私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?

あんど もあ

文字の大きさ
2 / 7

 畑の中の道を馬車は進む。馬車の乗り心地はいいのだが、すれ違う人が皆派手な馬車にびっくりするのでいたたまれない。窓のカーテンに隠れる。

「目立つ馬車ですみません。何人もの護衛でがちがちに固めるより、これで行った方がいいかと思って」
「分かっております」

 ぜいを凝らした馬車を作るのは、財力を見せびらかすためではない。“いかにも高貴な人が乗っている馬車”にすることによって、大抵の人がその馬車に近づこうとしなくなる。それでも近づこうとする人だけを警戒すればいいのだ。馬車一つで警備の手間がずっと少なくなる。

「でも、私などに護衛など必要ありませんのに」
「そんなことありません。アイリスさんを安全に城まで届けるよう言いつかっております」
「騎士様は仕事熱心ですのね」
「安全と言えば、アイリスさんはあの家にお一人で住んでらして不用心では無いのですか?」
「ええ、村は行き止まりなので“通過する人”がいないのです。見覚えの無い人がいたら、あっという間に村中に広まりますわ。今頃、村では寝たきりのソーラばあさんだってこの馬車のことを知ってますわよ」
「でも、以前は貴族だったので、ご不自由でしょう」
「もう慣れましたわ」

 最初は大変だった。お茶を飲むのに、水汲みをしてまきを割ってお湯をわかさないといけないなんて。お風呂に入ろうとしたら、半日かけて割った薪が無くなってしまうなんて。なるほど、屋敷に使用人が何人も必要なわけだ、と納得した。

 でも、今は自分の世話くらい自分でできるようになった。手抜きも覚えた。家も料理も完璧にしようなんて思わなければやっていけるものだ。
 

 王都の繁華街に入る。街は賑わい、戦争の爪痕など無いようだ。短期間で戦争が終わって良かった。
 馬車は誰に襲われる事もなく王城に着いた。
 馬車から降りると、騎士様は薄い色のレンズの眼鏡をかけて、降りる私に手を差し出す。眼鏡の騎士様は、ちょっと大人に見える。

 騎士様に案内されるままに城を進む。

 着いたのは、普通の公務室の一つだった。大きな机に向かっていた貫禄のある年配の男性が出迎えてくれる。見覚えの無い人なので、多分ベータムの役人だろう。小さな机に向かって仕事をしている十人程の文官はアルファス人のようだ。

 年配の男性に、部屋の片隅にある応接コーナーに案内される。ソファに座ると、騎士様は私の後ろに立った。もう護衛は要らないのに。
 年配の男性は、ソルドレイルと名乗った。
「さて、アイリス・コンウォール侯爵令嬢、でいいですかな?」
「いいえ、コンウォール家からは籍を抜きました。今は平民のアイリスですわ」
「それはアズール国王陛下との婚約破棄のせいで?」
「はい。当時は彼はまだ王太子でしたが…。もう五年も前です」
「いやいや、私の歳になると五年なんて“ちょっと前”でしてね。申し訳ないが、何があったか詳しく教えてもらえませんか?」
「よくある話かと思いますが…」

 私は、幼い頃から四歳年上のこの国の王太子・アズールの婚約者だった。二人は仲の良いまま成長し、このまま結婚するのだろうと、私も周囲も思っていた。

 だが五年前に、アズールがパトリシア・シモンズ伯爵令嬢と恋に落ちた。

「私はショックでしたが、人の心はどうしようもありません。シモンズ家は家格も問題ないし、パトリシア様も優秀な方でしたので、婚約者のすげ替えになっても誰も異を唱えないお相手でした。でも、それはスムーズに行かなかったのです」

 アズール様は恋に狂った。あらゆるものが自分とパトリシアを引き裂こうとしていると思い込んだ。

「私がパトリシア様と話すと彼女をおとしめたと言い、話さないとないがしろにしたと言う。その態度に周りの貴族が反感を持つと、私が扇動してると言う。それを注意する臣下を遠ざける。何もかも悪く受け取られ、もう、面倒くさくなってしまって…」

 私がパトリシア様を謀殺しようとしたとの冤罪をかけて婚約破棄を言い渡した時には、これで解放されると喜んでしまったくらいだ。

 証拠も無いお粗末な冤罪だが罪は罪、私は国外追放か王都追放かどこか遠い修道院か、と思ったのだが、目の届かない所に行かれても心配のようで、私は没落貴族の娘という事にして王都のはずれの村に住むことになった。

あなたにおすすめの小説

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

婚約破棄は大歓迎! 悪役令嬢は辺境でぐうたらスローライフを送りたい ~二度寝を邪魔する奴は、王太子でも許しません~

小林 れい
ファンタジー
煌びやかな夜会で、婚約者であるジークフリート王太子から「婚約破棄」を突きつけられた公爵令嬢ユーラリア。 「身に覚えのない罪」で断罪される彼女に、周囲は同情の視線を向けるが——。 (((きたぁぁぁ! 自由だ! これで毎日、お昼過ぎまで寝られる!!))) 実は彼女、前世の記憶を持つ転生者。 過労死した前世の反省から、今世の目標は「絶対に働かないこと」。 王妃教育という名の地獄から解放されたユーラリアは、慰謝料として手に入れた北の果ての別荘へと意気揚々と旅立つ。 待っていたのは、フカフカの羽毛布団と、静かな森。 彼女はただ、お菓子を食べて、二度寝をして、ダラダラ過ごしたいだけだった。 しかし——。 「眩しいから」と魔法で空を曇らせれば、**『干ばつを救った聖女』と崇められ。 「動くのが面倒だから」と転移魔法でティーカップを寄せれば、『失伝した超魔法の使い手』**と驚愕される。 さらに、自分を捨てたはずの王太子が「君の愛が恋しい」と泣きつき、隣国の冷徹な軍事公爵までが「君の合理的な休息術に興味がある」と別荘に居座り始めて……!? 「お願いですから、私の睡眠を邪魔しないでいただけますか?」 勘違いと怠惰が加速する、最強ニート令嬢のスローライフ(?)物語!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?

もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。 政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。 王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。 王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。 オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

わたしと婚約破棄? では、一族の力を使って復讐させていただきますね

ともボン
恋愛
 伯爵令嬢カスミ・リンドバーグは、第二王太子シグマとの婚約お披露目パーティーで衝撃的な告白をされる。 「カスミ・リンドバーグ! やはりお前とは結婚できない! なのでこの場において、この僕――ガルディア王国の第二王太子であるシグマ・ガルディアによって婚約を破棄する!」  理由は、カスミが東方の血を引く“蛮族女”だから。  さらにシグマは侯爵令嬢シルビアを抱き寄せ、彼女と新たに婚約すると貴族諸侯たちに宣言した。  屈辱に染まる大広間――だが、カスミの黒瞳は涙ではなく、冷ややかな光を宿していた。 「承知しました……それではただいまより伯爵令嬢カスミ・リンドバーグではなく、ガルディア王国お庭番衆の統領の娘――カスミ・クレナイとして応対させていただきます」  カスミが指を鳴らした瞬間、ホール内に潜んでいたカスミの隠密護衛衆が一斉に動き出す。  気がつけばシグマは王城地下牢の中だった。  そこに現れたのは、国王バラモンと第一王太子キース――。  二人はカスミこそ隣国との戦争で王国を勝利へ導いたクレナイ一族の姫であり、シグマの暴挙は王家にとっても許されぬ大罪だとしてシグマとの縁を切った。  それだけではなく、シグマには想像を絶する処罰が下される。  これは婚約破棄から生まれる痛快な逆転劇と新たなラブストーリー。