私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?

あんど もあ

文字の大きさ
1 / 7

しおりを挟む
 王都の外れの農業地帯(通称・村)のそのまた外れの、後ろは森に続く古く小さな家に、私は一人で住んでいる。

 朝日がさす大きな窓の下で刺繍をしていると、遠くから馬のひづめの音が聞こえてきたので出迎えに向かう。
 ドアを開けると間もなく馬に乗ったジェイクが庭に走り込んで来た。私より二歳年上の大柄な男が馬から降りる。黒髪が風で乱れている。

「よお、アイリス。ご希望の物を買ってきたぜ」
「ありがとう、ジェイク! 助かるわ」
 馬に積んである小麦粉や卵や砂糖を受け取る。市場でする買い物も楽しいのだが、重い物は家に運ぶまでに腕がもげそうになるので、時々ジェイクに買い物をお願いしている。

「新しいクッキーが成功したら持って行くわね。マーサおばさんと試食してみて」
 品物代に足代を足した金額をジェイクに渡す。
「新しいクッキーか。アイリスはすごいな」
「すごく無いわよ。本を見て作るんだもの」
 ジェイクが荷物運びを手伝ってくれる。

「うちの母親なんて本なんて見ないで適当に作ってるよ」
「見ないで作れる方がすごいのよ」
 テーブルの上に荷物を置くと、ジェイクは私のやりかけの刺繍に目を留めた。

「相変わらず細かい刺繍だな。よく出来るもんだ」
「ふふっ、そう見えるけど実際は同じモチーフを組み合わせてるだけなのよ」

 私は没落貴族の娘アイリス、23歳。五年前からここに住み、刺繍で生活している。

 刺繍と言っても、貴族用の繊細な物では無く、平民の服の布の補強のためのもの。子供服や作業着を丈夫に、華やかにしている。

 デザインは他国の民族衣装を参考にした。複雑なモチーフを組み合わせるデザインで、組み合わせ次第で小さな子供服でも大人の作業用チュニックでも合わせる事ができる。モチーフには複数の色の糸を使うので、服の色やデザインに合わせて糸を選べば、出来上がる種類は無限大なのが受けている。
 最近は、農業の片手間に刺繍をしたいという女性たちに教えてもいる。まだ商品にできるレベルでは無いが、家族は喜んで着ているそうだ。



 そんな時、遠くからガラガラという音が聞こえた。
「馬車が近付いてくる音がするぞ?」
 二人で外に出ると、朝日にキラキラ輝く馬車が家に向かって走って来るのが見える。
「……あの派手な馬車は…」

 近くになると紋章が外されているのが見えるが、キラキラするあの螺鈿細工らでんざいくは王家の馬車だ。
 うちの先には家は無い。目指すはここだろう。

 案の定、うちの前に馬車が止まり、中から騎士服を着た男性が身軽に降りた。
 こちらに近付いて来ると、それは私より一、二歳年下の、明るい栗色の髪に綺麗な青い瞳の、人懐こそうな笑顔の青年だと分かった。
 彼は私の前に来ると一礼する。
「突然失礼します。アイリス嬢ですね?」
 瞳が朝日に反射して金色に光った。

「どうぞアイリスとお呼びください。私は今は平民ですので」
「それではアイリスさん。私の事はカールとお呼びください」
「お心遣いありがとうございます。ですが、私には過ぎたお申し出ですので遠慮させていただきます」
 苗字を言えよ! 貴族に名前呼びなんか出来るか!

「アイリスさん、王城に呼び出しです」
と、羊皮紙をわたす。開けてみると、確かに私宛で、王城に参内さんだいするよう書かれている。しかも今日。

「急ですわね。私は王に謁見できるようなドレスを持っておりませんわ」
「もう王城に王はいませんよ。いるのはベータムの役人だけです」

 そうだった。

 昨年即位したアルファス王国の若き王は、今年隣国ベータム王国に戦争を仕掛け、あっさり敗北した。王族は皆処刑されたらしい。
 ベータムの役人が私に何の用なのか。

 何にせよ「行かない」と言う選択肢は無い。城まで片道2.3時間なので、一日潰れるなぁ。
 私は、念のため一着だけ持っていた飾りの無いシンプルな紺色のドレスに着替えて、長い金色の髪をハーフアップにする。

 心配するジェイクに安心するように言って、馬車に乗り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

公爵閣下、社交界の常識を学び直しては?

碧井 汐桜香
ファンタジー
若い娘好きの公爵は、気弱な令嬢メリシアルゼに声をかけた。 助けを求めるメリシアルゼに、救いの手は差し出されない。 母ですら、上手くやりなさいと言わんばかりに視線をおくってくる。 そこに現れた貴婦人が声をかける。 メリシアルゼの救いの声なのか、非難の声なのか。

いつまでもドアマットと思うなよ

あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。

その婚約破棄、卒業式では受け付けておりません

ファンタジー
卒業パーティの最中、第一王子アデルは突如として婚約者クラリッサに婚約破棄を宣言する。 いわゆる『公開断罪』のはずだった。 しかし、周囲は談笑を続け、誰一人としてその茶番に付き合おうとしない。 困惑する王子と令嬢たちの前に立ったのは……。 ※複数のサイトに投稿しています。

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...