼスト君も新條君も何も話してないはずだよね?今すっごい自然に話してて何も疑問に思わなかったけどさぁ……。
「なんでリーナちゃん先輩のこと知ってるの?」
それを訊いた途端にまた別のことに気がついた。
「もしかして光崎さんが喧嘩した友人って深那結斗先輩のこと?」
特に驚いた様子もなく頷く。
「なんだ、お嬢も既に知っているのか。にしてもなぜ二人のことを同時に知る?あの二人はあの後別れたはずじゃないのか?言伝でしかその後を聞いたこと無かったからよく知らないんだ」
「リーナちゃん先輩と結斗先輩は同じ学校で同学年だよ。それで私と悠斗君と新條君とマゼスト君と久瀬君はその一個したの後輩」
偶然にしてもこんなことって本当にあるんだ。どういう巡り合わせ一体?
「運命とやらは不思議なものだな、まさかこんなところでまた会えるとは思ってもなかった」
部屋に到着してベッドに下ろされる。光崎さんは近くの椅子に座ってまた月を見て笑う。
「ん?……あれは?」
感慨にふけっていたように見えた光崎さんがなにかに気づいて窓からホテル前の広場を見下ろす。
「なになに…………げっ」
私も気になって隣から窓の外を見ろ下ろすと、そこには見覚えのある制服を着た金髪の女の人とその隣に黒髪の女の人がいた。
「ほんと……運命ってやつは……はぁ……不思議なものだね」
あああぁぁぁ……なんというフラグ回収、リーナちゃん先輩ほんとに来ちゃったよ。
「光崎さん、下行こ」
返事も待たずに重い足取りで外に向かう。
「お嬢?寝なくてもいいのか?」
いっそここで狸寝入りしてやろうかと考えたがそれは今頑張ってる四人に悪いと思い踏みとどまる。
「いい、もう眠くない……」
二人でホテルから出ると予想通り、というかこの人しかいない、リーナちゃん先輩が生徒会の二人と何か話しており、こっちに気づくと一瞬驚いた顔をするがすぐに手招きで「こっちに来なさい」と言われた。
「ああああああああぁぁぁぁすみませんでしたぁぁ!」
ローランは再び火のついた復讐心ともう彼等に迷惑をかけまいという気持ちの中で揺らぎ、際神は氷翠を傷付けたステインへの怒り、新條は相手を倒しきれなかったもどかしさを感じており、久瀬も自分の非力さを感じ、そして三人の空気を読んで気まずそうにしている。
『自分達の力が相手に適わなかった』
合わせて数十分程度の戦闘でそれを叩きつけられる。
帰り道を数十分歩いて最初にその静寂を破ったのは新條だった。
「なんか、気持ち悪いな」
全員が新條の方を向き首を傾げる。それを見た新條は手を振って否定する。
「ああいや、別に何か含んでる訳じゃなくてな?一応俺達は彼奴らを退けたわけで……言っちまえば事実上『勝った』はずなんだよ。でもあの場にいた俺達四人がこんなテンションで帰るって……てなんてな」
三人が顔を俯かせる。
「だーもう!だから勝ったって言ってんだろ!?辛気臭い顔すんなー!」
「……でもよぉ」
久瀬がおそるおそる声を出す。
「なんだぁ!?」
何か言いたげな顔をしていたが新條の圧に負けて引き下がる。
新條の言葉で初めに調子を戻し始めたのはローラン、そしてそれに続くように悠斗も気合を入れ直す。
「そうだね、まだ負けたわけじゃないんだ。しかもどれだけ不満の残る戦いだったとしても相手を退けたのは僕らなんだし新條君の言うように勝ちでいいじゃないか」
「よっしゃ、そうと決まれば向こう着いてからまた作戦練り直しだな。敵の持ち札は分かったんだ。今度は遅れとってたまるかよ!」
そこまで言ったところで悠斗の携帯が鳴る。こんな時間に誰かと思いながら画面を開くと同時に悠斗の動きが止まった。
その直後に久瀬の携帯も鳴り、画面を着信先を確認した久瀬も悠斗と同じように硬直した。
状況が読めないローランと新條が携帯を覗くと二人して苦笑いする。
この悠斗とローランが最も知られるのを恐れ、そして久瀬が一番今会いたくなかったお姉様方からだった。
『悠斗、詳細は全て舞璃菜から聞いたわよ?早く帰ってらっしゃい』
「……はい」
『ミキ、私です。事情が変わったのでこちらに来ました。とりあえず今夜は……分かりますね?』
「……はい、会長」
携帯を閉じると二人して同じように肩を落とした。
可笑しそうに笑いながら新條が二人の肩に手を置いて訊く。
「それで、お二人はなんて仰ってましたか?」
膝から崩れながらこのあとのことに絶望する二人を見て新條は大笑いし、ローランもお腹を抱えている。
十数分前───
「光崎さーん、悠斗君達大丈夫かな?」
久瀬君が勢いよく出て行ったのはいいもののこちらが静か過ぎてさすがに眠たくなってきた。
「どうだろうか?申し訳ないが俺にもそれは分からない。あの山の灯りはおそらく彼奴らが戦闘している最中なのだろう。」
光崎さんが指を指す方を見るが何も見えない。
「えぇ……なんにも見えないよ?」
目を凝らしても灯りどころか建物すら見えない。彼の視力はどうなっているんだろうか?
「ふあぁ……」
欠伸をして重たくなっていく瞼を起こすために目を擦る。そして目を開けると光崎さんが私の目の前にいた。
「どうした氷翠嬢?眠たいのなら自室のベットに戻ってくれても構わないぞ?」
「ふぇ?」
突然の浮遊感に驚くが眠気が勝り何をされたのか一瞬分からなかった。
「あなたに無理をさせるわけにはいかない。蘇生してからまだ日も浅い内はなるべく安静にしていて欲しい」
「あ、うん、ありがと」
自分の格好を確認するといわゆるお姫様抱っこをされている。
「ヒューヒュー!光崎さんカッコイイぞー」
「いいなぁマリちゃん、私も誰かそういう人いないかなー」
「それならミッキーにやってもらえば?」
「えー、絶対マゼスト君でしょ。されるならイケメンにしてもらいたい!」
草戎ちゃんと水戸部ちゃんに冷やかされて顔が熱くなるけれど、正直嫌な気はしない。だって光崎さんカッコイイし……昔のあんな些細なことでこんなにも私のこと大切にしてくれるし。
「どうした?俺が抱えているんだ、そのまま寝てくれて構わないぞ?」
なんとなく光崎さんの顔をじっと見ていると向こうがそれに気づいて心配するように聞いてくる。なんか自分だけが勝手に意識して馬鹿らしくなってきた。
「はぁ……なんでもない、それじゃぁ私だけ先におやすみしようかな?」
おそらく何を言っても無駄だから素直に連れて行ってもらおう、一日歩き回って疲れたしそのほうが楽でいいよね。
「ちょっとちょっと、マリちゃんが認めたよ!」
「まさかリア充誕生の瞬間に立ち会えるなんて……今日は厄日だ」
「明日教会でお祓いしてもらお?」
「いや、私達日本人だし効かないんじゃない?そもそもこの国に厄日って文化があるかすらわからないし」
また二人が騒ぎ始めたよ……だからそういうのじゃないってのに。こういうのに普通の女子と比べて疎いって分かってるけど、なんですぐにそうやって人と人を繋げたがるんだろ?
自動ドアが開くと同時に光崎さんが外で盛り上がっている二人の方を向いて、
「俺は氷翠嬢をベッドまで運んでくる。すぐに戻るが周辺の警戒を任せるぞ?」
と言う。二人は満面の笑みを浮かべて「ごゆっくりー」と二人手を振って送り出された。
「はぁ、あいつらは一体俺に何を期待しているのやら……」
それを言わないでくださいよ。多方あの二人が何を考えているのかは予想がつく。
「さ、さぁなんだろうね?まぁ女子高生の考えることなんかそんな大したことじゃないよきっと」
自分で言っていて虚しくなるが咄嗟にでてきた言い訳がこれだった。まぁ実際クラスの皆とかいつも服とかスイーツの話ばっかりしてるし的を得てないわけじゃないんだろう。
「高校……学校……か」
そんな呟きが聞こえてふと気になり訊く。
「そういえば光崎さんって学校には行ってないの?」
「………」
あ、もしかして地雷を踏んじゃったかな?腕の中から顔を覗き込んでみても変わらない表情を貼り付けているだけで、何を考えているのか分からない。
「俺はいわゆる兄弟や家族といった者が一人もいない。将来のために教養を得たいとは思っているのだがどうにもそこの壁がな。しかし今はこの生活に不満は無い……いや、全く無いと言えば嘘になるな」
「それは教えてくれるの?」
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「俺には一人だけ友と呼べる者がいる。とある事情で今は仲違いをしているが、身寄りのない俺を迫害せずに受け入れ、そして俺に名をくれた良い奴だった。そしてもう一人……」
「もう一人?」
そこまで言うとハッとなり話を止める。
「いや、なんでもないんだ。とにかくだな、俺は叶うことならもう一度あいつと肩を並べて歩きたいんだ」
いいなぁ、自分にはそこまで言える人はいない。これまで変に意地を張って親に逆らって勝手に家を飛び出して、勝手に真波学園に入学して、勝手に一人暮らし始めて、勝手に……勝手に……勝手に……勝手に……その時に隣には誰もいなかった。だからずっとあっていないのにそうやってもう一度って言えるほどの友達がいることが羨ましい。
「そっか、それなら会えるといいね。その時がきたら私に紹介してよ?光崎さんがそこまで言う人がどんな人か気になっちゃった」
そう言うと少し不機嫌な顔になる。
「む?お嬢には俺がそんなに無情な人間に写るのか?そんなことは無いと思うが……」
「違う違う!そういうつもりで言った訳じゃなくてね?もし光崎さんがその人にまた会うことができたら、私が仲直りの手伝いをしてあげるよって言いたかったの」
一瞬目を丸くしてじっと私の顔を見てくる。な、何か変なこと言ったかな?
「フフ」
「?」
「フフ、ハハハ!うん、うん、それは面白いな!」
今度はさっきの表情から打って変わって声高らかに笑いだした。そんな彼を見てさらに心配になってしまう。
「うん、それなら余計死ねなくなったな。俺の恩人の望みなんだ、何がなんでも叶えてやらないといけないな、親が親なら子も子とはよく言ったものだ」
「どういうこと?」
「俺がなぜ今日この日にお嬢や禁龍と接触したか分かるか?」
「ううん」
首を横に振って否定する。
すると服の内ポケットから携帯を取り出し、一通のメールを見せてくれた。そこにはお父さんからのメッセージが書かれていた。
「俺たちの任務は異端者の排除、コールブランドのレプリカの回収、若しくは破壊。その異端者の中に実はお嬢、あなたも含まれていたんだ」
『光崎君、氷翠だ。突然の連絡ですまない──』
「あなたの通う学校が修学旅行でフランスに来るという情報が本部に知らされ、それと同時に奴らもここにいるという情報が来たことによって俺と真希が異端者の排除任務に任命された。そして後日、氷翠様から俺に直接このメールが来たんだ」
『舞璃菜が教会の異端者になってしまい、排除任務に君が任命されたことは既に聞いている。これは君にしか頼めないことなんだ。なんとしても舞璃菜に接触して守ってやってくれ』
「このメールが来た時は驚いたさ。教会の隅で邪険に扱われていた俺をまさかあの人が覚えているなんて、と」
驚いているのはこちらの方だ。自分の命が狙われていたのは薄々気づいてはいたが、それよりまさかあの民主主義を体現したような人が個人的な感情で動いたことが信じられなかった。周りのために実の娘の私を追い出して、ちゃんと話をしようとしても聞いてくれなかったお父さんがそんな根回しをしているなんて思ってもなかったから。
「これを?本当にお父さんが?」
光崎さんは小さく頷いて肯定する。
「分かってくれたか?あなた達親子はどこまで俺に優しくしてくれるのか……だから俺は絶対にあなたを裏切らないし、彼らを見捨てるようなこともしないと約束しよう」
少しの間静寂が流れる。急に大それたことを言われてしまいどうしようか迷ってしまう。こういう時ってなんて言えばいいんだろう?
「っと、話が逸れたな。それでさっき言った友人は日本の高校に通っているらしくてだな、どこの高校かは分からないがそいつのいるところに俺も行ってみたいと密かに思っている」
「ふーん、光崎さん、その人のこと大好きなんだね?そんなに会いたいんだ」
「会いたいというか、面と向かって話したのがだいたい八年前が最後だからな。携帯で話すこともあるがそれもなかなか……」
『大好き』というところを否定しないあたり本当に大切なんだろうなと分かる。仲違いをしたって言ってたし多分それを本人の前で表に出すのが恥ずかしいんだろうな。
そんなことを考えてニヤけているとまたあの浮遊感に襲われる。
「ここでは冷めてしまうだろう。俺の話は部屋に着いてからでも遅くはない」
自分で歩くからいいよ、と言おうとしたけれどせっかくだしご厚意に甘えるとしますか。
それにしても学校に行きたい、か。家の人に無理言って頼んでみようかな?意外となんとかなりそうな気がする。日本に行けばその人に会える可能性も増すわけだしお父さんと面識があるなら向こうの生活で困ることも無くなるでしょ……多分。
あーでもなー……学校でずっと私に付いてくるだろうしそれをどうやってリーナちゃん先輩と結斗先輩に説明しようか悩むなぁ。この人絶対嘘つけないタイプだから全部正直に言っちゃうよ……結斗さんはこのことを把握してるみたいだから大丈夫だけどこんな勝手をリーナちゃん先輩に知られたらなんて怒られるかわかんないよ。
「誰かこのことがバレるとまずい人でもいるのか?」
「うん、学校の先輩でリーナ先輩っていうんだけど、その人にバレるのだけは絶対になんとかしたいんだよ」
「グランシェールは怒ると怖いからな。しかしまぁ、おそらくあの久瀬の言う『会長』とやらが知らせるだろうな。久瀬と禁龍が繋がっているのならその上もそうだろう」
「あー、たしかにそうなるのかな…………え?」
そこまで言ってあることに気づいてしまい光崎さんの顔をじっと見る。
ちょっと待って、私も悠斗君もマゼスト君も新條君も何も話してないはずだよね?今すっごい自然に話してて何も疑問に思わなかったけどさぁ……。
「なんでリーナちゃん先輩のこと知ってるの?」
それを訊いた途端にまた別のことに気がついた。
「もしかして光崎さんが喧嘩した友人って深那結斗先輩のこと?」
特に驚いた様子もなく頷く。
「なんだ、お嬢も既に知っているのか。にしてもなぜ二人のことを同時に知る?あの二人はあの後別れたはずじゃないのか?言伝でしかその後を聞いたこと無かったからよく知らないんだ」
「リーナちゃん先輩と結斗先輩は同じ学校で同学年だよ。それで私と悠斗君と新條君とマゼスト君と久瀬君はその一個したの後輩」
偶然にしてもこんなことって本当にあるんだ。どういう巡り合わせ一体?
「運命とやらは不思議なものだな、まさかこんなところでまた会えるとは思ってもなかった」
部屋に到着してベッドに下ろされる。光崎さんは近くの椅子に座ってまた月を見て笑う。
「ん?……あれは?」
感慨にふけっていたように見えた光崎さんがなにかに気づいて窓からホテル前の広場を見下ろす。
「なになに…………げっ」
私も気になって隣から窓の外を見ろ下ろすと、そこには見覚えのある制服を着た金髪の女の人とその隣に黒髪の女の人がいた。
「ほんと……運命ってやつは……はぁ……不思議なものだね」
あああぁぁぁ……なんというフラグ回収、リーナちゃん先輩ほんとに来ちゃったよ。
「光崎さん、下行こ」
返事も待たずに重い足取りで外に向かう。
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いっそここで狸寝入りしてやろうかと考えたがそれは今頑張ってる四人に悪いと思い踏みとどまる。
「いい、もう眠くない……」
二人でホテルから出ると予想通り、というかこの人しかいない、リーナちゃん先輩が生徒会の二人と何か話しており、こっちに気づくと一瞬驚いた顔をするがすぐに手招きで「こっちに来なさい」と言われた。
「ああああああああぁぁぁぁすみませんでしたぁぁ!」
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一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
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